#1491 『Rieko Okuda / Paranorm』

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Text and photo by Akira Saito 齊藤聡

Athor Harmonics

Recorded on February 2017, at Koncertkirken, Copenhagen by Kenichi Mori
Mixing by Lluís Enguix Pérez
Mastering by Jesus Calabuig
Cover Art by Oliver Orthuber

1. Track 1
2. Track 2
3. Track 3
4. Track 4
5. Track 5

Rieko Okuda 奥田梨恵子 (p)

奥田梨恵子はベルリン在住のピアニストであり、ときにヴィオラやヴァイオリンも弾く。その前にはアメリカにも滞在し、ボブ・ミンツァー、トム・レイニー、マーシャル・アレンなどと共演したこともあるという。彼女のベルリンへの移動は、ジャズからインプロヴィゼーションへの跳躍を意味したのではないか。最近のヨーロッパにおける活動は多彩であり、VOBトリオではアンティ・ヴィルタランタ(ベース)、ヤカ・ベルガー(ドラムス)とのトリオでヴィオラを弾き、またWavebenderではやはりヴィルタランタ、クリス・ヒル(ドラムス)とのトリオでピアノを弾いた。それぞれ、2017年、2018年の東京における演奏において、ミニマルな断片を執拗に積み重ねてゆき、それによりコアも幅広さも持つ大きなサウンドを創出する姿を目の当たりにすることができた。

本作はうって変わってピアノソロである。しかし、ただのピアノソロではない。そしてまた、トーナルなものへの執拗きわまりないアプローチが、ここでも見出される。現代音楽のトーン・クラスターと共通する要素があるのかもしれないが、奥田のサウンドはそのような影響の有無を抜きにして聴くべきものだ。

一聴し、何がどうなっているのか疑問だらけでもあり、この2月にベルリンで奥田に話を訊いた。

驚いたことに、この重層的なサウンドはオーバーダブによるものではなかった。ピアノを弾き、それをマイクで拾い、増幅し、スピーカーから出す。この過程でフィードバックが発生するのだが、奥田はその偶発性を意図的に利用せんと模索した。スピーカーの音を別のマイクが拾い、別のスピーカーから出す。その組み合わせが、何と5セット。周波数が姿を変え、低音域、中音域、高音域が重なりあい、自律的な変化を時々刻々とみせる。また音波がピアノを物理的に震わせ、びりびりとした音を出す。ノイズに聴こえたものは、これだったのだ。

1曲目では、重低音のドローンの中で美しくもあるフレーズを弾くのだが、その展開は長くは続かず、高音も耳に届いてくる。弾く音が、どこか遠くへと去ってゆくような印象を覚える。2曲目に入り、低音の鍵盤を繰り返し叩き轟音を生み出す。その発展のあり方は、イギリスのキース・ティペットのピアノソロを想起させるものだ。しかし、ティペットのそれがプリペアドによる厚みであったのに対し、奥田のサウンドの中には、聴く者の意識の内外にぶちまけられたさまざまな音が混濁しており、まったく別種の厚みを持つことが実感される(事実、奥田はティペットを聴いていなかった)。そしてやはり、ミニマルなものの積み重ねが浮かび上がってくる。3曲目ではその雰囲気を保ったまま、まずはノイズが主役に躍り出る。鍵盤の原音、硬質な石のような残響、ノイズ、そういったものが、サウンドを生きながらえさせようとするコアの重力に引き寄せられ、あるまとまったトーンを形成し、じわじわと変貌を続ける。

4曲目では雰囲気が変わる。フィードバックによる音のフラックスが干渉し合い、ピッチのずれにより大きなうなりを生じる中で、ノイズをも味方に引き入れ、あるパターンを創り出しているように聴こえる。音の野獣を放置し、また調教しながら、奥田は一歩引いて落ち着き、少しずつ変化させる旋律を弾く。それが残響や自分の分身を生み出し、他とともに混然一体となる様には、驚かされてしまう。

サウンドが高音域にシフトし、雲の中のように響き白昼夢を思わせる中で、いつの間にか5曲目へと移行してしまっている。気が付くと、いつの間にか、低音のドローンや人ならぬものの叫びが共存している。白昼夢はさらに重層的なものとなっており、数多くのイメージを喚起し、そして、ふっと終わる。

しかし、聴く者にとっての時間は、音楽が流れる間だけではない。現実世界に戻された後も、意識外だったはずの音までがどこからか飛び込んでくるのである。

(文中敬称略)

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齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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