#1511『挾間美帆+メトロポール・オーケストラ・ビッグバンド/ザ・モンク:ライヴ・アット ・ビムハウス』

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『Miho Hazama+Metropole Orkestr Big Band / The Monk : Live at Bimhuis』(Verve)
ユニバーサルジャズ UCCJ-2152 ¥2700

 

text by Masahiko Yuh 悠 雅彦

Miho Hazama 挾間美帆
Metropole Orkestr Big Band

1 .Thelonious
2 .Ruby My Dear
3 .Friday The 13th
4 .Hackensack
5 .’Round Midnight
6 .Epistrophy
7 .Crepuscule With Nellie

Recorded Live at Bimuhuis, Amsterdam, the Netherlands, on October 13, 2017

冒頭のオープニング・ナンバーを聴き終えたところで、はや脱帽した。聴き終えて、感動的な映画を見終えたあとの爽快感と共通するが、しかしもっとスリリングなサウンド表現に圧倒された新鮮な驚きが、ないまぜになった気分だった。久しぶりのことだ。加えて音楽から生まれる心地よさとその後味のよさ。何といっても開花した挾間美帆の音楽的才能と、過去の優れた曲を再創造する豊かなアイディアや楽器の性能やインストルメンテイションを熟知した彼女の確かな技法によって、まさにあのセロニアス・モンクが突如、現代に甦ってきたことを実感させる、素敵なアルバムだった。

そのオープニング曲。故人が約70年も前の1947年に演奏(ブルーノート)し、のちにオーケストラでも再演した「セロニアス」。冒頭、ビッグバンドの音合わせが一夜の奇跡的秀演の発端になるとはまさか思ってもみなかっただけに、完全に虚を突かれた。あたかもチューニング光景を敢えて入れたかのように一瞬思ったからだ。ところが、これがいわば「セロニアス」の導入部だったのだ。というわけで、聴き始めた当の私は彼女の笑顔とオケ・メンバーの何食わぬ顔の演奏の術中に気持よくはまって、むしろ自由でユーモラスでさえあり、いやむしろ気のおけない彼女の術策に最上の微笑ましさを賞賛したい気持になった。その意味深長な導入部に続き、バリトンを従えたテナーのスリリングなソロが観客の耳を惹きつけて放さない場面へストライクアップし、やがて秀逸な運動性が聴く者をビッグバンドならではの快感に導くアンサンブルによるテーマへと導く。そのテーマが一種ファンファーレとなって、続くトランペット(Rik Mol)、テナー(Sjoerd Dijkhuzen)の優れたソロの舞台を用意する。まるでジャズのみならずロックやクラシックの演奏で鍛えられた柔軟性を誇るオランダきってのビッグバンド(メトロポール)を多年注視し研究してきたかのような挾間美帆のスコアに目をみはらされた。さらに、リズムをデキシー調に変化させながらも、アンサンブルの扱いでは彼女らしいスマートさを失わないばかりでなく、絶妙と称えたい最後のアンサンブルとテーマ部の再現でメトロポールを躍動させた狭間の指揮ぶりが目に見えるような快演だった。

添付された資料には、彼女がマンハッタン音楽院大学院在学中の2011年、メトロポール主催のアレンジャー・ワークショップに参加し、メトロポールが彼女の編曲力に注目したことが契機となって、以後依頼を受けてはアレンジを提供していたとある。なればこそ、今回のこの本格的なビッグバンド・ツアーのプロジェクトやモンク作品を集めたCD吹込が晴れて実現したのだろう。注目を惹いたのは、彼女がメトロポールの音楽ディレクター、ゲルト–ヤン・ブロム 氏と話しあう中で、セロニアス・モンクのソロ・ピアノ演奏に焦点を当て、選んだ7曲を新たにオーケストレーションしたと明らかにした点だ。いかに彼女がモンクの音楽を集中的に研究したかが分かる。自身、「このプログラムのおかげで、私はモンクの作曲家としての側面により近づくことが出来ました」と語る挟間美帆の感慨に、彼女のある種の達成感を読み取るのは私だけではないだろう。

オランダの公共放送局傘下にあるメトロポール・オーケストラはジャズを中心にポップス界の名だたる音楽家と組んで活動しているだけあって、強者ぞろいのヨーロッパでも屈指のオーケストラとして名を馳せている。クラシック界でも名を売った指揮者のロジェ・ヴァン・オッテルローやヴィンス・メンドーサ、特にメンドーサが率いていた2005年から後進に道を譲った13年にかけて幾度もグラミー賞を受賞して世界的な注目の的となった。

このCDでセロニアス・モンクの作品と久しぶりに邂逅し、「ブルー・モンク」、「ストレイト・ノー・チェイサー」、「モンクス・ドリーム」等々モンクが現役で活躍している時期に作曲した数多のオリジナル曲が、今や完全に永遠の古典となっていることに新たな感慨を覚えた。この1作で挾間美帆がメトロポール・ビッグバンドのために選んだ「セロニアス」に続く6曲は、モンクの代表的なオリジナル曲というより、まさに永遠の古典というべきジャズ・コンポジションだ。挾間が選んだどの曲でもアンサンブルの妙というべき、彼女の緻密で創意に富むオーケストレーション技法が、それぞれの曲で形や色合いを変えながら賞味できること、

加えてそのニュアンスの豊かさを密度の高いアンサンブル術で応えるメトロポールの演奏を通して、セロニアス・モンク作品の香り豊かなたたずまいを堪能できる稀有な例となっていることに、最近では稀なほどの感銘を受けた。たとえば、「ルビー・マイ・ディア」でのトロンボーン・アンサンブルやクラのソロを縫うように舞うサックス・アンサンブル、「ハッケンサック」の再現部での、提示部とはバランスを違えた才気が閃光を放つがごときアンサンブルなどではとりわけ狭間のペンと才気にこれまでにないほど強く印象づけられたし、「エピストロフィー」でのLeo Janssenのテナーソロに続く挾間のアンサンブル書法も秀逸だった。一方、ソロでは、強烈な個性的迫力にはかけるものの、フリューゲルホーンを吹くRik Mol(2及び3)、トロンボーン奏者のLouk Boudesteijn(6)、ピアノのHans Vroomans(2、5、7)のプレイが光った。中でもピアノのハンス・ヴルーマンスは「ルビー・マイ・ディア」や「ラウンド・ミッドナイト」でのソロで貢献したが、最後の「クレプスキュール・ウィズ・ネリー」で秀逸なアンサンブルに続いて、あたかも子守唄を思わせるプレイで好印象を与えたままページを閉じるかのように締めくくり、挾間美帆に代わる形で静かに熱狂的ライヴの幕を下ろした。挾間自身がプロデューサーとなったメトロポール・オーケストラとのこの演奏会は大盛況を記録したという。再演の期待も高まっているとのことで第2弾、第3弾を期待する声は日ごとに高まるだろう。

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悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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