#1470『板橋文夫+結/謡文』

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text by Yumi Mochizuki 望月由美

MIX DYNAMITE RECORD MD-020 ¥2000

板橋文夫(p,鳴り物)


金子友紀(唄 / 鳴り物)
町田加代子(三味線 / お囃子)
小山貢理乃(三味線 / お囃子)
藤沢しげみ(太鼓 / お囃子 / 唄)

1. 貝殻節(鳥取県民謡) 板橋文夫+結
2. 安里屋ユンタ(沖縄県民謡) 板橋文夫+結+お囃子(齋藤雅顕、齋藤俊江、根本哲史)
3. 新相馬節~相馬盆唄(福島県民謡)
新相馬節(堀内秀之進、鈴木正夫):板橋文夫+結、唄:藤沢しげみ(小山貴理乃除く)相馬盆唄:板橋文夫+結。
4. ふくしまの春(作曲:板橋文夫、作詞:金子友紀) 板橋文夫+結
5. ソーラン節 (北海道民謡) 板橋文夫+結
6. ふくしまの春 デュオ・バージョン (作曲:板橋文夫、作詞:金子友紀)板橋文夫、金子友紀
ボーナス・テイク
7. ヒデさん(作曲:板橋文夫) 板橋文夫+結(小山貴理乃除く)、根本哲史(口笛)

マネージメント:板橋文夫
エンジニア:小川洋
グラフィック・デザイン&カバー・アート:レオナ
録音:2017年7月2日、9日 横浜ジャズ・スポット「ドルフィー」にて

純益の一部を東日本大震災復興支援に!

 

『アリゲーターダンス2016』(MIX DYNAMITE 2016)からちょうど一年、板橋文夫が新作『板橋文夫+結/謡文』(MIX DYNAMITE 2017)を発表した。
前作は板橋文夫FIT!+MARDS、板橋のトリオに4管+タップ・ダンスというミンガス・ワークショップ並みのヘヴィーなサウンドを展開したが、本作は打って変わって民謡グループの「結」との共演、横浜のジャズ・スポット「ドルフィー」でのライヴ録音である。
古来、日本の音楽は小唄にしても長唄にしても、そして民謡にしても言葉が大きな意味を持っていた。
言葉で感情を吐露する心の唄であった。
一方の板橋は今自分の聴きたい音をピアノにのせて音にし、それを自分で聴いて次の音を探し自分との対話を進めてきた。
これまでエリントンやモンク、マッコイといったジャズの眼鏡を通して自己の内にある伝統、日本の風土を見つめ楽器を通して、つまり言葉をこえたところでコミュニケーションをとってきた板橋が今回は民謡という語りと向き合っている。
もともと、純粋な音を探求してきた板橋が民謡という生きた詩と向き合うことでますます純度が高まり、新しい世界が広がっている。

若い頃は南米からアフリカまで、近年は北海道から沖縄まで世界中の隅々まで旅し地元の人と交流し民謡を聴いてきた板橋はこれまでにも『板橋文夫流 ジャズピアノ入門』(AUDIO BASIC誌2009)などでブラジル民謡やアフリカ民謡、奄美島唄など民謡を採りあげて録音してきているが全編、民謡との共演は今回が初めてである。

演奏曲目をみてピンと来なくても、おそらく日本で生まれ育った人なら必ず心の奥底に残っていて、ああこの曲かとうなずける曲ばかりである。

(1) <貝殻節>はかつて坂田明 (reeds,vo) が『Fisherman’s.com』(Starlets Records 2000)で録音したことのある曲。
板橋のピアノのイントロに導かれて民謡ユニット『結ーyuiー』が謡う。太鼓、三味線が間奏を入れ板橋のピアノ・ソロへと移る。
やさしさと朴訥さをたたえたいつもの板橋がそこにある。

(2) <安里屋(あさとや)ユンタ>は沖縄の民謡、三味線のイントロから<マタハリヌ チンダラ カヌシャマヨ…>と謡い、<サー ユイユイ>と合の手が入り、幼いころの郷愁がよみがえる。

(3) <新相馬節~相馬盆唄>
これまで民謡と向き合って勉強したことは正直に言ってなかったが、どの曲も心の片隅に残っていて聴けばメロディーがふつふつと浮かび上がってくる。
夏になると盆踊り会場から聞こえてきた懐かしい曲ばかりであり、日本で生まれ育った人ならば誰しも耳に残っている、それが民謡というものなのだろう。

<ふくしまの春>は昨年の『アリゲーターダンス2016』(MIX DYNAMITE 2016)でも演奏されている板橋の曲で、ここでは(4)で民謡ユニット『結ーyuiー』と、(6)で金子友紀(唄、鳴り物)とのデュオの2ヴァージョンが収められている。
2011.3.11東日本大震災の直後、自己のユニット「板橋文夫FIT!」を立ち上げた板橋はその一か月後の2011年4月11,12日に『New Beginning 板橋文夫FIT!』(MIX DYNAMITE 2011)を録音、以来、ピアノを贈呈したり義援CDを作ったり積極的に東日本大震災の支援活動を続けていてその継続するエネルギーはまさに板橋ジャズそのもので敬服する。
<ふくしまの春>はその板橋の想いを曲にしたもので北海道からふくしま、おきなわ迄を故郷とする板橋の日本の香りが漂う素晴らしいバラードである。

(6)では作詞者の金子友紀(唄、鳴り物)が自らの詩を歌っている。
ライナーノーツによると、金子が小学生の時に板橋がその歌声を聴き大人になったら一緒に演ろうね!と話しそれが実現したものだそうである。

(7)<ヒデさん>はやはりライナーノーツによると今年の2月逝去されたというキーボード奏者森崎秀康さんに捧げた板橋のオリジナル曲。

昨年、板橋文夫は森山威男(ds)とのデユオ『おぼろ月夜』(PIT IN MUSIC 2016)で童謡とジャズの一体化を具現した。
そして今回『板橋文夫+結/謡文』(MIX DYNAMITE 2017)で民謡と板橋ミュージックを合体、類例を見ない世界を築き上げた。

日本の風土の上に立って、日本の伝統、美に対する感受性を生のまま身に着けている板橋文夫はこれからも新たな軌跡を描きながら最もオーソドックスな正統派の道を突き進んでゆくことであろう。

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望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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