#1564『キース・ジャレット/ラ・フェニーチェ』
『Keith Jarrett / La Fenice』

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Keith Jarrett / La Fenice
ECM2601 / ユニバーサルジャズ UCCE-1172/3 (2018.10.19)

1. Part I
2. Part II
3. Part III
4. Part IV
5. Part V

1. Part VI
2. The Sun Whose Rays (Arthur Gilbert & A. S. Sullivan)
3. Part VII
4. Part VIII
5. My Wild Irish Rose (Traditional)
6. Stella By Starlight (Victor Young / Ned Washington)
7. Blossom
Music by Keith Jarrett

Recorded in concert July 19, 2006 at Gran Teatro La Fenice, Venice
Producer: Keith Jarrett
Engineer: Martin Peason
Mastering: Chrisoph Stickel, Manfred Eicher at MSM Studio, Munchen
Front and back cover photos: Juan Hitters
Liner photos: Roberto Masotti
Design: Sascha Kleis
Executive producer: Manfred Eicher
La Fenice concert produced by Veneto Jazz / Giuseppe Mormile


「ヴェネツィア・ビエンナーレ 2018」の音楽部門「第62回 国際現代音楽フェスティバル」で、生涯に亘る貢献を称える金獅子賞 (Leone d’Oro alla carriera per la Musica 2018, La Biennale di Venezia) がキース・ジャレットに贈られた。この賞はピエール・ブーレーズ、スティーヴ・ライヒらが受賞していて、ジャズミュージシャンとしての受賞は初の快挙となるが、作曲家としての受賞としても納得がいく。ヴェネツィア・フェニーチェ劇場 (Teatro La Fenice) でのピアノソロコンサートのライブ盤をこのタイミングでリリースするのは、キースの受賞を記念し、その健康と長寿を祈り、2019年のECM50周年に向けてもひとつの節目を意識したものと推測される。

フェニーチェ劇場は約1,100席 (紀尾井ホールが800席)、1792年にオープンし、さまざまなオペラの初演の舞台となってきたが、1836、1996年の火災に遭いながら人々の力を結集して甦った。2006年7月19日のコンサートだが、時期的には2005年9月録音の『The Carnegie Hall Concert』(ECM1989/90) の後、2007年4月〜5月に東京・横浜・大阪でスタンダーズ・トリオ・ツアーの前にあたり、ソロとトリオの両方で安定した活動を行っていた。この時期のキースのソロコンサートにみられるように、冒頭をピアノの音響を探求するような抽象的な感のあるインプロヴィゼーションから始め、より明確なメロディ感と、ときに強いグルーヴを持つインプロヴィゼーションの数々を演奏、終盤〜アンコールに向けて珠玉の曲を魅せるという流れにはなっている。という説明ができるのもライブ録音を後から聴く、いわばじゃんけんの後出しだからで、実際のところ、キースのソロコンサートは一期一会で予測ができない。冒頭からの難解とも思える部分は、既存の音楽に寄りかからず、かつ、音楽的なアイデアを失わずに、複数の音のラインが絡み合いながら構成されていて、その音響に身を委ねると、脳の日常使っていない領域に刺激を与え開発され聴覚を拡張されていくように感じる。それは優れたレストランが驚きをもった前菜で味覚を拡張するのにも似ているし、キースの次の「パート」が始まるたびに新しい世界が広がり、ピアノがこんなに美しい響きを生み出す楽器であることを再認識させられる。

この記事冒頭のECM公式PVに収められ、先行配信もされていた<The Sun Whose Rays>は、ウィリアム  S. ギルバート&アーサー・サリヴァンによる日本を舞台にしたイギリスのオペレッタ『The Mikado; or, The Town of Titipu』(1885) からの一曲でコンサート半ばに演奏された。タイトルは一説によれば『ミカド:または秩父の町』の意味とも言われ、開国間もない日本とアジアに舞台のイメージを借りながら、専制君主と上流社会を笑う、実際にはイギリス社会への風刺とはいえ、日本にとってあまり嬉しくないものであり、また最近では人種差別的としてアメリカでの上演予定に炎上することもあるが、キースのシンプルな演奏はあくまでも美しい。<My Wild Irish Rose>は、1998年に慢性無気力症候群から復帰する時期にニュージャージーの自宅スタジオで録音された『The Melody at Night, with You』(ECM1675) に収められ人気の一曲。コンサートを締め括るのは、1974年、ヤン・ガルバレク、パレ・ダニエルソン、ヨン・クリステンセンとの “ヨーロピアン・カルテット” で録音された <Blossom>。『Belonging』(ECM1950) から32年を経て、<Blossom> の美しく優しいメロディーがフェニーチェ劇場の空間を満たし、観客の心と、オペラの歴史を見守って来た建物に吸い込まれて行く。

2018年9月29日には受賞記念コンサートが予定されていたが、6月時点でキャンセルされており、先だって2018年3月21日のカーネギーホールでのピアノソロコンサートも健康理由でキャンセルされている。このアルバムを聴いて、キースのピアノをコンサートで聴きたいという切実な想いが湧き上がる。フェニーチェはフェニックスを意味し、二度の大火災から甦っていることもその名にふさわしい。キースの金獅子賞受賞を心から祝い、フェニーチェを想いながら、キースの一日も早い回復と復帰を祈りたい。

 


Keith Jarrett Quartet at Hannover 1974
Keith Jarrett (p ), Jan Garbarek (ts), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)
19:01から<Blossom>が収録されている。

THE 2018 LION AWARDS FOR MUSIC
KEITH JARRETT PERFORMANCE ON 29 SEPTEMBER TO BE REPLACED
Carnegie Hall / Keith Jarrett: An Evening of Solo Piano Improvisations (March 21, 2018)
2018/3/21 「キース・ジャレット カーネギーホール・コンサート」

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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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