#1489 『豊住芳三郎&ジョン・ラッセル/無為自然』

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text by Yumi Mochizuki 望月由美

ちゃぷちゃぷレコード CPCD-010

SABU豊住芳三郎(ds,per,erhu/二胡、胡弓)
ジョン・ラッセル(g)

1.Song for AUNTIE VAL and UNCLE DAVID
2.Dear Hikaru Genji
3.SOMONKA 相聞歌
4.SAKIMORIKA 防人歌
5.AZUMAUTA 東歌
6.GENSHU no TOMO厳岫の友
7.I Miss You
8.KANJITUGETSU 閑日月
All composed by Sabu Toyozumi / John Russel

プロデューサー:末冨健夫 (Chap Chap Records)
録音:2013年5月28日 大阪Common Caféにてライヴ録音
2013年6月3日 稲毛Jazz Spot Candyにてライヴ録音
エンジアニア:Kunimitsu Tsuburai

 

“SABU”豊住(ds,per,er-hu/二胡、胡弓 1943 ~)にとってジョン・ラッセル(g、1954~)は無二の親友であり、音楽的にもいわゆるツウカアの間柄でお互いの気持ちが分かりあえる関係である。
“SABU”豊住はヨーロッパに行くとしばしばジョンを訪ね友好を深め共演を重ねている。また、日本にもこれまでに6回招聘していて、本アルバムは2013年に招聘した際の「大阪Common Café」と「稲毛Jazz Spot Candy」でのライヴを収録したもの。

即興演奏家として50年、富樫雅彦(ds)や高木元輝 (reeds)に始まり、シカゴのAACM、ニューヨークのジョン・ゾーン(sax)、ヨーロッパのペーター・ブロッツマン (reeds)やミシャ・メンゲルベルク (p)等々、世界中のインプロヴァイザー達と共演し交流を深めてきた“SABU”の心境がこのジョン・ラッセルとのデユオの中に浮き彫りにされていてなかなか興味深い。
当然のことながら全編フリーであり、あらかじめ決められたテーマ、モチーフなどはなく完全な即興である。
“SABU”の音楽はいつ聴いても無邪気になれるがここでもその本領が発揮されている。
音になれ合いがないから聴く方も無心になれ、どんな気分の時でも心を空にしてくれる。
“SABU”はここでドラムのほか二胡や胡弓を弾いている。
バスドラを踏みスティックを捌きながら弓を弾き一人二重奏を行う。
“SABU”天生の素早い動き、身のこなしの敏捷さはここでもいかんなく発揮されていて相方のジョン・ラッセルに効果的な刺激を与えているようである。

ジョン・ラッセルはデレク・ベイリー(g)やソニー・シャーロック(g)に触発されてフリー・インプロヴァイザーの道を歩んだギタリストと云われているが音色がとても綺麗である。
アンプを通しての音ではあるが濁りがなく明るく澄み切っていて“SABU”の音の中からくっきりと浮かび上がり“SABU”とのコントラストを際立たせ、同時に調和もとっている。

“SABU”はジョンによってすべてを開放され意のままに思う存分叩き、弓を弾く。
空間にはじけるシンバルが生々しく響く中を二人の瞑想と対話が間断なく続く。
根底にある二人の心根の優しさが時を越えてありのままのエモーションを語りかけてくる。
一切決め事のない完全な即興であり、事前に曲名や曲想があってのものではないが4年の月日がたって“SABU”が付けたタイトルや曲名に“SABU”の最近の胸の内が現れているのでそれはそれで思いを巡らせながら聴くと面白い。

このアルバムのタイトル「無為自然」は老子が使った言葉として知られているがこのタイトルが現在の“SABU”の生き方そのものを表しているようで、近年はあるがままに生活し、あるがままの音楽を奏でる域に到達したようである。
ジャケットの絵も“SABU”自筆のもので、白いカンバスの上にいくつかの円が点在しているシンプルなものであるが”SABU”の今の心境があらわれているようでなかなか味がある。
ミュージシャンにはマイルス・デイヴィス(tp)やロスコー・ミッチェル(reeds)、富樫雅彦(ds,per)等々、絵画の分野でも特異な才能を発揮した人が多いが“SABU”もそうしたアーテイストの一人であり、『kosai yujyo』(Improvising Beings ib14/ INaudible CD 008/009、2010~2011)や『逍遥游』(ちゃぷちゃぷレコード 1994)でもジャケットに”SABU”の絵が使われている。

(1)<Song for AUNTIE VAL and UNCLE DAVID>はジョン・ラッセルのおじさんとおばさんへ捧げたもの。
そして“SABU”は日ごろから古文に親しんでいるというが、(2)<Dear Hikaru Genji>は源氏物語、(3)<SOMONKA 相聞歌>(4)<SAKIMORIKA 防人歌>(5)<AZUMAUTA 東歌>は万葉集から名付けたものである。
またアルバムの締めくくりは(8)<KANJITUGETSU 閑日月>。

コスモポリタンとして50年、半世紀にわたって世界中のどこへでも意の向くままに旅し多くの人々、風景に溶け込みながら飄々と自らの世界を貫いてきた“SABU”はついにこの境地に達したのであろうか。

“SABU”はこの6月デンマークのワークショップに参加する。そこでジョン・ラッセルと再会する予定だというし、ジョンはこの10月には来日するという話もある。
二人のコンビネーションは現在も進行中である。

本アルバム『豊住芳三郎&ジョン・ラッセル/無為自然』(ちゃぷちゃぷレコード)は『「Free Music 1960~80:開かれた音楽のアンソロジー」とその「Disk Guide編」の2冊を企画制作するなどフリー・ミュージックに力を注いでいる「ちゃぷちゃぷレコード」によって世に出された貴重なライヴ音源であり、近々“SABU”豊住芳三郎の本も出版するという。
今後のちゃぷちゃぷレコードの創作活動に注目してゆきたい。

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望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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