#1464 『Rent Romus / Deciduous : Midwestern Edition Vol. 1』

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Reviewed by 剛田武 Takshi Goda

Edgetone Records EDT4186

Rent Romus : as, ss, fl, perc.
Hasan Abdur-Razzaq : as, ts, bells
James Cornish : tp, b.horn
Gerard Cox : ds, p, org.
Caleb Miller : p, org.
Steve Simula : perc, fl, bells, ds
John Phillip Allen : b

1.  Presencing
2. Skyboat Gliding
3. Hammer Forge
4. Shell Games
5. The Restless Seldom Get Weary
6. Simo-casting
7. Within the Time
8. The Dream Imagined
9. Margus Fargus

Recorded April 2016 Ornjudio Studio Columbus Ohio
Engineered by: Joey Gurwin
Mixed and Mastered by: Michael Zelner
Cover Photo “Endless Summer” by Tim Perdue, Bicentennial Park fountain in Columbus Ohio
CD Artwork by Hasah Abdur-Razzaq
Graphic design by Rent Romus
All music by the musicians created spontaneously

 

西海岸の鬼才レント・ロムスによる即興音楽の霊性(スピリチュアリティ)復興の試み。

木立の向こうからトランペットの音色。すぐに2本のサックスが合流し、木霊のように好き勝手なフレーズを唱和する。次第に輪になって踊りながら葉隠の術で飛び去っていく。匍匐前進するベースと一緒にアルトサックスがのんびりと歌い始める。オートハープのようなピアノ、駆け回るドラム、羽目を外して木の枝の間を飛び交うサックス。葉擦れのように笛や打楽器がざわめき出し、鎮守の森の静けさは悪戯な音楽家たちの騒ぎで破られた。

筆者が初めて聴いた集団即興ジャズのレコードは高校3年生の時中古盤店で入手したヒューマン・アーツ・アンサンブルの『アンダー・ザ・サン』(73)だった。緩い反復ビートの上に立ち現れては消える管楽器やパーカッションは、あたかも得体のしれない動物や精霊の棲む森の中を彷徨い歩く気分がした。聴くたびに新しい音や聴こえなかったフレーズを発見し、頭の中で音楽の物語が形作られていった。それは限りなく自由(フリー)で霊的(スピリチュアル)な体験だった。幼い頃、眠る前に布団の中で思い描いたとりとめの無い空想がそのまま夢の世界に続くように、自由な即興演奏は精神世界と表裏一体だった。その印象はアート・アンサンブル・オブ・シカゴやサン・ラのアーケストラやアルバート・アイラーなどの即興アンサンブルにも感じられた。

しかしいつの間にか「即興演奏」は、醒め切った精神で修練を重ねた技量を競い合い、クラブやホールの閉ざされた空間で実践されるようになり、精霊の森から分断された。霊的世界を指向する音楽は「スピリチュアル・ジャズ」と呼ばれ、快楽主義的なクラブ・ミュージックのルーツとしてもてはやされることとなる。しかし、そもそもジャズはスピリチュアルであり、即興音楽の本質は、森の中で精霊と戯れながら自由に楽器を奏でることではなかったか。

そういう意味で “即興の創造的な強靭さ・歴史・一期一会を共有する人々を橋渡しする”プロジェクト『Deciduous(落葉)』は、森の中の精霊を創造の種とする即興演奏のルーツを復興する試みといえよう。第1弾の本作では、アメリカ中西部、オハイオ州コロンバスとミシガン州デトロイトのミュージシャンをフィーチャーして、スポンテニアスな即興演奏が繰り広げられる。この地域で生まれたAACM(シカゴ)やBAG(セントルイス)の音楽スタイル(ヒューマン・アーツ・アンサンブルもそのひとつ)に通じる多楽器主義の集団演奏は、森羅万象に宿る音楽の精霊を呼び起こすアミニズムの儀式であり、6,70年代の創造的音楽革命と同質の生命感の迸りに満ちている。フリージャズのスピリットが蘇り、創造の神々が復活しつつある証である。

プロジェクトの中心人物は、サンフランシスコを拠点に活動するサックス奏者/作曲家/プロデューサーのレント・ロムス。10代でスタン・ゲッツに師事してジャズの基本を学びつつ、フリージャズやロフトジャズ、ヨーロピアン・フリーミュージックやノイズに興味を広げたロムスは、90年代からいくつものユニットを率いて様々な音楽活動を続けてきた。1991年にエッジトーン・レコードを設立し、自主性と地域性を重視して、西海岸を中心にアヴァンギャルド/実験音楽の作品を多数リリースしている。その幾つかを配信サイトで聴く限りでは、ウェストコーストらしい独特のユルさを持つ音楽性が印象的で、ヨーロッパはもちろん、ニューヨークとも異なるシーンが形成されていることが想像できる。

これまでほとんど紹介されることのなかったアメリカ西海岸のリアル・ジャズ・シーンを牽引するレント・ロムスの活動に今後も注目して行きたい。(2017年11月20日記 剛田武)

Rent Romus (photo by George Thomson)

Rent Romus
http://www.romus.net

Edgetone Records
http://www.edgetonerecords.com/

Rent Romus/ Deciduous @ Bop Stop, Cleveland,Oh

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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