#1519 『北澤恵美子/ハートフル・クラシックジャズ~彩りの風景~』

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text : Keiichi Konishi 小西啓一

Coo Records/DiskUnion ¥3000+税

北澤恵美子(マリンバ, ⑧⑨ヴァイブラフォン)
エディ・ゴメス(ウッドベース)
北條直彦(ピアノ)
小山京子(ピアノ-⑦)

①バッハ:ラルゴ(チェンバロ協奏曲 第5番 BWV 1056より)
②バッハ:インヴェンション ハ長調 BWV 772
③伝バッハ:シチリアーノ(フルートとチェンバロのためのソナタ第2番BWV 1031より)
④ダカン:かっこう
⑤スカルラッティ:ソナタ K 466
⑥ソレル:ファンダンゴ
⑦バッハ:前奏曲 ニ長調 BWV 850(『平均律クラヴィーア曲集 第1巻』より)
⑧ヴァヴィロフ:カッチーニのアヴェ・マリア
⑨ヘンデル:アンダンテとアレグロ(ヴァイオリン・ソナタ 第1番 HWV 361より)
⑩バッハ:アルマンド(フランス組曲 第2番 BWV 813より)
⑪ルクレール:タンブラン(ヴァイオリン・ソナタOp.9-3より)

arranged by ②⑤⑥⑦⑧⑪久木山 直, ③⑨⑩北條直彦, ①④斎藤 聡
録音:東京 2014年10月, 2016年10月 & 11月, ニューヨーク:2017年1月 & 2月

この“Jazz Tokyo”というジャズ・サイト、エッジの利いた先鋭的で意欲的なジャズが話題の中心というかなり硬派なイメージが濃厚。それだけにクラシックとジャズの融合で、『ハートフル・クラシックジャズ』などという一見ほんわかしたタイトル、さらに取り上げるナンバーも、バッハやヘンデルからあのカッチーニの<アベマリア>まで、お馴染みのバロックの銘品とくれば、ジャック・ルーシェやオイゲン・キケロ、はたまたこの手の日本企画もの等がすぐに思い出され、硬派ファンの方達にはほとんど見向きもされないのでは...といささか危惧してしまいますが...。しかし、じつはこのアルバム、仲々に骨太で手応えもありかなり気合充分な好作品だと、ぼくは感じています。

主役はクラシックのマリンバ奏者、北澤恵美子。名門桐朋学園の打楽器科(マリンバ専攻)で世界的権威の安倍圭子氏などに師事、卒業後は海外留学や海外での演奏会なども行っている中堅奏者。付け加えると神保町古書街の名門店、北沢書店の娘さんでもあります。その彼女をフォローするのが名手エディー・ゴメス。ジャケットにも彼女とゴメスのイラストが仲良く並んで載っていますが、ここでのゴメスがいかにも達人らしいサポート振りでかなりグッドなんです(彼女のベーシック・トラックに、NYのスタジオでゴメスが数日掛けてソロとフォローを付けたとも聞く)。こうなると一寸興味を持たれる方も出て来たかも知れませんね。

北澤さんは純粋なクラシック奏者だけに、ここではアドリはほとんどやっていません。それだけにジャズ的な感興はゴメスの卓抜なバックアップとソロ、さらにアレンジの妙という点に掛ってきますが、これもばっちり。ゴメスは言うまでもありませんが、ピアニストとしてもここに参加している、北條直彦(現代音楽からジャズまでこなす才人、ビル・エヴァンスに捧げたトリオ・アルバムでも知られる)など3人のアレンジャー達の仕事も秀逸。彼らのペンに導かれ、乾質で温かみを持った音色のマリンバ(この音色が素敵)は自在に弾け捲り、即興演奏も普通に行われていたこのバロックという時代の音楽を、ゴメスの匠技も交えつつ、クラシックとジャズの融合という形で、現代に鮮やかに蘇らせます。彼女のマリンバ、ゴメスのベース、北條などのアレンジ、それぞれが抜群な冴えを示し、この3つの要素が見事に相乗された、“超ジャンル”とも言える魅惑的な“クラシック・ジャズ”の世界。北澤さんがなまじジャズを齧っておらず、アレンジされた譜面を心を籠め一心腐乱にプレーした辺りも、このアルバムが上手く行った要因があるかも知れません。(ゴメスとの綿密なやり取りももう一要因でしょうが...)

曲は全11曲、良く知られるバロック銘曲揃いで曲の素晴らしさだけでも愉しめますが、ぼくのお気に入りは大好きなスペイン・バロックの巨匠にして僧侶、ソレールの<ファンダンゴ>。バロックの荘厳さとスパニッシュの熱情が混じり合った蠱惑的なメロディーを、タンバリンも加えながら熱く紡ぎあげる北澤とゴメス。これ1曲でも充分に愉しめますが、マリンバとヴァイブの重奏など他のナンバーも仲々です。色々な楽しみ方も出来る、それなりに奥深さも感じられる好アルバムとして、皆さまにも推薦したいと思います。

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小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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