#1486 『Rob Pumpelly, Rent Romus, Eli Wallace / The Expedition』

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Reviewed by 剛田武 Takeshi Goda

CD : Edgetone Records EDT4190

Rob Pumpelly – ds, perc.
Rent Romus – as, ss, C-melody saxphone, fl, bells
Eli Wallace – p

1. Dark Water
2. Ninianne
3. Stained Deep with Life’s Blue
4. Unrelenting Attraction
5. Inanna
6. Here to Go
7. The Jewel is Only Obvious

Recorded in at House of Zoka Oakland California by Michael Zelner October 2016

Edgetone Records  http://www.edgetonerecords.com/

静かな巨人レント・ロムスと二人の即興音楽家による比類なきウェストコースト音楽探検ドキュメント。

1970年に深い森林と湖に囲まれ雪が降るミシガンの半島の先端から家族と一緒に引っ越してきて、ベイエリアで成長するのは簡単なことではありませんでした。いつもクラスのピエロ、奇妙な変り者、「彼はなぜあんなに大人しいの?」と言われる子供でした。その後、他の友達がAC / DCを観に出かけたり『ベルエアのフレッシュプリンス』を観て踊ったりしている時に、私はフィールド・マーチング・バンドのテープや、ウッディ・ハーマン、スタンレー・タレンタイン、スタン・ゲッツ、アーサー・ブライス、サン・ラなどを聴くことに喜びを見出しました。大衆の一部になりたいと思ったことは一度もありません。西海岸の都市環境の中で周囲からの正常化の圧力に適応しながら、オブスキュア(曖昧さ)を追求することによって、負け犬の慰めを見いだしてきました。
今年私は50歳です。
バイブレーション(感情)の最低点を探しながら、私は歓びの声の曖昧さ、今見つけた失われた文化、灰色の商業主義の枷からの解放、そして瞬間の発見を抱きしめています。たとえ一瞬だとしても人が誰でも楽しむ人生の火花のような短い時間の経験への静かな内面の慰めを見つけました。皆さんにお会いするのを楽しみにしています。

これはレント・ロムスが50歳のバースデイ・コンサートの告知ページに記した挨拶文である。自分が主役の記念イベントの案内に自らを「負け犬(underdog)」だと告白するとは、弱気と言うか正直と言うか、あまり前例を聞いたことがない。昨年ロムスのことを知ったときには、明るいトーンと激しいプレイが巨漢で強面な風貌と相まって、西海岸の音楽シーンを牛耳る親分肌の豪傑な人物を想像していたが、初めてインタビューをしてみて、真逆とは言わないまでも、物静かで生真面目で心優しい人柄が明らかになった。自ら「オタク」と語る通り、能天気なウェストコーストのメンタリティーに馴染めなかったロムス少年は、自分の世界を大切に育ててきたに違いない。そもそもミュージシャンや芸術家はたいてい他人とどこか違った異端者の面があるから、ロムスの告白に驚く必要はないが、興味の先が奇妙(Weird)で曖昧(Obscure)な方向へ向かうことで、より深い地下(Underground)世界と交わったことは幸運だった。想像以上に広大で豊潤なサンフランシスコの地下世界に刺激されて、ロムス自身の才能が開花することになった。自己の音楽を追求し磨き上げるだけでなく、他の人たちと一緒に新しいものを築きあげる喜びを手に入れたのだ。

いじめられっこやアニメオタクやゲーム中毒の少女たちが秋葉原で出会ってグループを結成し歌と踊りで成功するというアイドルのサクセス・ストーリーを思わせるが、マイナス・パワーがプラスに転じたときの輝きは国やジャンルに関係ない。ロムスの言う「負け犬の慰め」が、個性的で輝かしい音楽として広がることで、世界各地の地下シーンを活性化させることになれば面白い。某アイドルのキャッチフレーズを借用すれば「奇妙な音楽(Weird Music)を世界にお届け!」が合言葉である。

50歳の誕生日を目前に『Deciduous / Midwestern Edition Vol. 1』(2017年10月24日リリース)、『Rent Romus’ Lords of Outland / In the darkness we speak a sound brightness and life』(同12月5日リリース) に続いて12月13日にリリースされた本作は、レギュラー・プロジェクトの前2作とは異なり、2016年10月Outsound Presents主催のシリーズ・コンサートでの即興セッションを収めたアルバム。『The Expedition(探検・遠征)』というタイトル通り、三人のミュージシャンの音楽探検の旅がパックされたサンフランシスコ即興シーンの息吹を感じるのに最高のドキュメントである。

冒頭からロムスがC管とソプラノの二管同時演奏で攻めのプレイを展開。迎え撃つエリ・ウォラスのピアノは叩き付けるフレーズで痙攣し、ロブ・パンペリーは両者の激音の狭間で分裂症のようなドラミングを聴かせる。完全即興演奏だがメロディ感覚とストーリーテリングの巧みさは数多あるジャズ・コンポジションよりずっと歌心がある。複数のサックスと笛を駆使して表情を変えるロムスの多才さは特筆ものだが、それを引き出すウォラスとパンペリーの息のあったプレイは、Dialectical Imaginationというデュオとしても活動する二人ならでは。最大の聴きどころはやはりロムスのアルトだろう。輪郭のハッキリしたトーンで留まることなく沸き出るフレーズは常に人懐っこい温もりを宿している。音と一緒に溢れ出すレント・ロムスの人柄は、ウェストコースト即興音楽シーンの灯火となるだろう。

ちなみにロブ・パンペリーはフランク・ザッパ~ウェーベルン~アンソニー・ブラクストンの影響を受けたアヴァン・ロック・バンドmiRthkonのギタリストでもあり(現在は脱退)、ウィーゼル・ウォルターのノイズ・ロック・バンドThe Flying Luttenbachersのメンバーだったこともある。ウェストコーストとニューヨークの地下音楽シーンは実は密かに繋がっているのである。

(2018年1月29日記 剛田武)

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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