#1520 『土田晴信/ライヴ・アット・ザ・アディロンダック・カフェ~SUNNY』

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text by Nobuto Sekiguchi 関口登人

Adirondack AD10003  ¥2700

土田 晴信 (organ)
小暮 哲也 (guitar)
二本松 義史 (drums)

1. Next Time You See Me (Junior Parker) 9’32
2. I Want to Hold Your Hand(John Lennon, Paul McCartney) 7’48
3. Yours is My Heart Alone(Franz Lehár) 6’02
4. Tenderly(Walter Gross, Jack Lawrence) 7’57
5. Something You Got(Chris Kenner) 8’41
6. Brothers 4 (Don Patterson) 7’16
7. Sunny (Bobby Hebb) 9’28
8. I’m Confessin’( Chris Smith, Al J. Neiburg) 8’30

Recorded, Mixed & Mastered  by Masubuchi Masayoshi
Recorded at :Adirondack Café, Tokyo, December 12, 2017

 

とりあえず聞いてみた第一印象は自分でも予想できなかったほど意外で、時にはさわやかさも感じられるのだ。

というのは僕がジャズ・オルガンに抱いていたイメージとかなりの隔たりがあったからだ。古い話で恐縮だが、そもそも僕がジャズ・オルガンの洗礼を受けたのはもう60年近く前のことだ。当時有楽町駅前のスバル街という袋小路の飲食街の入り口近くにジャズ喫茶「ママ」があった。客筋は一人で聴きに来るうるさ型がほとんどなので会話はなく、聞こえるのはかかっているジャズだけだった。したがってほかに聞こえる音といえば、飲み物のオーダーと聴きたいアルバムをリクエストする時の小声でのやり取りくらいだが、例外があって時々大きな声が発せられることがあった。それは風貌も声もかなり個性的な店主がリクエストされたアルバムの解説というか紹介をかける前に頓狂な声でのたまうのだった。しかしこの解説はすべてのリクエスト・アルバムが対象ではなく、かなり恣意的で発声がないままかけ続けることもあった。さてそんなある日ある時のこと。次は何がかかるのか待っている静寂の後にいきなり出てきたサウンドは不気味にさえ感じられる得体の知れないものだった。反射的に掲げられているアルバム・ジャケットに目をやると地方都市では活字でしか知らなかったジミー・スミスであることが分かった。フットペダルでモコモコとスタッカートするベースラインが通奏低音となり、これに呼応する鋭角的で刺激的な黒々としたメロディーがぶつかって生じる緊張関係は新鮮で圧倒的だった。その後はしばらくジャック・マクダフ、ジョン・パットン、ジミー・マグリフなども併せ聴いていたのだが、どういうわけか、やがて......。

そしてこのアルバム、土田晴信の『SUNNY』の登場である。冒頭、本アルバムに関し述べた「さわやか」な印象とは対極にあるようなアルバムに長く馴染んできた者にとって、リーダー土田には大いに興味をそそられるのだ。彼の経歴を覗いてみよう。幼少時からピアノ、エレクトーンに親しみ、生地横浜の高校時代にはブルース・バンドに参加している。その後進学したものの一層募る音楽上の深化、特にブルース研究の欲求やみがたく大学を退学し、ブルースの本場シカゴへ渡り、ノーザン・イリノイ大学に留学、作編曲を学びハモンドオルガンも習得している。また黒人居住区サウスサイド地区では地元ミュージシャンと演奏活動をともにしている。一方その間音楽上の軸足をブルースからジャズに移し始めたという。2010年に11年間に及ぶアメリカ生活を終え帰国。横浜周辺で活動後、2013年にはベルリンに活動拠点を移し現地での演奏活動に加えアルバムも上梓している。ドイツでの3年間を経て帰国後はジャズ・クラブ活動の傍ら慶大でジャズ史の講座をもって現在に至っている。

本ユニットはギターに小暮哲也、ドラムスに二本松義史のふたりの手練れと組んだオルガン・ジャズのティピカルなトリオである。土田が音楽と深く関わるきっかけとなったブルースから1曲①ネクスト・タイム・ユー・シー・ミーでゆったりとご機嫌なスタートを切り、後に続く演奏への期待をいやがうえにも高めている。②アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンドはいうまでもなくビートルズ・ナンバーでギターの小暮が好演している。③ユアーズ・イズ・マイ・ハート・アローンは快調に飛ばすオルガンをはじめ、メンバーの小気味の良いソロが楽しい。安らぎのスタンダード④テンダリーはミスティとならぶお気に入りでライブではどちらかを必ずチョイスするとのこと。シャッフル・リズムに乗ったソウル・ナンバー⑤サムシン・ユー・ガッタは土田にとってはもってこいの素材と言わんばかりの快演を聴かせてくれる。⑥ブラザーズ4でもオルガンがノリにノっている。⑦のサニーの土田、小暮が思い入れたっぷりに詩を歌う。クロージングの⑧アイム・コンフェシンはこのアルバム全編に横溢する寛ぎを象徴している演奏になっている。

今回オルガン・ジャズの現状の一端を改めて知ることになったが、パーソネル3人の演奏上のバランスがよく各人の力量を十分楽しめた。選曲もバラエティに富んでいるがこれも土田の守備範囲の広さのなせる業だろう。中でも③と⑥は特にジャズだった。また、ほかのナンバーもいたずらに黒っぽくせず、端正と言っていいほどすっきりしている。この辺が「さわやか」な印象と、知性的な印象も感じさせられる理由だろう。ジミー・スミスから続くジャズ・オルガンの本流、源流を辿りながら研鑽を積み現在に至った土田の現時点での成果を堪能した。


関口登人 Nobuto Sekiguchi
1960年頃からジャズを聴き始める。1968年早大法学部卒。在学中はモダンジャズ研究会に所属。以後、あのころの感動を求めて、ン十年聴き続けているが、聴き続けるしかないのかもしれない。

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