# 1190『Chris Pitsiokos, Philip White/PAROXYSM』『Weasel Walter and Chris Pitsiokos/Drawn and Quartered』

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Text by 剛田武  Takeshi Goda

『Chris Pitsiokos, Philip White/Paroxysm』

Carrier 029

Chris Pitsiokos (as)
Philip White (electronics)

1. Part I
2. Part II
3. Part III
4. Part IV
5. Part V
6. Part VI

All music by Chris Pitsiokos and Philip White
Recorded, mixed and mastered by Philip White
Recorded at JACK in Brooklyn, NY
Art by Paola Hivelin

『Weasel Walter and Chris Pitsiokos/Drawn and Quartered』

One Hand Records 0H0004 (LP)

Weasel Walter (ds)
Chris Pitsiokos (as)

A1 Hanged
A2 Drawn
B1 Quartered

Recorded in Queens, NY on May 1st and 3rd, 2014
Artwork by Paola Hivelin

 

「ジャズ」の概念を拡張するニューヨーク即興シーンの鮮烈なドキュメント

今号からスタートしたマンスリー・コラム『Jazz Right Now』で「最もエキサイティングな若い才能」と評されるクリス・ピッツィオコスの新作が2ヶ月連続でリリースされた。1月にスウェーデンの即興アーティストとのトリオで来日したニューヨーク・シーンのベテラン・サックス奏者ジョン・イラバゴン(Live Report #774)も「彼は面白いね。それにすごく若い」と相好を崩していた。まるでブルックリン即興音楽スクールの在校生が、久々のフレッシュマンを歓迎し、温かい目で見守っているかのようである。2012年にブルックリンにやってきた20歳そこそこの若きサックス奏者クリス・ピッツィオコスが、風雲児として活躍することが、先輩音楽家たちを奮い立たせ、シーンの活性化の一因となったと言えるのではなかろうか。

ピッツィオコス自身が語るように、住居費が高騰するブルックリンでの芸術家・音楽家の生活は楽ではない。それでもこの場所で常に新たな芸術表現が創造され続ける理由は、ニューヨークという街の磁力と言うしかない。それは即興音楽に於いては、数多くの才能が出会い切磋琢磨することで生まれるケミストリー(化学反応)でありアルケミー(錬金術)に他ならない。シーンに飛び込んで3年目になるピッツィオコスの新作には、数多くの先輩音楽家との共演によるケミストリーで磨き上げられた輝きが宿っている。

ハンドメイドの電子楽器によるエレクトロニクス演奏で知られ、これまでジム・ジャームッシュ、ジョン・ブッチャー、中村としまる、足立智美など数多くのフリージャズ、即興音楽家と共演して来たフィリップ・ホワイト(1981年生まれ)とは、2013年夏に初めて共演した。即座にお互いの音楽志向・演奏態度の共通性を認め合い、6ヶ月間リハーサルとライヴを重ね、ジャズ、現代音楽、ノイズを有機的に融合した独自の音楽言語を生み出した。同年12月、コラボレーションの節目としてスタジオ・レコーディングされたのが『パロクシズム Paroxysm』である。「発作」を意味するタイトル通り、音と音が突発的な痙攣を起こし、摩擦で軋み合い、聴き手の脳髄を麻痺させるように刺激する。60年代半ばにアンディ・ウォーホルがヴェルヴェット・アンダーグラウンドを起用して開催したマルチメディア・イベント「不可避的に爆発するプラスティック Exploding Plastic Inevitable」に準えて、ピッツィオコスとホワイトがここで描き出す世界を「発作的に共振する即興演奏 Resonating Improvisation Paroxysmally」と呼んだらニュアンスが伝わるだろうか。

FIVE by FIVE #1148で紹介した『マキシマリズム Maximalism 』で共演したドラマー、ウィーゼル・ウォルター(1972年イリノイ州生まれ)との共作『ドゥローン・アンド・クウォータード Drawn and Quartered』は、2012年のピッツィオコスのデビュー作『アンプランド・オブソレセンス Unplanned Obsolescence』(ugEXPLODE)に続くデュオ2作目にあたる。どちらもアナログLPのみのリリースで、前作は100枚、今作は150枚の限定盤。2014年5月のライヴ録音で、前作から2年間の濃密なコラボレーションを経て驚異的に進化・深化した演奏を聴かせる。ハードコア・パンク出身のウォルターの激烈なドラミングに、ノン・ブレス奏法による永続フリークプレイで応じるピッツィオコスの驚異的なテクニックには、即興音楽に馴染みのない者でも驚くだろう。またLP片面を占めるB1「Quartered」の日本の能にも通じる”間”を活かした空間的な演奏には、ハードコアなイメージを塗り替えるような、理知的な音と音の対話が記録されている。

フランスの女流ヴィジュアル・アーティスト、パオラ・ハイヴェリンPaola Hivelinの鮮烈なアートワークに彩られた両作とも、既存の「ジャズ」の概念を拡張するニューヨーク即興シーンの鮮烈な息吹を伝える生々しいドキュメントに他ならない。しかし、いずれも10ヶ月以上前の録音なので、継続して共演を重ねる彼らの進化のスピードを考えれば、今現在の彼らの演奏が更なる変化を遂げていることは間違いない。本当に「今ここにある(Right Now)」音楽を体験するにはライヴの現場に接するしかないだろう。いつの日かその機会が訪れることを祈ってやまない。(2015年04月16日記  剛田武)

関連リンク
Chris Pitsiokos
http://chrispitsiokos.com/

Philip White
http://prwhite.net/

Weasel Walter
http://nowave.pair.com/weasel_walter/

Carrier Records
http://carrierrecords.com/index.php?album=front&category=all&artist=none

One Hand Records
http://onehand.bigcartel.com/

 

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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