#1476 『大西順子/グラマラス・ライフ』

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text by Masahiko Yuh 悠雅彦

Somethin’ Cool     SCOL-1025

大西順子(piano)
井上陽介(bass)
高橋信之介(drums)

1.エッセンシャル (Essential)
2.ゴールデン・ボーイズ (Golden Boys)
3.ア・ラヴ・ソング (A Love Song ” a. K. a. Kutoubia” )
4.アラベスク (Arabesque)
5.タイガー・ラグ (Tiger Rag)
6.オールモスト・ライク・ミー (Almost Like Me)
7.ホット・ジンジャー・アップル・パイ (Hot Ginger Apple Pie)
8.ファスト・シティ (Fast City)
9.7/29/04 ザ・デイ・オヴ (The Day Of  < from “Oceans 12” >)

Recorded & mixed by 松下真也@ Sound City, Tokyo
Mastered by 吉川昭仁@ STUDIO Dede AIR
Produced by 大西順子

 

大西順子が昨年(2016年)の初夏に発表した『Tea Times』から1年半振りに新作を発表した。それも驚くような形で。前作が菊地成孔のプロデュースという話題性に富む1作だったのに対し、今作はセルフ・プロデュース。本人がみずから望む形で演奏し、やりたいことをやりたいように成しおおせた新作であるといってよい。”驚くような”と形容せずにはいられなかった第一の驚きは、みずから初のバラッド集とうたってラインナップした作品の数々を、ギターの馬場孝喜、ヴォーカルのホセ・ジェイムら6人のミュージシャンと対話しあい、バラッド奏法の真髄に迫る意気込みで吹き込んだ『Very Special』(SCOL-1024)と、上記に掲げた『Glamorous Life』の2作を、2枚組ではなく、2枚を同時発売するという異例の形で世に問うたことだ。というわけで、2枚を同時に紹介することもむろん可能だが、もう25年も前に今はなき東芝からデビューした『Wow!』の衝撃をいまだに忘れられずにいる私としては、『Wow!』の面影を宿しながらも25年の歳月を経てさらにステップアップした自らを開陳してみせたともいえる、その大西ならではの意気込みを買わないわけにはいかなかった。同時に並べて評価する手もなくはないが、どっちつかずに堕す危険をあえて避け、全曲を自作で固めて臨んだ彼女の現レギュラー・トリオによる 本『グラマラス・ライフ』をあえてピックアップし、推薦することにした。

ただ1点。『ヴェリー・スペシャル』で触れずにはおけない1曲がある。チャイコフスキーの「舟歌」(ピアノ曲集『四季』より)に続いて演奏される「柳の歌」だ。これも原曲はクラシック。ヴェルディの歌劇『オテロ』の中の楽曲で、このバラッド集を制作するきっかけになった作品だという。これをクラシックにも精通したジャズの編曲家、挟間美帆が大西順子のたっての希望で新たに再構成した。森卓也、佐藤芳恵が吹くクラリネットとバスクラリネットの柔らかで清透な音色を活かした狭間の編曲が実に素晴らしい。少なくともこの2曲、とりわけ「柳の歌」は<メロディ回帰>を今回の2作の重要なコンセプトと位置づける大西にとって、恐らくは最も印象深い1曲だったといってよいに違いない。

とはいえ、少なくとも大西順子の現在、特に成熟したピアノ演奏を体感する上で、『グラマラス・ライフ』が最良の1作であることは改めて強調するまでもなく、私の敬愛する井上陽介と高橋信之介のセンスとテクニックが一体となった迫力充分なプレイといい、大西順子ら3者が対等にして、かつ互いをよく知った上での極上のコンビネーションをフルに発揮した会心の1作であることをまったく疑わない。それはこのトリオが彼女にとっての現在の活動基盤であることを立証するだろう。このコンビネーションのよさとは、すなわち慣れ親しんだ3人が単に集まって演奏しているというのではなく、3者のコンビネーションが結束し、深く結びあって生む強力で新鮮な音の交感によってもたらされる真情吐露そのものなのだ。極めてリズミックな(1)「エッセンシャル」がそのトリオの稀有な運動性を活写したあと、(3)の「ア・ラヴ・ソング」に始まり、(4)「アラベスク」、(5)の「タイガー・ラグ」、(6)の「オールモスト・ライク・ミー」が、本CDの最大の聴きものだろう。とりわけクライマックスを形成するのが(4)、(5)、(6)。(4)での高橋のブラッシュ奏法による味わい深いフォー・ビートに乗って、自在にメロディック・ラインを紡ぎ出す大西順子の奔放なイマジネーションが最初の聴きどころ。次の「タイガー・ラグ」はソロ・ピアノ。短いが、快感を誘発する鮮やかなソロだ。もしアート・テイタムが健在だったら、ニヤリとしたに違いない。過去にも聴いた1曲だが、このトラックが最良で、この曲を弾き終え、つなぐ形で次の(6)「 オールモスト・ライク・ミー 」の演奏に入る。これが最近のパターンだと彼女は JAZZ LIFE誌のインタビューで語っていた。

この1作で特に印象深く脳裏に響いたのは、大西順子の左手が以前にも増して強力さを増していたことで、それによって聴き手をいっそう鼓舞してやまないドライヴ感を、いわば強烈なスリルとして感じさせることだ。その強烈なスリルは、目を閉じて聴いていると腸(はらわた)が刺激されるようで、そのつど聴いている当方の心臓が快哉を叫んでいるような気分になる。井上陽介と高橋信之介が聴いているこちらにはあたかも黒子に徹してプレイしているように見えながら、その実、トリオとしての音楽的展開の中枢をにない、大西との会話をスムースに運ぶ役割をも果たしている点で、今日の本邦を代表する屈指のピアノ・トリオであることを私は再確認した。明けて2018年の2月、ブルーノート東京に登場するこのトリオの演奏がライヴだとどんな変化を見せるか、大いに楽しみだ。

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悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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