#1508『挾間美帆 +メトロポール・オーケストラ・ビッグバンド /  ザ・モンク:ライヴ・アット・ビムハウス』

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『Miho Hazama+Metropole Orkestr Big Band / The Monk : Live at Bimhuis』(Verve)
ユニバーサルジャズ UCCJ-2152 (2018.2.14)

 

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

Miho Hazama 挾間美帆
Metropole Orkestr Big Band

1 .Thelonious
2 .Ruby My Dear
3 .Friday The 13th
4 .Hackensack
5 .’Round Midnight
6 .Epistrophy
7 .Crepuscule With Nellie

Recorded Live at Bimuhuis, Amsterdam, the Netherlands, on October 13, 2017

 

ニューヨークを拠点に世界で活躍し、ダウンビート誌「ジャズの未来を担う25人」にも選ばれるなど高い評価を受けている”ジャズ作曲家”挾間美帆が、オランダのジャズ&ポップスの名門ラージアンサンブル、メトロポール・オーケストラに2年連続で招聘された。いずれもビッグバンド編成でのオランダツアーで、2017年10月12日〜15日はセロニアス・モンク生誕100周年記念プロジェクトの編曲・指揮に大抜擢され、早くもこのライブ盤を残し、2018年5月26日には同プログラムが再演される。そして、ラ・フォル・ジュルネTOKYO二度目の出演の直後、2018年5月16日〜18日は女性ヴォーカルのチャイナ・モーゼスを迎えた「An Extra Dosis Soul and R&B for our Big Band」というかなりヤバいグルーヴを予感させるプロジェクトに挑む。初コンサートツアーが半年も経たずにライブ盤となり、再演され、2年連続での招聘というだけでもう、このアルバムのクオリティが保証されると言うもので、正直、私の解説など読まなくてもぜひ聴いて欲しい。

東京出身の挾間は、国立音楽大学作曲科を経てマンハッタン音楽院大学院(ジャズ作曲専攻)へ留学。2011年にはメトロポールのアレンジャー・ワークショップに参加して接点が生まれ、そこからメトロポールに編曲の提供を行っていたが、コンサート全体をそしてツアーを任せられるのは2017年が初となる。メトロポール・オーケストラは、1945年にオランダ公共放送の要請により作られ、リズムセクションに弦楽器から管楽器までを網羅した編成であらゆる音楽に対応し、放送や映画のための音楽制作も行い、特にノースシー・ジャズ・フェスティバルでのレギュラー出演で知られている。ディジー・ガレスピーから、ジョン・スコフィールド(グラミー賞受賞)、イヴァン・リンス(ラテングラミー賞受賞)、パット・メセニー、スナーキー・パピー、グレゴリー・ポーターまでその時代を代表する豪華なゲストを迎えての演奏を行って来た。最近では2005年から2013年にかけてヴィンス・メンドーサが参加、驚異的なレベルの演奏を数多く残す。その歴史に挾間が名を連ねることにどれだけ驚いたかご理解いただけると思う。

「メトロポール・オーケストラは、世界で唯一のプロフェッショナル・ジャズ・フィルハーモニック・オーケストラだと思っています。とても洗練されたサウンドを持ち、音楽とグルーヴを通して強い感情を届けることのできる非常に稀なオーケストラのひとつです。15年以上に渡って私がずっと共演したいと願って来たドリームバンドでした。」と挾間は言う。弦楽を交えたアンサンブルを得意とする挾間だが、2年連続で担当したのはトラディショナルなビッグバンド編成。将来的には弦楽も交えたフル編成を仕切る姿も期待したいところだ。挾間は夢を実現し、世界一のジャズ・フィルハーモニック・オーケストラを手にして果敢に色彩に溢れたサウンドを創り出して行く。

「モンクはシンプルなメロディに革新的なハーモニーで作曲しています。」その音楽の個性があまりに強烈なため、中途半端に編曲を加えても、オリジナルの方が面白いということになりかねず、音楽に新しい生命を持たせるのは難しい。挾間を指名したのもそこを超えることのできる数少ない才能との認識からだろう。日本盤ライナーノーツより挾間の言葉を引用すると、「ありきたりなモンク・トリビュートは避けたい、なにかアレンジする意義のあるプログラムを組みたい、という思いから、メトロポール・オーケストラのミュージックディレクター Gert-Jan Blomの提案通り、モンクのソロピアノ演奏のオーケストレーションをプログラムに組み入れることにしました。ソロ演奏は、じっくり聴けば聴くほど、モンクがいかに色彩豊かな彼の世界を頭に浮かべた上でピアノを演奏していたのか伝わる体験でした。結果として、このプログラムは彼の作曲家としての側面により近づくことが出来たと思っています。」

<Ruby My Dear>、<Hackensack>、<’Round Midnight>、<Crepuscule With Nellie>の4曲をセロニアスのピアノソロ演奏から再構築し拡張した。確かに天才の域にあるセロニアスの頭で鳴っている音がソロピアノに凝集されると考えれば、そこから読み取るのは正しいし、あらためてピアノソロを聴くとオーケストラ的な音域と色彩の広がりに圧倒される。その脳内オーケストラを挾間が、さらに色彩を加えリアルなビッグバンドに展開して、空間に解き放って行く。
遡って一曲目は<Thelonious>、開演前の空気から音楽が次第に立ち上がって来る流れで、挾間のオリジナルアレンジで観客の心をがっちり掴み、音楽がさまざまなスタイルに変容していき、セロニアスの魅力を凝集させて、コンサート全体に対する素晴らしい序曲として機能している。このアイデアも挾間の繊細な計算と力量でこそ成立する。

