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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 246

#1555 『Alexander von Schlippenbach + Aki Takase / Live at Cafe Amores』
『アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ+高瀬アキ/ライヴ・アット・カフェ・アモレス』

Text by Akira Saito 齊藤聡

NoBusiness Records NBCD 106/NBLP 115

Alexander von Schlippenbach (p)
Aki Takase 高瀬アキ (p)

1. Jackhammer
2. Na na na ist das der Weg
3. You are what you is (Frank Zappa)
4. Mingus-mix: Dukes Choice – Boogie Stop Shuffle (Charles Mingus / Aki Takase)
5. Misterioso – Evidence (Thelonious Monk)
6. Skippy (Thelonious Monk)
7. Lulu’s Back to Town (Harry Warren)
8. The Morlocks

Recorded live on the 16th August, 1995 at Café Amores, Hofu, Yamaguchi, Japan by Takeo Suetomi / Concert produced by Takeo Suetomi
All compositions by Alexander von Schlippenbach (GEMA), except otherwise indicated
Mastered by Arūnas Zujus at MAMAstudios
Cover photo by Inge Ofenstein
Inside photos by Akihiro Matsumoto
Design by Oskaras Anosovas
Produced by Danas Mikailionis and Takeo Suetomi (Chap Chap Records)
Release coordinator – Kenny Inaoka (Jazz Tokyo)
Co-producer – Valerij Anosov

この時期、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハと高瀬アキはベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ(BCJO)の演奏も活発に行っている。もともと1988年にベルリン市のバックアップがあって結成されたオケであり、翌89年にはオケ名をタイトルとしたファーストアルバムを吹き込んでいる(ECM)。ただ、このときのピアニストは高瀬とミシャ・メンゲルベルグであり、シュリッペンバッハは指揮に専念している。高瀬とシュリッペンバッハのふたりがピアノを弾く作品は、93年吹き込みの『The Morlocks and Other Pieces』(FMP)と、96年の来日公演を記録した『Live in Japan ‘96』(DIW)である。すなわち、95年の本盤『Live at Cafe Amores』は、ふたりがピアノを弾いたBCJOの吹き込み2作品の間に位置するわけである。

この3枚すべてで演奏された曲は「Jackhammer」と「The Morlocks」の2つであり、聴き比べると興味深い。

オケでは「Jackhammer」は管楽器の数人をフィーチャーして賑々しくも展開するのに対し、本盤ではシュリッペンバッハのソロである。やや静かにクラシック曲の小品のように始まるのだが、やがて演奏は激しさを増してくる。ソロでありながら、別々の速い旋律を2本縒り合わせたような強さがある。

「The Morlocks」のオケとピアノデュオとの違いはまた別の面白さを持っている。オケではプリペアドピアノ2台により、金属の割れたような音と戯れながら、執拗に反復しずらしてゆく。2回とも15-16分間の演奏であり、いずれにおいても、ピアノ2台の奇妙な形が演奏の前後を受け持ち、それに挟みこまれた時間は管楽器奏者たちが集団即興でコミュニティ的な構造物を作り上げてみせる(エヴァン・パーカーのソロがフィーチャーされる)。一方、本盤はピアノ1台による連弾なのだ。このとき、ピアノの内部にはピザ用の金属皿を置いたという。それによるがさがさとしたノイズを切り分けて、ふたりのピアノが姿を現してくる。96年のBCJO東京公演でも印象的だったふたりのコントラストがここでも奏功しているようだ。シュリッペンバッハは細かい音を積み重ねて大きなクラスターを形成し、高瀬はより一音一音を強く、ときにブルージーでもあるフレーズを提示する。その4本の手がダイナミックなうねりを創り出し、オケよりもやや短い13分弱で奔流の絵を描いてみせている。

「Na na na ist das der Weg」やフランク・ザッパの「You are what you is」では文字通りピアニストとしての身体機能が拡張された表現をみせる。チャールス・ミンガスをモチーフの一部にしたトリッキーな演奏を経て、セロニアス・モンクを3曲、見事な換骨奪胎である。そして高瀬のソロ「Lulu’s Back to Town」には彼女のユーモアも込められているように思える。

本盤はピアノ演奏のショーケースであるとともに、ピアノ表現の可動域をダイナミックに拡張させた作品でもある。

(文中敬称略)

🎵 来日情報;https://jazztokyo.org/news/events/post-30825/

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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