#1549 『崔善培カルテット/アリラン・ファンタジー』〜故郷への道

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『Choi Sun-Bae Quartet / Arirang Fantasy』
『チェ・ソンベ・カルテット/アリラン・ファンタジー』

reviewrd by Yoshiaki Onnyk Kinno  金野Onnyk吉晃

Choi Sun Bae 崔善培- trumpet
Junji Hirose 広瀬淳二- tenor and soprano saxophones
Motoharu Yoshizawa 吉沢元治 – electric vertical five-strings bass
Kim Dae Hwan 金大煥- percussion

CD: NBCD 108 / 2018
1. Blue Sky 16:53
2. Remember Bird 7:56
3. The Stream of Time 8:13
4. Korea Fantasy 11:14
5. Arirang Fantasy 21:5

LP: NBCD 108 / 2018(限定300枚)
Side A
Korea Fantasy
Remember Bird

Side B
Arirang Fantasy

Recorded live at Romanisches Café, Roppongi, Tokyo, June 12, 1995
Recorded by Teruto Soejima
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Design by Oskaras Anosovas
Produced by Danas Mikailionis and Takeo Suetomi (Chap Chap Records)
Release coordinator – Kenny Inaoka (Jazz Tokyo)
Co-producer – Valerij Anosov


故副島輝人さんが、六本木「ロマニッシェス・カフェ」で録音したこのライブ、実は96年に僕はカセットで聴いていた。

それはソウルでチェさんと会ったときに、「お土産です」と渡された3本のカセットのうちのひとつだった。チェさんが副島さんからコピーしてもらったものだろう。

このとき貰ったカセット群は、同時期の演奏としてチェさんが自ら推薦できるものだったのだと思う。

そのうち一本は「ちゃぷちゃぷ」シリーズの本山、防府の「カフェ・アモレス」で録音されたトリオのライブである。高木元輝、キム・デー・ファンが参加している。変な言い方だが、このトリオは聴いていて安心する。

例えば棒は三本あればどこかで束ねて、立たせることができる。それは安定していて、物を載せる事も出来るし、布を被せればテントにもなる。三個の石を三角形に配置すれば𥧄にもなる。しかし、その三本や三個がほぼ同じ大きさや材質でなければダメだ。このライブでは各々がソロを披露しているが、各自の資質をというものを良く現している。

別のカセット、“Dreams of Hegum”と書かれた作品はKim Sung Ahのヘーグム(奚琴。二胡に似た擦弦楽器)をメインにして、チャング、チンというサムルノリでおなじみの打楽器群、そしてこれが面白いのだが、ハモンドオルガン奏者を加えている。チェさんは、もちろんトランペット、コルネット、そしてハーモニカである。こう書くと、彼の、郷愁を誘うようなあのハーモニカの音色を思い出す方もあるだろう。この作品も実に不思議な世界を想像させ、じわじわ好きになってしまう。

このカセットの余白に、「アリラン・ファンタジー」と同日録音したライブと思われるもう一つのトラックが入っていた。それは30分以上に渡るチェ、吉沢元治、キム・デー・ファンのトリオであった。これがまた素晴らしいのだが、今回のCDには全体のバランス、長さのせいだろうか、収録されていない。

そして三本目のカセットが今回リリースされる事になったのが95年東京でのカルテット・ライブ「アリラン・ファンタジー」という訳だった。

僕が気になるのはやはりチェさんのソロである。演奏家たるもの、これぞ自分の音だというものを獲得したい。誰が聴いても、あ、これは彼だと思えるような音色、フレージング、テクニックを身につけたいのだ。

トランペットという楽器は、基本的に自己主張が強い。それはかつてはジャズ・アンサンブルの中ではボーカリストの位置にあったからだろうか。輝かしい音色と、先頭を切って鋭く旋律を奏で、どこまでも高く登って行くかと思えば、「卵の殻の上を歩く」繊細さもある。

チェさんも自分のサウンドを随分追求したであろう。しかしカン・テー・ファン・トリオにおいてはどうしてもカンさんのアルトに次ぐ位置という印象があるし、彼の円満なパーソナリティが強い主張を見せなかった。

彼のサウンドへの意志を良く見せてくれるのは、このCDトラック2の広瀬とのデュオではないだろうか。前半二人は湖面のように静かにうねるロングトーンでのハーモニーを聴かせる。一転、切れ切れのフレーズが激しく応酬される。チェはこういうインタープレイになると、倍音の強いノイジーなサウンドを多用し聴くものの心をざわつかせる。「静かなる男」の両面を感じさせる興味深いトラックだ。この姿を引き出したのも広瀬というテクニシャンあらばこそだ。

最後のタイトルチューン「アリラン・ファンタジー」は美しいアンサンブルだ。吉沢のベースに導かれ、キムの鼓動のようなビートがやってくる。広瀬はドローンに徹し、チェの奏でる「アリラン」の旋律がゆったりと訪れる。しかし次第にうねりは怒濤となり、再び凪に。そこから広瀬のノンブレスが、吉沢の電子音が、キムのパーカッションが絡み合い、チェもその雪崩に巻き込まれ、いきなり静まり返る。そして僕は取り残されてしまったという不安を覚える。

まさにファンタジー、幻想。アリランに誘われて見た夢は終わった。

キムと吉沢が鬼籍に入ってしばらく経つ。広瀬もチェも含め、四人はまだジャズの引力圏内にあって、それでもそれを越えるべく模索していた。彼らは声高に「これが俺のジャズだ」とは主張しなかった。彼らの存在自体がジャズの現在形だった。そして彼らはことさらにフリーであることを主張しなかった。

「いかにフリーではないかを知る事が、真のフリーへの道である」。僕は何度もそんなことを書いた。それにいま付け加えよう。「故郷への道、それもフリーの探求なのだ」と。


LP/CDは以下で購入可能です(Chap Chap Music):
https://www.chapchap-music.com/no-business-records-chap-chap-series-8-20%E6%9B%B4%E6%96%B0/

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金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。第五列の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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