<Friday the 13th>は、『Thelonious Monk and Sonny Rollins』(1953)が初出だが、ギル・エヴァンス・オーケストラの重要レパートリーのひとつであることも見逃せない。イントロからギターを全面に出して、ボサノヴァテイストのなかで印象的なハーモニーを際立たせ、心地よい重たさのあるオリジナルに比べて、浮遊感、色彩感のあるサウンドの中で、ブラスが動き回り、それぞれのソロが宙に舞う。

<Epistrophy>は、個人的には『Eric Dolphy / Last Date』(1964)の印象が強いが、恥ずかしながら1941年の曲とは知らず、ケニー・クラークとの共作でまさにビバップ創成期、『Charlie Christian / Live Sessions at Minton’s Playhouse』(1941)の頃だったとは。まさに時代を超越した早すぎた名曲だ。これはセロニアスと挾間のタイム感の共鳴の凄さを魅せる編曲で、挾間の持ち味であるクールさと粘っこさの絶妙なバランスが活きる。オーケストレーションの華やかさ巧みさに留まらず、この粘り気と重たさのあるグルーヴを絶妙にコントロールしながら、過去と現在を行き来し、観客にダイレクトに迫るところがまさに挾間がニューヨークで世界で評価され必要とされるポイントだと思う。チャイナ・モーゼスのコンサートでもこれが活きて、とんでもないExtra Dosisを実現することは間違いない。

これまで、挾間の編曲プロジェクトよりも、自身のm_unitで演奏されているようなオリジナルをもっと聴きたいと思って来たが、挾間がジャズの古典に新しい生命を持たせる魔法もより楽しみになって来た。ラ・フォル・ジュルネTOKYOでは、ハービー・ハンコックの『処女航海』アルバム全体を挾間流にアレンジしてシェナ・ウインド・オーケストラが演奏する。妄想としては、(武満徹も尊敬していた)デューク・エリントンをはじめとするジャズの名曲をクラシック・フィルハーモニック・オーケストラの名曲へと変換し未来に残す偉業を達成できるのは挾間ではないかと勝手に期待している。

 

L: 『Journey to Journey』 R: 『Time River』

 

L:『Ivan Lins & Metropole Orchestra』 R:『54』

【ツアー情報】
m_unit
3/25 (Sun) Dizzy’s Club Coca-Cola, New York
http://www.jazz.org/dizzys/events/7246/miho-hazama-and-m-uit/

Siena Wind Orchestra
5/4 (Fri) Tokyo Metropolitan Theatre 東京芸術劇場コンサートホール

“La Folle Journée TOKYO 2018 – Un Monde Nouveau”
https://www.lfj.jp/lfj_2018/performance/artist/detail/art_A021.html

6/2 (Sat) Bunkyo Civic Hall
https://sienawind.com/concert_event/20180602-2

Metropole Orkest Big Band & China Moses
An Extra Dosis Soul and R&B for our Big Band

5/16 (Wed) Bimhuis, Amsterdam (with Surprising Star competition)
5/17 (Thu) Lantaren Venster, Rotterdam
5/18 (Fri) Tivoli Vredenburg, Utrecht
https://www.mo.nl/en/agenda/2018-en/metropole-orkest-big-band-china-moses

MO Big Band Plays Monk
In Honour of the 100th Birth Year of Thelonius Monk

5/26 (Sat) Onze Lieve Vrouwe Kerkhof, Amersfoort
https://www.mo.nl/en/agenda/2018-en/mo-big-band-plays-monk-3

【関連リンク】
挾間美帆 公式ウェブサイト
http://www.jamrice.co.jp/miho/

Metropole Orkest
https://www.mo.nl/en/

MO Big Band Plays Monk
In Honour of the 100th Birth Year of Thelonius Monk
https://www.mo.nl/en/agenda/2017/mo-big-band-plays-monk

Metropole Orkest Big Band & China Moses
An Extra Dosis Soul and R&B for our Big Band
https://www.mo.nl/en/agenda/2018-en/metropole-orkest-big-band-china-moses

China Moses
http://china-moses.squarespace.com/

【JT関連リンク】
挾間美帆 Miho Hazama m_unit ブルーノート東京 (2017)
http://jazztokyo.org/features/my-pick/my-pick-2017/performance-2017-local/post-23690/

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2017〜ラ・ダンス 舞曲の祭典
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-24745/

「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2018〜モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ」
プログラムとチケット発売の早わかり (速報版)
http://jazztokyo.org/news/post-25473/

『狭間美帆/タイム・リヴァー』(Text by 小西啓一)
http://www.archive.jazztokyo.org/best_cd_2015a/best_cd_2015_local_06.html

【追記】 日蘭通商航海条約
そういえば、今回のコンサートがどうのという話ではなく、一般論として思い出したのだが、日蘭通商航海条約(1912)の就労規定が手つかずで残っていたことがわかり、日蘭相互では自由に就労できることになっていた。最近微調整があり、無条件ではなくなったと思うが、それでも、日本とヨーロッパを文化で繋ぐにあったって、日本&オランダがよいアクセスの軸になったらと思った。現状はよくわからないので、関心のある方は解読していただきたい。

在オランダ日本大使館より
http://www.nl.emb-japan.go.jp/itpr_ja/20160927_roudoukyoka.html

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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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