#1431『ワダダ・レオ・スミス|田村夏樹|藤井郷子|イクエ・モリ/アスピレーション』

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Libra Records / Libra 204/043 ¥2,300+税

text by Yoshiaki “Onnyk” Kinno 金野”Onnyk”吉晃

 

ワダダ・レオ・スミス (trumpet)
田村夏樹 (trumpet)
藤井郷子 (piano)
イクエ・モリ (electronics)

1. Intent
2. Liberation
3. Floatin
4. Aspiratio
5. Evolution
6. Stillness

Recorded on November 29, 2016, mixed on March 21, 2017 and mastered on May 31, 2017 by Nick Lloyd at Firehouse 12 New Haven C
Executive producer: Natsuki Tamura

 

ボンバ・レコードが、二枚のアルバムを同時発売した、そのひとつがこれだ。
60年代後期から、拠点もスタイルも様々に活動を続けるトランぺッター、作曲家のレオ・スミスと、変幻自在のパーカッショニスト、イクエ・モリという、互いに知悉の二人が、今を盛りの田村夏樹と藤井郷子、共演。聴く前から非常にそそられた一枚ではある。

スミスのディスコグラフィーを見て、数十枚のアルバムがあることに改めて驚かされた。私は恥ずべき事に、たったの十枚程度しか聞いていないではないか。AACM系でデビューし、自主レーベルを設立、デレク・ベイリーのカンパニーに参加、ラスタファリズムに共感、マイルスへのトリビュート・アルバムが評判となり、ジョン・ゾーンのTZADIKから次々に作品をリリースしてきた。
1941年生まれだからもう古希を過ぎている。故ユーゼフ・ラティーフなどは多様なスタイルで、高齢まで演奏したがその態度は全く違う。現役最長老のリー・コニッツの一途さとも違う。スミスは purgatory(編集部注:煉獄、苦行)の険しい路に身を置き、安寧を求めない。
記憶に残るのは、彼が、詩人、白石かずこと、オランダの自作楽器奏者ハリー・ド・ヴィと一緒に「気龍ツアー」と称する、白石の詩の朗読をメインにしたトリオで私の地元、盛岡に来たことである。上演後に直接話し、彼のトリオである ”new dalta ahkri” の自主制作盤を購入した。とても静かな人物という印象であった。
イクエ・モリの登場は印象的だった。B. イーノがプロデュースした、4つの「ニュー・ウェーヴ」バンドによるコンピレーション 『no new york』 は、70年代、最も衝撃的アルバムのひとつだった。中でも、モリが、アート・リンゼイと共に演奏したトリオ ”DNA” は、それまでの3ピース・バンドの常識を覆した。その後の彼女は単なるドラマーではなく、ニューヨークを中心に即興シーンでは様々な展開をして来た。いまや、モリは電子音を自在に扱い、空間に象嵌(ぞうがん)を施す匠である。

さて、本アルバムのタイトル、「アスピレーション」だが、普通は「希望、願望」の意味に訳される。しかし困った事に、私の頭の辞書で最初に出てくるのは「誤嚥」(ごえん)なのだ。そしてさらに困るのは、私自身よくそれで苦しむのである。
タイトル・チューン、トラック4 <Aspiration> の印象は、無調な渾沌から律動と調性が生まれ、呻吟しながら生成していく様を感じる。
6トラックのうち4つが藤井の、1つが田村の作曲とされ、トラック2だけが四者の完全即興だ。しかし、この演奏が一番緊張に欠ける気がする。其の理由は、藤井の、あるいは田村の「曲」という枠組みが、足場として機能し、モリやスミスが自在にその構造内を動き回って、自らの位置を巧みに確保しているということである。そこにはソロの意味は無い。
生きている事自体が「ソロ」なのだ。集団の中でエゴを露わにする必要はないことを一番知っているのはこうしたミュージシャン達だろう。分かっていない者達だけが「ソロ」を主張する。
ある意味、このカルテットはよく鍛えられた「デュオのデュオ」と言えないだろうか。[藤井/田村]:[モリ/レオ]、[ピアノ/トランペット]:[電子音/トランペット] 等という対比。そしてまたこの4者は組み合わせを次々に替えていく。
それを一番聴かせてくれるのは最後のトラック <Stillness>だろう。トランペッターが二人で奏する時、彼らは音色を意識的に変えて異種のラインを撚り合わせる。電子音のうねりとピアノのオスティナートの背景が徐々に裂け始め、前面になだれ込んで来る。おお、屋台崩しだ。そうだ、「静寂」は演奏の終わったあとにやってくる。自然は真空を嫌うが、神は虚ろな場に宿る。沈黙は音とともにある。

私が「言葉」にこだわりすぎているとお思いだろうか。何故なら、音楽のレビューは「シジフォスの岩」の如き作業だからだ。あるいは。笊(ざる)で水を掬おうとし、月を採ろうと棹を振り回しているからだ。
物を呑み込むときだけでなく、音を聴くときにも誤嚥があるとすれば、この音楽も、よく咀嚼して、むせないように、内耳ではなく、精神に流し込まなければいけない。


金野 Onnyk 吉晃 (よしあき Onnyk きんの)

1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。
1976年頃から、演奏を開始。第五列の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。
1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。
共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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