#1543『曽根麻央/インフィニット・クリーチャー』

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text by Masahiko Yuh 悠 雅彦

 

ポニーキャニオン PCCY-30248  ¥3,241(本体)+tax

[disc 1 – Acoustic]
曽根麻央 Mao Soné – trumpet, piano, percussions, voice
伊藤勇司 Yuji Ito – acoustic bass
中道みさき Misaki Nakamichi – drums

-guest musicians- -ゲスト・ミュージシャン-
山田拓斗 Tact Yamada – violin (5, 7), mandolin (7)
西方正輝 Masateru Nishikata – cello (2, 5)

01 Within The Moment  ウィズイン・ザ・モーメント
02 Drunk At The Reception  ドランク・アット・ザ・レセプション
03 Recollection (from suite “Expressions On The Melody Of Kokiriko”)リコレクション(組曲「コキリコの調べにおける表現」より)
04 Untitled Allegro  無題のアレグロ
05 George Washington Bridge Blues  ジョージ・ワシントン・ブリッジ・ブルース
06 Isfahan  イスファハン
07 From The South  フロム・ザ・サウス

[disc 2 – Electric]
曽根麻央 Mao Soné – trumpet, flugelhorn, piano, synthesizers, percussions, voice
井上銘 May Inoue – guitar
山本連 Ren Yamamoto – electric bass
木村紘 Hiro Kimura – drums

01 Beyond Gravitation  ビヨンド・グラヴィテイション
02 SkyFloor  スカイフロア
03 Introducing #BotLives  イントロデューシング#BotLives
04 Brightness Of The Lives  ブライトネス・オヴ・ザ・ライヴズ
05 I Fall In Love Too Easily  アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イージリー
06 A Letter  ア・レター
07 Japanama  ジャパナマ

Recorded at Yoyogi Studio on January 10&15, 2018
Mixed at Studio88G.E.P. in February 2018
Engineer : Nori Shiota
Mastered by Yuta Tada at Pony Canyon Mastering Room in March 2018

Produced by Mao Soné
Co-produced and Directed by Hiro Yamashita

長く生きていると、こんな傑物のにわかには信じがたいプレイを目の当たりにできるのかと、実は感無量だった。実際にはCDを聴いた瞬間の感想を思わず、あたかも目の前で曽根麻央が演奏しているように書いてしまったほど、曽根麻央の存在感は格別だった。ほんの1年と少し前にバークリー音楽大学院を首席で卒業したこの青年が、まさに今、目の前でピアノを弾きながらトランペットを吹いているという、私には想像もできない演奏姿を披瀝していることに、聴いている私の方が夢でも見ているかのような、何やら不思議な気分になった。

ひとりの、それも学業を終えたばかりの26歳(1991年生まれ)の青年が、ピアノを演奏しながらトランペットを吹くことが本当に可能なのかさえ、私には俄かには判断できない。例えば、冒頭の「Within the Moment」(ちなみにこの曲は曽根が2014年の国際セロニアス・モンク・コンペティションの審査に提出し、世界中から集まった13人のファイナリストの一人となったときの曲。それは冒頭のモンクふうな音形が暗示している)の終わりの方で、彼はトランペットとピアノのユニゾンを提示しているが、これだったら録音技術で解決しうる。しかし、送ってもらった資料によれば、曽根がピアノとトランペットを同時に演奏する手法を実践しているとあり、どのようにしてその不可能生を打破し、これを克服して前例のない二刀流を編み出したのか。この目で早く確かめたいと気がはやる。

とはいえ、そんな思惑は抜きにして、曽根麻央という演奏家がピアニストとして、同時にトランペッターとして、かつ作曲家として、新しい音楽家像を作り上げる期待に胸躍らせる無二の新鋭として登場したことを喜びたい。彼がバークリーに入学以後、ジョー・ロバーノ、タイガー大越、ダニーロ・ペレス、テリ・リン・キャリントンら私たちもその能力をよく知っている卓越したミュージシャン、かつ教師でもある人々に恵まれ、彼らの指導のもとで精進してきた一つの証しが、この桁外れな楽才を示したこのデビュー・アルバムであることは間違いない。

本作は2枚のCDで構成され、DISC -1がアコースティック、  DISC – 2がエレクトリックとして、曽根がそれぞれの分野でその輝かしい才能が注目を集めている自分とも同世代のミュージシャンと共演しているところが聴きものであり、仮にエレクトリック・サウンドが苦手だったり、電化サウンドやフュージョンに尻込みする人でも、ここでの曽根の音楽にひと膝乗り出したり、共感を覚えたりするのではあるまいか。自己の作品をアコースティック編とエレクトリック編に分けて世に問うた人が過去にあったかなかったか個人的には定かではないが、少なくともデビュー作でその試みに挑戦したのは曽根麻央が初めてではないかと思う。しかも決定的なのは、当の曽根がその試みに構えたところがまるでないことだ。それだけ彼自身にアコースティックとエレクトリックとを区別する意識がないことを示しており、彼が今日的気風を持つミュージシャンであることを改めて再認識させられた。それにしてもここで彼と共演しているミュージシャンたちのセンスといい、演奏能力といい、終始こちらの耳目を惹きつけて離さないプレイぶりには、爽快感を覚えずにはいられなかった。共演ミュージシャンの大半が海外での活動経験を持ち、中道みさきのように曽根と同じバークリーで研鑽を積んだミュージシャンもいれば、中にはゲスト参加し、ヴァイオリンとマンドリン(DISC-1の7)で爽やかな演奏を披露した山田拓斗のように曽根とは高校の同級生だったという演奏者もいる。一言でいえば、曽根はむろん、出演者全員が演奏家としての毛並みの良さを強く印象づける。

DISC -1 と DISC -2 で演奏された全14曲は2曲を除く12曲はすべて曽根麻央による楽曲。曽根のジャズ演奏家としてのセンスと能力はいわば例外的な2曲を聞くとよく分かる。すなわち、64年のデューク・エリントン極東旅行で生まれ、エリントンとビリー・ストレイホーンが共作した「イスファハン」での曽根のメロディーの歌わせ方(トランペット)といい、バックで彼が弾くピアノのバッキングやアクセントのつけ方といい、彼が並みのプレーヤーではないことがよく分かった。また、DISC -2で演奏したジュール・スタインのメランコリックな歌心が静かに忍び寄るような1曲「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥ・イージリー」での、曽根のリリカルなメロディー。この歌わせ方を聴くと、マイルス・デイヴィスやチェット・ベイカーの顔が浮かんでくる。ギターの井上銘と会話しあった後の曽根のソロとその後の井上のソロが実に素晴らしい。

DISC -2の<エレクトリック>でも曽根はときにアコースティック・ピアノを弾いているせいか、あまりフュージョンとかエレクトリック・ジャズといった観念にこだわることなく聴けたことも、少なくとも私には印象深い曽根のデビュー作ではあった。最後になってしまったが、伊藤勇司、中道みさき、山田拓斗、チェロの西方正輝、井上銘、山本連、木村紘たちの爽やかな健闘を讃えたい。むろん今後の曽根の活躍にも注視していくことは言うまでもない。

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悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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