#1535 『Peter Evans and Weasel Walter / Poisonous』

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Reviewed by 剛田武  Takeshi Goda

ugEXPLODE Records  CD/DL :ug 7

Weasel Walter : ds.
Peter Evans : tp.

1. Yellow Stainer 05:48
2. Satan’s Boletus 05:04
3. Sulfur Tuft 07:04
4. Hooded False Morel 04:06
5. Bisporigera 07:34
6. Destroying Angel 04:32
7. Verpa Bohemica 09:13

recorded January 8th, 2018 at Seizure’s Palace, Brooklyn, NY
Jason LaFarge – engineer
mixed and edited by Weasel Walter

titles published by Sedition Dog Music (BMI) and Moreismore (BMI)

copyright 2018 ugEXPLODE Records

即興音楽の遥か先の異端世界に生息する毒性音響多面体。

1972年シカゴに生まれ、パンク/ノーウェイヴ/メタル/ノイズ/即興音楽などNY地下音楽界の中心で活動するウィーゼル・ウォルターと、1981年オハイオ生まれ、音楽院で高度な音楽理論と演奏技術を身につけた現代即興音楽界随一のトランぺッターであるピーター・エヴァンスは、2000年代半ばからピーター・エヴァンス/ウィーゼル・ウォルター・グループやメアリー・ハルヴァーソンとのトリオなど、様々な形でコラボレーションを続けて来た。10年以上の共演歴を誇るふたりの初のデュオ・アルバムが登場した。

「有毒な」「毒性のある」という意味の『Poisonous』をタイトルとする本作は、毒キノコの名称を冠した7つの楽章で構成されている。キノコと言えばジョン・ケージを思い出す読者は少なくないだろう。現代音楽家のケージがキノコ研究にハマったきっかけは辞書の「music」の前が「mushroom」だったから、という冗談めいた逸話もあるが、色も形もさまざまで食用から猛毒まで種類のある謎めいた菌類は、数多くの芸術家を虜にして来た。ウォルターとエヴァンスがそれに倣ったのは毒を盛って毒を制するが如く、自らの毒性音響で現在の音楽シーンを変えようという意志があるのだろう。「真面目に巫山戯(ふざけ)る」地下音楽家の諧謔性の発露であり、毒にも薬にもならない音楽が大量生産される現代エンターテインメント業界へのアンチテーゼでもある。

高度な楽器演奏テクニックと広大な音楽スタイルを持つ二人だが、生演奏のドキュメントだけでは「即興音楽の新作がまた一枚」に留まってしまう。即興音楽の遥か先(Far Beyond)を追求する為に彼らが採用した方法は、即興デュオ演奏のレコーディングを素材にして、スタジオ・ワークでまったく別のベクトルを持つ作品を創造することだった。もちろん録音素材をスタジオで再構成する方法論自体は決して斬新でも革命的でもない。しかし本作に刻まれているのは、方法論に留まらない表現者としての信念である。

ウォルターは過去に主にフリージャズを中心に他の音楽家の録音作品とセッションする「ノンウェーヴ」という試みを行い、録音行為を通して固定された「音楽作品」が完成形ではなく、命を持った演奏体であることを示した。今回の試みが「ノンウェーヴ」の続編という訳ではなさそうだが、決して奇を衒った思いつきではなく、「音楽作品」の在り方の拡張を志向するウォルターの一貫したスタイルが継承されているのは明らかである。二人の演奏家が吐き出した演奏を固定した音素材を、バラバラにして再構築することで、演奏行為の束縛から解き放ち、感性/技法/時系列の軋轢から生じるモワレを記録データとして提示することにより、聴き手ばかりでなく演奏者にとっても新鮮な聴取体験(え、こんなプレイしたっけ?)を与えることに成功している。生演奏での再現は不可能だでが、機械仕掛けのロボット音楽ではなく、間違いなく生身の人間のスポエンテニアスな表現行為の集積である。「音楽作品」への二重の謎掛けであると同時に、現在の「演奏行為」「録音行為」「聴取行為」「批評行為」への異議申し立てでもある。

レコーディングは2018年1月8日にブルックリンのスタジオ「Seizure’s Palace」で行われた。このスタジオはクリス・ピッツィオコスがCP Unitの2作やフィリップ・ホワイトとのデュオの新作をレコーディングしており、NY即興シーンの中心地のひとつになっているようだ。ドラムとトランペットの2時間の演奏を一発レコーディングした素材をウォルターが大胆にミックス/エディットし一枚のアルバムとして完成させた。

1. Yellow Stainer  / キヨゴレタケ(黄汚茸)

30 BPMと50 BPMの異なるスピードのデュオ演奏を同時再生したトランペット×2、ドラム×2のダブル・デュオ。リバーヴ処理とステレオ効果が存分に発揮されダイナミックな聴取体験が味わえる。左右のクリック音の切れ味と深いパーカッションの残響、二本のトランペットのフレーズのゆらぎが心地よい。

2. Satan’s Boletus  / ウラベニイグチ(裏紅猪口)

微弱音で演奏された素材をコンプレッサーで加工したサウンド。パーカッションの現代音楽的な冷徹さと、金管通奏音の密着感が顕微鏡を覗くような感触をもたらす。

3. Sulfur Tuft  / ニガクリタケ(苦栗茸)

ドラムのトリルとトランペットのブレスノイズを左右に振り分けたハーシュノイズ。エレクトロニクスだと音圧の暴力に耳が悲鳴をあげるが、生楽器らしい細胞皮膜のクッション効力で、風通し良く耳疲れしない騒音芸術になっている。

4. Hooded False Morel  / シャグマアミガサタケ(赭熊網笠茸)

ウォルター曰く室内管弦楽。デュオ演奏の短いフレーズをループさせたベーストラックにウィーゼルのドラムをオーバーダブして制作された。左右に広がる工事現場のようなけたたましいドラムはオーケストラ並みのダイナミズムがある。長過ぎると感じたエヴァンスの要望で曲の一部が分断されたことにより、ルイジ・ルッソロの騒音音楽を彷彿させる近未来感が強調された。

5. Bisporigera  / シロタマゴテングタケ(白卵天狗茸)

デュオの完全即興セッションをそのまま収録。スタジオ処理は殆どされていないが、サウンドの感触は他のトラックとあまり変わらない。エヴァンスの驚異的なプレイを堪能できる。

6. Destroying Angel  / ドクツルタケ(毒鶴茸)

トランペットとラチェット(歯車の付いた工具)の協奏曲。警報のような単音ファンファーレが鳴り響く中、エフェクト加工されたトランペットと左右へパンする金属音が非現実的な音空間を創り出す。金管と歯車のラヴ・アフェア。

7. Verpa Bohemica  / アミガサタケ(編笠蕈)

集大成と言える9分に及ぶ組曲。カウベルブロックのスタッカート、トランペットの通管ノイズや低音ドローン、すべてのテイクを同時再生した重厚なサウンドレイヤーなど、エピローグと呼ぶには余りに多くの可能性を示唆しつつも迎える突然の断絶は、即興音楽の先の豊穣の異端世界に繁殖する毒性音響への憧憬を喚起させる誘い水である。

(2018年6月29日記 剛田武)

 

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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