#1527 『Philip White and Chris Pitsiokos / Collapse』

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Reviewed by 剛田武 Takeshi Goda

Download / Cassette Tape : AntiCausal Systems  ‎– ACS 01

1. I
2. don’t
3. dream
4. with
5. every
6. seizure
7. but
8. sometimes

All music: Philip White and Chris Pitsiokos
Recording, Mixing, Mastering: Philip White

bandcamp

 

音のIN/OUTの因果関係を崩壊させるサックス・エレットロニカ・ヴィヴァ

フィリップ・ホワイト(Philip White)。1981年生まれ、作曲家、演奏家、インプロヴァイザーとしてニューヨークをベースに活動。ハンドメイド・エレクトロニクスによる電子音楽/ノイズ演奏で知られる。また、日本の中村としまると同じノー・インプット・ミキシング・ボード奏者である。数多くのフリージャズ、即興音楽、実験音楽のミュージシャンと共演し、様々なレーベルからレコーディング作品をリリースする。2012年にNYブルックリン即興シーンに登場した若き即興サックス奏者クリス・ピッツィオコスと出会いコラボレーションを始めたのは2013年だった。ピッツィオコスも学生時代に電子音楽やノイズに没頭し、シンセサイザーや発信器によるノイズ演奏を行っていたというから、両者の出会いはごく自然だった。コラボレーションではピッツィオコスはサックスに専念したが、高速タンギングや循環呼吸によるノンストップのフリークトーンを多用するプレイは、聴感的に電子ノイズと同質だった。その記録が2014年リリースのデュオ第1作『Paroxysm』だった。「発作」を意味するタイトル通りお互いに激しくぶつかり合い、自律神経が痙攣するような軋轢を音像化した作品だった。

それから4年経って発表されたデュオ第2作が本作。一聴して遥かに統一されて叙情的になった印象がある。ホワイトは前作レコーディングの後に全く新しい楽器を設計・製作した。基本的にはデイヴィッド・チューダーが設計した非線形制御システムの古典「ニューラルシンセシス」に基づいているが、すべてデジタルでコントロールされており、ピッツィオコスの演奏を即座に分析しダイレクトに反応する電子音響システムだという。それにより、両者が恰もユニゾン、もしくはハーモニーを奏でているような錯覚を起こさせる場面が随所に現れる。しかし演奏は完全即興であり、両者の長年の経験、楽器自体のパフォーマンス特性(それに基づく限界点)により、共通語彙を構築・分解・再構築した音響作品となった。コラボを始めた当初に比べ、ホワイトもピッツィオコスもそれぞれ叙情的なプレイに移行しており、音色主導のノイズと感受性豊かなメロディが結びつく領域が広がったのは両者にとっては自然なプロセスなのである。

エレクトロニクス/ノイズとアコースティックな管楽器とのコラボレーションは数多く存在するが、どちらかが一方的に歩み寄るのではなく、両者が自己同一性を保ったままで、これほどまでに溶け合った演奏を聴かせる例を筆者は知らない。「 Collapse(崩壊)」というタイトルは、機械と肉体、電気信号と呼吸、デジタルとアナログ、シーケンサーと心臓の鼓動という異質な二極の距離が破壊され喪失することを意味する。また、各トラックのタイトルをつなげると「I don’t dream with every seizure but sometimes / 私はすべての発作で夢を見ないが、時には(見ることもある)」という意味になる。前作の「発作」がまだ収まっていないにしろ、かなりコントロールできるようになったことを示唆しているのだろう。

本作は今年フィリップ・ホワイトが自ら立ち上げたレーベル『アンタイコーザル・システムズ/AntiCausal Systems』の第一弾リリースのひとつ。制御理論において「Anticausal system(反因果律システム)」とは、過去のインプットに依存せず、現在もしくは将来のインプットのみに依存するアウトプットと内的状態を発生させる仮想システムのことである。つまり、ホワイトが使う「ノー・インプット・ミキシング・ボード」のようなシステムであろう。このレーベルの目的は、過去の方法論に影響されず、これまでにない新しい方法論で表現の可能性を開拓しようとするアーティストを、スタジオオーナーであり音響エンジニアでもホワイトの経験を活かして支援し、革新的な表現活動を推進することである。リリースは基本的にデジタル・ダウンロードと限定カセットテープのみ。カセットテープでリリースする理由は、ひとつは簡易性と省コスト化であるが、一方で手間のかかるアナログ・メディアで聴くことで、より意識的な聴取経験を聴き手に与えるためでもある。本作と同時リリースされた2作『Weston Olencki / emulsions I-IV』『Charmaine Lee / Ggggg』も個性的な作品なので、ぜひチェックしていただきたい。(2018年5月27日 剛田武記)

Anticausal Systems bandcamp

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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