#160 『八木美知依/Seventeen』

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text by Kazue Yokoi  横井一江

ジパング ZIP-0019

八木美知依(十七絃箏)

1.オブシディアン
2.ルージュ
3.セドナ
4.ザ・バイシクル・ライド
5.トパーズ
6.ザ・ストーリーテラー
7.末摘花
8.ディープ・グリーン・シー

録音:2005年6—7月 スタジオ246


解き放たれた最初の一音、十七絃箏ならではの低く深い音韻は、古にも繋がるユーラシア的な空間に導く。八木美知依はこの楽器の可能性をどこまでも追求する。現代を生きる自由な感性による音楽的な探求と技術的な開発は相乗効果をもたらし、十七絃箏における表現領域を大きく拡大させた。弦弾きなどを試みたり、多重録音も用い、時にはプログレのように、時にはポップに、そして、インプロヴァイズし、曲毎にいや曲の中でも表情を自在に変化させていく。この楽器ならではの残響の豊かさは、イマジナテヴな空間を創出し、ソクーロフの映画のワン・シーンのような異界に迷い込んだような摩訶不思議な時空さえも醸し出す。かといえば、擬似ブルース的な響きが現れたりして、聴き手の想像力を大いに刺激する。

ところで、十七絃箏は長い歴史のある箏の中でとても新しい楽器だ。その考案者である宮城道雄は《春の海》に代表される箏曲の作曲家として有名だが、コンテンポラリーで斬新な音楽を追求し、また様々な技法を開拓した音楽家だったことを我々は見過ごしている。八木は、今回作曲にも挑戦し、全てオリジナル曲で構成した本作で、十七絃箏もまた同時代を表現する楽器であることを明確に示した。このような姿勢は、音楽家としての必然性に基づくものなのである。

彼女の音楽と向きあう凛とした姿勢は心地よい。特有の強く張られた弦と男性的ともいえる力強いピッチによるサウンドは潔い。が、箏ならではのゆらぎが情感を投影し、密やかなエロティシズムも付加するのだ。箏には無限の可能性があると、師であった沢井一恵に言ったのはロシアの作曲家ソフィア・グバィドゥーリナ。もはやジャンルによるカテゴライズも無意味だ。可能性は既に開かれている。これはひとつのメルクマールとなる作品だ。

初出: 2005年10月

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横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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