#1420『ハン・ベニンク、ベンジャミン・ハーマン、ルード・ヤコブス、ピーター・ビーツ/The Quartet NL』

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♪ 今月のクロス・レヴュー 1

text by Yumi Mochizuki  望月由美

55RECORDS  FNCJ-5565  ¥2,700 (税込)

ベンジャミン・ハーマン(as)
ピーター・ビーツ (p)
ルード・ヤコブス (b)
ハン・ベニンク(ds)

1. ドリークスマン・トータル・ロス
2. ブルース・アフター・ピエト
3. ザ・ロマンティック・ジャンプ・オブ・ベアーズ
4. ヒポクリトマトリーファズ
5 .ザ・ラフィング・ドウォーフ
6. フーズ・ブリッジ
7 .ロロ2
All above by Misha Mengelberg

Bonus Track;
8 アイル・ビー・シーイング・ユー (S.Fain-I.Kahal)
9 キャラヴァン (Tizol-Ellington-Mills)

録音: 2016年4月、オランダにてライヴ録音

 

2014年の夏、ICPオーケストラが来日した時にハンが単独で行ったドラムのパフォーマンスで、ハンはテーブルに置いたRCAのトレードマーク「His Master’s Voice」ニッパー犬のミニチュアに向かってスネア・ドラム一台だけで至芸を見せてくれた。
本アルバム『The Quartet NL.』(55RECORDS、2016)もスネアとハイハットが際立っていて迫力満点、来日時の生々しさがよみがえる。

最初にハンを意識したのはE・ドルフィー(as,bcl,1928.6-1964.6)の『ラスト・デイト』(FONTANA、1964)。
当然のことながらドルフィー目当てで聴いたが、そこでミシャとハンの存在を知ったのである。
生硬さはあるものの力強い二人のリズムに魅かれ、それからは二人の活動に注目し、来日時にはかならずステージを見るようになった。
ロールにリム・ショット、ブラシとスネア一台でグループを鼓舞するハンは元気溌剌、75歳はまだまだ若いということを実証していて思わず喝采を送りたくなる。

この「The Quartet NL.」は文字通りネーデルランド・カルテットでハン・ベニンク(ds)、ベンジャミン・ハーマン(as)、ピーター・ビーツ (p)、ルード・ヤコブス (b) というオランダのトップ・アーティストが勢ぞろいしている。
ボーナス・トラックの2曲を除いてすべてミシャ・メンゲルベルク(1935~2017)の曲が演奏されていて、あたかもミシャの追悼のように思えるがミシャが亡くなったのは今年2017年の3月、この「The Quartet NL.」のコンサートはその1年前の昨2016年の4月の録音で、故人をしのぶような湿っぽい演奏ではなく素材としてミシャの作品を取り上げたもので、ミシャのちょっとひしゃげたような皮肉交じりのユーモアとは一味違った明るく華やかでスインギーなものになっている。

ベンジャミン・ハーマン(as)は何度も日本に来て演奏している親日家。
昨2016年9月にも東京ジャズに出演、「ダッチ・ジャズ・ワークショップ」を開いているオランダを代表するアルト奏者で、ニュー・クール・コレクティヴのリーダー。
豪放で明快、見通しの良いフレーズが矢継ぎ早に連発するあたりは、フィル・ウッズ(as、1931~2015)を思わせるバード・ライクなアルト吹き。

ピーター・ビーツ (p)は兄のマリウス(b)、アレキサンダー(ts)とのビーツ・ブラザーズで知られているが在りし日のトミー・フラナガン(p) のような端正なピアノを弾く。

ルード・ヤコブス(b)はピム・ヤコブス(p、1934~1996)の弟で、かつてKLM航空の飛行機のジャケットで有名なピム・ヤコブス・トリオの『カム・フライ・ウィズ・ミー』(PHILIPS、1982)で飛行機の前でベースを持って立っているのがルード・ヤコブス。
堅実なウォーキング・ベースはずっしりと安定感があり、ハンのブラシを一層引き立てている。

(1)<ドリークスマン・トータル・ロス>はパーカーゆかりの曲を思う存分ベンジャミン・ハーマンが吹きまくっている。
チャールズ・ミンガス(b, 1922~1979)がパリでE・ドルフィーを入れておこなったライヴ『The Great Concert Paris 1964』( Musidisc、1964)の<PARKERIANA>でチャーリー・パーカーの愛奏曲をメドレー仕立てにして演奏しているがそれに似た発想で理屈なしに楽しめる。

ベンジャミン・ハーマンの凄まじいまでのスピード、疾走感はパーカーそのもの。

気のおもむくままに大ブローするベンジャミン・ハーマンとトミー・フラナガン(p)のようにつぼを抑えた端正なピアノを弾くピーター・ビーツとのコントラストが際立っている。
また最近では珍しくなったルード・ヤコブスのウォーキング・ベースが4ビートの居心地のよさを表現している。
そしてハンの乾いたスネアとハイスピードのベンジャミン・ハーマンの掛け合いが会場を盛り立てる。

(4)<ヒポクリトマトリーファズ>は『ラスト・デイト』でドルフィーがバスクラを吹いていたたなじみ深い曲。
ハンのハイハット・シンバルの連打でスタートしアルトがテーマを吹く。
ハーマンのアルトは楽器こそ違え一瞬ドルフィーの姿が頭に浮かぶ。
ハンが大きな声で掛け声をかけてアルトをあおるとどんどんアルトが高ぶってゆくあたりの疾走感は正にライヴのだいご味で、またドルフィーの偉大さをも再認識してしまう。

ハンとミシャは1967年にICP (インスタント・コンポーザーズ・プール)を設立して以来、50年もの間デュオからICPオーケストラまで様々な場面で共同作業をしてきていて二人の関係は長くて深い。
近年はミシャが車椅子を頼るようになってしまい共演はできなくなっていたがハンとしてはミシャを励ます気持ちもあったのだろうが、全身全霊のすべてをかけてスネアをたたき、雄叫びをあげてバンドを鼓舞するハン・ベニンクにエールを送りたい。

 

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望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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