#1551 『Han-earl Park, Catherine Sikora and Nick Didkovsky / Eris 136199』

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Reviewed by  剛田武 Takeshi Goda

CD/DL : busterandfriends.com  BAF001

パク・ハンアル Han-earl Park (g)
キャサリン・シコラ Catherine Sikora (ts)
ニック・ディドゥコフスキー Nick Didkovsky (g)

1. Therianthropy I
2. Therianthropy II
3. Therianthropy III
4. Therianthropy IV
5. Adaptive Radiation I
6. Adaptive Radiation II
7. Adaptive Radiation III
8. Universal Greebly
9. Hypnagogia I
10. Hypnagogia II

Music by Han-earl Park, Catherine Sikora and Nick Didkovsky.

Tracks 1–4, 9 and 10 recorded live November 2, 2017, Bryggekælderen, Copenhagen.
Live-mix by Troels Bech. Recorded by Troels Bech.

Tracks 5–8 recorded live November 5, 2017, The Bridge Hotel, Newcastle.
Recorded by Charlie McGovern. Mixed by Han-earl Park.

Mastered by Richard Scott.
Design and artwork by Han-earl Park.

 

逸脱の極みは伝統賛美に通ず。

2012〜13年ニューヨークに滞在し、様々なミュージシャンと交歓したパク・ハンアルが故国アイルランドに帰国後リリースしたアルバムが2015年の『Han-earl Park, Catherine Sikora, Nick Didkovsky, Josh Sinton/Anomic Aphasia』。Eris 136199とMetis 9の二つのユニットによる2013年NYでのライヴ演奏を収めたアルバムだった。『失語症』を意味するアルバム・タイトルに相応しい名状不明の硬質な即興音響。大西洋の両岸NYと欧州いずれのジャズ/即興/ノイズ/現音とも異質のサウンド・スペクタクルは惑星ソラリスの海のように知性的だった。パクは2017年初頭にもうひとつのユニットで『Han-earl Park, Dominic Lash, Mark Sanders and Caroline Pugh / Sirene 1009』をリリース。イギリス/アイルランドのミュージシャンをフィーチャーした小惑星ジレーネは、キャロライン・ピューのヴォイスも含め、4つの個体が摩耗・再生する鉱物音響を提示し、独自の即興宇宙を拡張した。

2017年11月、パクがNYを離れてから約4年ぶりにEris 136199の3人が集まり、ヨーロッパ・ツアーを敢行した。描き出されたのは『失語症』で素描されたトリオの音楽言語をより明確かつ大胆に暴き出した、音の彫塑と呼ぶべき演奏態の超克である。

左チャネルがパク・ハンアル。Eris 136199、Mathulde 253、Metis 9、Sirene 1009といった小惑星に起因するややこしい名前のプロジェクトを生み出し続ける頭脳楽師である坊主頭のこのギタリストは、決してギターを『弾く』ことはしない。研磨した御影石のピックを弦やボディやネックに接触させる打撃音・摩擦音を自らの話法として提示する。鉱物と金属と木片、人間の皮膚を介さずに発するマテリアリズム(物音)は、肉体を剥ぎ取られた属性が反語的にヒューマニスティックで、聴覚器官に触覚刺激を与えて知覚神経を活性化する。

逆サイドの右側に座すのがニック・ディドゥコフスキ―。NYのアヴァン・ロック・バンドDoctor Nerveを率いるロングヘアーの彼は、パクと真逆にギターを『弾く』ことに執念を燃やす。デジタル/アナログのペダルやエフェクターを介しつつも、指(ピック)で弦を弾く振動を如何にダイレクトに音に転化させるかが、最大の関心事のようだ。その一方でアルゴリズムに基づいたリアルタイム・コンピューター作曲言語「Java Music Specification Language」の開発者でもある彼だけに、アンプから放出される周波数は、人間の脳が音楽・メロディを知覚できる限界値を逸脱している。

ギターの上に屈みこむ俯き男子二人に挟まれて、凛とした姿勢で背筋を伸ばすのがキャサリン・シコラ。彼女のテナー&ソプラノ・サックスは、汲めども尽きぬ泉さながらに、流麗なメロディ/旋律を休むことなく噴出する。ときにブルージーに唸り、ときにコルトレーン張りに音のシーツを広げ、ときに乱数表のオルゴールのように、しゃくりあげたり咽び泣くように聴こえるときも、彼女の瞳は桃源郷の喜びに輝いているに違いない。聴き手をそんな夢想に誘うほど、自由度の高い誇らしげな演奏である。

襤褸を纏った侍従に付き添われた茨の冠の王女のような三人の図は、中世の教会のステンドグラスにふさわしい。無名の小惑星の名前を持つトリオの演奏は、地球に存在しない未知の物質だけでできている訳ではなく、地球上の数千年の音楽史を源に持つ。名状不明な音響のスキマに、グレゴリオ聖歌、吟遊詩人の竪琴、ニューオリンズの葬送マーチ、バルトークの弦楽四重奏、大都会のストリート・ミュージシャンなど、あらゆる人類の演奏行為の断片を聴きとることが出来る。逸脱を極めれば極めるほど、古典や伝統への親和性が高くなる。それはまるで「光速に近づくと、時間の流れが遅くなる」という特殊相対性理論(Special Relativity Theory)のようだ。彼らが目指す先は、まだ誰も提唱していない「特殊逸脱性理論(Special Deviation Theory)」の確立なのかもしれない。

(2018年10月4日記 剛田武)

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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