#1510 『Rent Romus’ Life’s Blood Ensemble / Rogue Star』

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Reviewed by 剛田武  Takeshi Goda

CD:Edgetone Records EDT4191

Rent Romus (as, fl)
Joshua Marshall (ts)
Heikki “Mike” Koskinen (e-tp, tenor recorder)
Mark Clifford (vib)
Safa Shokrai (b)
Max Judelson (b)
Timothy Orr (ds)

1. Prelude to Departure
2. Space is Expanding
3. Rogue Star
4. Think!
5. Cassini
6. Past the Vale
7. Emotism
8. Kylä vuotti uutta kuuta (The village waited for the new moon)
9. Slipstream

Recorded November 16, 2017, mixed, and mastered by John Finkbeiner at New, Improved Recording Oakland, CA

Edgetone Records  http://www.edgetonerecords.com/

生命の血のつながりが生んだピュア・ジャズSFファンタジー

今年1月6日に50歳の誕生日を迎え、更なる飛躍が期待される西海岸即興シーンの台風の目、レント・ロムスのレギュラー・プロジェクトであるLife’s Blood Ensemble(以下LBE)の新作が届いた。フリー・インプロヴィゼーションに重きを置くThe Lords of Outlandに対し、「生命の血」を意味するLBEは「先人たちにインスパイアされた音楽を演奏することを主とする集団作曲グループ」(インタビューより)である。

#168 レント・ロムス Rent Romus〜“奇妙な”音楽とウェストコースト即興シーン

LBEの始まりは1997年にロムスがデンマークのミュージシャンと結成したLife’s Blood Trioだった。1997年の1stアルバム『Blood Motions』はロムスが多大な影響を受けた音楽家に捧げられた作品で、オリジナル曲に加え、チャールズ・ミンガス、エリック・ドルフィ、アーサー・ブライス、チコ・フリーマンのナンバーを演奏していた。ロムスとデンマークの繋がりは1995年のジョン・チカイとの共演に端を発する。さらにその3年前の1992年にロムスはチコ・フリーマンと共演している。そういった自分のヒーローたちとの運命的な出会いをきっかけに、音楽に脈々と流れる血筋を引き継ぎ、自らの演奏の血肉として活かして伝えることで、恩人である「音楽」への感謝の意を捧げようと考えたのだろう。2013年に『Truth Teller』(Rent Romus’ Life’s Blood名義)を、2014年にLBE名義で『Cimmerian Crossroads』をリリース。2015年には自分の一族のルーツであるフィンランドの音楽を探求した『The Otherworld Cycle (visions of the Kalevala, land of my Grandmothers)』をリリース。制作過程で出会い意気投合したフィンランド人トランぺット奏者ヘイッキ・“マイク”・コスキネンを含むセプテット編成で2016年に2枚組アナログLP『Rising Colossus』をリリース。

LBE名義では4作目にあたる本作は前作『Rising Colossus』と同じ3ホーン、2ベース、ヴァイブ、ドラムスのセプテット編成で制作された。フィンランドの国民的叙事詩『カレワラ』を題材にした『The Otherworld Cycle』ほどではないが、ストーリー/ファンタジー性のあるコンセプト・アルバムになっている。テーマは宇宙旅行。アルバム・タイトル『Rogue Star』の “ローグ(Rogue)”とは「悪党、ごろつき、腕白者」という意味だが、SF好きなら2016年に公開されたSF映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(原題:Rogue One: A Star Wars Story)を思い出すだろう。映画の中で「ローグ・ワン」とは反乱者の極秘部隊を意味するとともに、『スター・ウォーズ』シリーズ本編から逸脱する「はぐれた物語」という意味もあった。果たしてロムスたちがこの映画を意識したかどうかは分からないが、「はぐれ者の星」というタイトルには、メインストリームから逸脱した「奇妙な音楽」の実践者であるロムスたちが、新しい音楽を探求するために音の宇宙へ旅立つという決意が籠められている、と深読みしたくなる。資料によればロムス作のタイトル・ナンバー「Rogue Star」はサックス奏者ダニー・マッキャスリン(Donny McCaslin)にインスパイアされたとある。マッキャスリンがデヴィッド・ボウイの遺作『ブラックスター(★)』に参加していることを考えれば、ボウイの死もインスピレーションの源のひとつであることは間違いない。

