#942『矢沢朋子/Playing in the Dark 仏蘭西幻想奇譚』

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text by 堀内宏公

Geisha Farm/ラッツパック レコード
GF-001 3,000円(税込)
矢沢朋子(ピアノ)

1. アリーナのための (アルヴォ・ペルト)
2. 薔薇十字会の鐘-1 修道会の歌(エリック・サティ)
3. 2つのポエムOp.32-1 (アレクサンダー・スクリャービン)
4. 2つのポエムOp.32-2 (アレクサンダー・スクリャービン)
5. エチュードNo.8装飾音のための(クロード・ドビュッシー)
6. エチュードNo.10対比音のための(クロード・ドビュッシー)
7. エチュードNo.11アルペジョのための(クロード・ドビュッシー)
8. 絞首台 -夜のガスパール-(モーリス・ラヴェル)
9. マンドラゴール (トリスタン・ミュライユ)
10. ソナタ No.9 Op.68 “黒ミサ”(アレクサンダー・スクリャービン)
11. 2つのダンスOp.73-1 “ガーランド”(アレクサンダー・スクリャービン)
12. 2つのダンスOp.73-2 “炎に向かって” (アレクサンダー・スクリャービン)
13. 薔薇十字会の鐘-3 修道院長の歌(エリック・サティ)

録音:2012年7月16日 ギャラクシー・スタジオ(ベルギー)
ダウンロード配信: iTune store, amazon.co.jp他
高音質配信: http://ototoy.jp/music


本作が録音されたベルギーのギャラクシー・スタジオは、最新鋭の録音設備を備え、スタジオ内は奥行き約25m、幅約15m、高さ約8mという広さで、ホール録音のような重厚かつ繊細な響きを特徴とする。加えて、今回はマイク・セッティングとミックスにも工夫を凝らしたことで、ピアノ一台による録音というよりは、マルチ・チャンネルによる電子音楽のような趣を感じさせるものに仕上がっている。

ピアニスト矢沢朋子の活動は、これまではエレクトロニクスを用いた新しいメディアを使った実験的傾向の作曲家とのコラボレーションが多かったが、本作でとりあげているのは近現代ヨーロッパの神秘主義的傾向を示す作品群である。ただし、前述のように、スタジオ・エンジニアとの協働によって斬新な音像を作り上げるところに、生来の“これまでにない音響体験”への指向が表れており、またそれこそが本作の魅力となっている。

現在、矢沢朋子は沖縄に移住しており、本作は、その沖縄でのコンサート・シリーズで演奏されたプログラムが基になって構成されている。今年(2012年)2月18日に宜野座がらまんホールで開催された矢沢朋子の演奏会「仏蘭西幻想奇譚」について、琉球新報に掲載された作曲家・近藤春恵氏の批評がこれらの作品の特徴について十全に語っているので、以下のリンクにてご紹介しておく。
http://blog.ginoza-bunka.jp/2012/03/14/%E5%A4%A7%E4%BA%BA%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E4%BC%9A%E3%81%AE%E8%A9%95

この近藤春恵氏の評には、「矢沢の演奏は作品の意図を深く吟味し、和音も塊で塗りつぶすことなくモチーフの細やかな質感や表情を弾き分け、ピアノがオーケストラの様に多彩な音色で彩られた。」とある。アルバムではモチーフの質感の多層性が一段と強調されている一方で、しかし色彩感は逆にモノトーンな印象が勝っている。とはいえ、黒、灰、白の作り出す微細な階調の世界は、本作のテーマである神秘主義的傾向をかえって深めている側面もある。

個々の作品に意識を集中して聴くと、やや性急に弾き進みすぎているようで、もっと曖昧でもっと多義的な響きの質感への思いも募るが、硬質で鋭い音像との兼ね合いからすれば、適切なバランスであるともいえる。ここでの目的は、一世紀前の隠微な精神世界の回顧と再発見ではないのだから。科学的合理の及ばない世界との交渉を、今の課題として(音楽を通じて)確認・提示したいという欲求が、響きのリアリティを支えているのだと思う。(堀内宏公)

ギャラクシー・スタジオ
http://www.galaxy.be/

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