#1548 『阿部薫+豊住芳三郎/MANNYOKA(万葉歌)』

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text by Takeo Suetomi 末冨健夫

 

NoBusiness Records NBCD 107

Kaoru Abe – alto, sopranino and soprano saxophones
Sabu Toyozumi – drums and percussion

1. Song for Mithue Toyozumi – Part I  (21:14)
2. Song for Mithue Toyozumi – Part II  (14:44)
3. Song for Sakamoto Kikuyo – Part I  (4:43)
4. Song for Sakamoto Kikuyo – Part II  (14:48)
5. Song for Sakamoto Kikuyo – Part III  (18:28)

First two tracks recorded live at Minor, Kichijôji, Tokyo, Saturday, 7th July, 1978
The rest of the tracks recorded live at Gaya, Hatsudai, Tokyo, Friday, 13th January, 1978
Recorded by Shinji Ohno
Sound restauration by Benjamin Duboc and Julien Palomo
Mastered by Arūnas Zujus at MAMA studios
Design by Oskaras Anosovas
Photos by Katsuji Okamoto
Produced by Danas Mikailionis
Co-producer – Valerij Anosov

 

阿部薫と豊住芳三郎のデュオ・アルバムがリトアニアのNoBusiness Recordsからリリースされました。私がプロデュースしているChapChap Seriesの2枚『アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ & 高瀬アキ/ライヴ・アット・カフェ・アモレス』と『崔善培カルテット/アリラン・ファンタジー』と同時リリースだったので、これもChapChap Seriesだと思われた人もいましたが、全く別のもので、これは、フランスのimprovising beingsのJulien Palomo氏による尽力でリリースが実現したものです。

もともとは、2015年にリリースされたユニバーサル・ミュージックの「埋蔵音源発掘シリーズ」の中に加える予定でした。私が1990年代にライヴを企画して、録音していた音源を主に使って、20枚を順次リリースするという企画でしたが、結局一回目の5枚をリリースしただけでシリーズは頓挫してしまいました。

このシリーズに使う音源を選定する作業では、録音年代も違い、このライヴに全く私が関与していない阿部&豊住の音源でしたが、一応候補に挙げていました。ライヴに関与していないと言えば、常滑市での『ポール・ラザフォード&豊住芳三郎/The Conscience』もそうなのですが、これはNoBusiness RecordsのChapChap Seriesからのリリースとなっています。

ある時、豊住さんから「この録音はJulienのレーベルから出させてくれない?」との依頼が届きました。Julienは豊住さんのCDをすでにリリースしていたこともあり、そのお礼の意味もあって、豊住さんはimprovising beingsからのリリースを望まれたのでした。私は二つ返事でOKいたしました。当時それに対する反発はユニバーサル・ミュージック側からも起らず、「では、Improvising beingsからのリリースになります。」となったのでした。

しかし、いくら待ってもリリースはされません。結局、Julienもこのリリースは断念してしまいました。そして、アメリカのSIWAからLPでリリースとか、函館のレーベルからと、二転三転と流浪の旅に出てしまった感がありましたが、Julienのしぶとい尽力のおかげで、この度 NoBusiness Recordsからのリリースとなったというワケです。

「Kaoru Abe & Sabu Toyozumi」とクレジットされていますが、ここで聴かれる演奏は”オーヴァーハング・パーティー”と呼ばれる阿部と豊住の二人によるユニットによる演奏になります。ALMから阿部薫の死後にリリースされたアルバム『オーヴァーハング・パーティー』は、すでにファンの間では有名なアルバムとなっています。これはアルバム・タイトルですが、実は二人のユニットの名前でもあったのです。このユニットの名前は、阿部自身も大変気に入っていたようです。

さて、今回リリースされたアルバムは、CDが『万葉歌』、LPが『挽歌』とタイトルされています。CDは、1978年7月7日、吉祥寺「マイナー」での2曲と、同年1月13日、初台「騒」での録音から3曲が収録されています。LPでは、「騒」での3曲のみが収録されています。CDとLPのタイトルを変えるところが凝り性の豊住さんらしい。自分のアルバムとなると、今日がカヴァーの印刷の日と言うのに「やっぱり、あそこを変更させて。」なんて言ってこられるくらいですから。リリースした後からも「ああした方がよかったなあ。」なんて言われます。

阿部はアルト・サックス、ソプラノ・サックス、ソプラニーノを演奏。豊住はドラムス、パーカッションを演奏。阿部は、他者との丁々発止としたバトルを繰り広げるよりも、ソロで独自の世界を構築(構築はしていない?自らを破壊?)する姿が似合う。「ひょっとしたらアンサンブル・ワークは無理なのか?」とも思える阿部だが、豊住とのデュオだと、「解体的交感」ではないが、そんなフレーズも頭に浮かんで来るほどのコンビネーションが見られる。だが、「反応」とはまた違って、お互いがお互いの道を進みながらもテレパシーで繋がり合っているかのような音の反応が起こっている。これは、豊住のライヴを見て聴いていると当たり前のごとく見られるところです。阿部とのデュオで特に顕著なワケではありません。阿部にとっては、同時代に豊住がいたことは大変幸運だったと思う。他に、手の合う、ユニットを結成できるほどの人材がいたかどうか...?

このアルバムは、阿部はサックスのみを演奏しているが、ALMでの『オーヴァーハング・パーティー』では、アルトサックスは1曲のみ。あとは、アルト・クラリネット、ギター、マリンバ、ピアノ、ハーモニカを演奏している。まさしくマルチ・インストゥルメンタリストだ。

阿部薫と聞いてすぐさま浮かぶ、あの強烈なビブラートとノイジーな音色を伴った魔界からの雄たけびの如きアルトサックスの演奏は1曲しか聴けない。また豊住芳三郎もALM盤では弱音の繊細で緻密な演奏が多くみられて、後年のFree Improvised Music/インプロの世界観がすでにここで現出している。その意味でも凄く価値のあるアルバムなのだが、サックスの音を浴びたい、そして豊住の怒涛のフリー・ドラミングを全身で浴びたいと言うファンには、今回リリースされた『万葉歌』『挽歌』はジャスト・フィットするのではないだろうか。ALM盤とは違った側面を見せる今回のアルバムは、今後ALM盤と対をなすアルバムとして後世の記憶に残って行くのではないだろうか。ところで、もう一作『蝉脱』(Qbico) が有るのも忘れてはいけない。日本のJAZZ史を越えて音楽史に残るであろう『オーヴァーハング・パーティー』をこの機会にぜひ聴いてみていただきたい。阿部も凄いが、豊住のドラムにも注視して欲しい。こんな稀有な二人が遭遇、合体したユニットは世界広しと言えども、そうそうありはしないから。(末冨健夫:ChapChap Records)

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