アルバムは鳥や木々のざわめきを模したフルートやパーカッションのアンビエント・ナンバー「Prelude to Departure(出発への前奏曲)」から始まり、ベース奏者サファ・ショクレイ作のM2「Space is Expanding(空間は拡張する)」へと続く。ブルーノート風のホーンのテーマから、ダブル・ベースとヴァイブの乱打によるスピーディなビートの上で展開する二本のサックスの絡みは60年代ビバップの熱を帯びている。M3「Rogue Star(はぐれ星)」は前述したロムス作のナンバー。再びアンビエントなさざめきから始まるが、舞台は宇宙空間。不安定な弓弾きベースと軽快なボサノヴァのリズムで重力から解き放たれた三本のホーンのメロディが飛翔する。トランペット奏者コスキネン作のM4「Think!(考えろ!)」で急展開、突然の危険信号に慌てふためくのも束の間、冷静に戻ったアンサンブルが思索的なフレーズで考察する。M5「Cassini(カッシーニ)」は、1997年に打ち上げられたNASAの土星探査機カッシーニが2017年9月に運用終了し土星の大気圏に突入し燃え尽きたエピソードに感化されたヴィブラフォン奏者マーク・クリフォードが作曲したというナンバー。感情を抑えたアドリブが交錯する10分間のハードボイルドな展開は20年に亘る旅を終えた宇宙探査機の末路への追悼である。M6「Past the Vale(谷間を通過)」(ロムス作)はヴァイブとドラムのコズミックなインタールード。アルト・サックスで始まるM7「Emotism(感情主義)」はロムスがアーサー・ブライスに捧げたナンバー。ブライス風のフレーズを引用しつつ、各楽器が自由奔放に展開するアンサンブルは、完全即興よりも自由な音楽表現の地平を示唆している。M8「Kylä vuotti uutta kuuta (村は新月を待っていた)」はフィンランド民謡を元にした曲。アルバート・アイラーの黒人霊歌を思わせるスピリチュアルな演奏。ロムス作のラスト・ナンバー「Slipstream(後流)」は長い旅を終えて地上に降り立つ歓びを描いたナンバー。力強いテーマは再びアーサー・ブライス風。我が意を得たりと吹きまくるE-トランペットのエレクトリカルな音色とサックスの人間味あふれる肉声の対比が面白い。

西海岸『即興』シーンという呼び名から過激かつ晦渋なフリー・インプロヴィゼーションをイメージするリスナーも少なくないだろう。本作はそんな方にこそお勧めの「ピュアな」ジャズ・アルバムであり、「JAZZ」という伝統的なスタイルに秘められた無限の可能性を探索する意欲作である。

蛇足かもしれないが、近年の海外インディ・レーベルはCD-Rのリリースが増えており、Edgetoneレコードも例外ではなくリリース作品のほとんどがCD-Rなので、日本での取扱いは難しいようだ。しかし本作は珍しく(?)プレスCDなので、日本の輸入盤店やネットショップでの流通が期待できる。それにより少しでも多くの音楽ファンの耳に届くことを祈りたい。もちろんBandcamp等でのダウンロードやSpotify等のストリーミングで入手は可能である。(2018年3月26日 剛田武記)

 

【追記】本作と同時にEdgetoneからリリースされた『Otherworld Ensemble / Live at Malmitalo』(Edgetone Records EDT4192)は、レント・ロムスとヘイッキ・“マイク”・コスキネンが2017年5月にフィンランドを訪れ、現地の実力派ミュージシャン、ミッコ・イナーネン(sax)とテッポ・ハウタ=アホ(b)と共演したライヴ・アルバムで、LBEの『The Otherworld Cycle』の続編といえる作品。フィンランドの伝承に基づいたコンセプチュアルな意欲作であり、本作と表裏一体のアルバムと言える。ぜひ併せて聴いていただきたい。

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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