#1562 ピーター・エヴァンス同時リリース4作品レビュー

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text by 定淳志 Atsushi Joe

 

圧倒的パフォーマンスと強烈な印象とともに、待望の初来日ツアーを終えたピーター・エヴァンスが、本誌 No. 245 の来日直前インタビューで予告していた新作を、彼の主宰する More is More からリリースした。しかも、言及していた4つの作品を一斉に同時リリース(ソロアルバムだけは日本ツアー限定で先行販売)するという壮挙である。彼の意気(粋)に応えるため、本誌でも4作品を一斉に同時レビューする。


『Pulverize the Sound / sequel』

Peter Evans (tp) / Tim Dahl (elb) / Mike Pride (ds, per, nose flute, moose call)

1. Tom Petty is Dead / 2. Athena / 3. Appropriating Suffering / 4. Convent of the Sacred Beast / 5. m-D / 6. Pulsar

Recorded at Seizures Palace, Brooklyn NY, Spring 2018

グループのデビュー作となった Relative Pitch Records からのセルフタイトルアルバムがそうであったように、第2作の本作も、冒頭から凄まじい。いや、前作よりもさらに凄まじさを増した印象だ。エヴァンスの歪みまくったトランペット、ティム・ダールのひずみまくったエレクトリックベース、マイク・プライドの狂いまくったドラムが一丸一塊となり一心不乱、いや乱々と疾走する。その快感たるや。以降もさまざまなタイプの曲が展開されるが、エヴァンスの多種多芸なトランペット操術はもちろん、ダールによる多岐多様なエフェクトベース、プライドによる多義多彩なドラミングが、炸裂し分裂し破裂し潰裂し爆裂する。「サウンドを粉々にせよ」というバンド名が示すように、彼らの「破壊」はもとより1カ所にとどまるものでなく、第2形態に達した。


『Peter Evans / The Veil』

Peter Evans (piccolo trumpet, tp)

1. Unfolding / 2. Chorale / 3. Homo Ludens – for Cecil Taylor / 4. Witchcraft / 5. Inner Urge / 6. Osculum – taking shape in God’s breath / 7. Perception Beyond Knowing / 8. Rebirth of the Epimethean Man / 9. Etude for Makigami / 10. Hymn / 11. The Book of Void / 12. Becoming / 13. For Eric Fromm

Recorded May – July 2018 at Seizure’s Palace

圧倒的な切迫感、悪魔的な完成度、魅力的な緊迫感、天才的な強度に、一音目から引き込まれ、二音目にはさらに引きずり込まれ、三音目以降は彼の世界から抜け出せなくなっている。エヴァンスのソロ演奏は「自分の発展や成長を試す鏡」だそうだが、初来日ツアー直前の5~6月に録音され『ベール』と命名された本作は、大傑作であった15~16年録音の『ライフブラッド』とはまた異なる相貌を持ち、さらに別の豊饒なる地平へとわれわれの耳と心を誘う。楽音、声、ブレス音、リップ音、バルブ音、管の振動、等々を余す所なく、矢継早に駆使し、緻密に組み合わせ、異界美を生み出し、時には朗々とうたってみせることも厭わない。自作曲以外に1曲だけ、ジョー・ヘンダーソン作の〈インナー・アージ〉が演奏されているが、うっかりするとそれと気づかないほどに、彼の音楽として完成されている。


『Levy Lorenzo & Peter Evans / Q』

Levy Lorenzo (perc, electronics) / Peter Evans (tp)

1. Axis / 2. Modified / 3. Whiteswitch / 4. QQ / 5. Gansga / 6. Becoming / 7. Pulsar (intro) / 8. Pulsar / 9. The Stone Cauldron

Recorded May 11 2018 at Seizure’s Palace

エヴァンスのデュオ相手を務めるレビー・ロレンツォは、ブカレスト生まれのフィリピン系米国人音楽家。打楽器奏者である一方、電子音楽家でもあり、インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル(ICE)にパーカッション奏者として参加しつつ、エンジニアとテクニカルディレクターも務める。ピーター・エヴァンス・セプテットのメンバーでもある。本デュオにおけるエヴァンスは、ロレンツォの曲ごとに異なるさまざまな打音や電子音に、常に最も親和性の高い音を選んで応対する。電子音とは溶け合い、交錯し、せめぎ合い、高め合い、特に〈パルサー〉での文字通り宇宙SFのようなサウンドには脱帽だ。一方で打楽器とでは、両者のリズムが混ざり合い、ぶつかり、強化される。いつもながら、よくもこれだけ八面六臂の変貌ができるものだ、と改めて感心し、陶然とする。


『David Byrd-Marrow and Peter Evans / Eye of the Mind』

David Byrd – Marrow (french horn) / Peter Evans (tp, piccolo trumpet, flugelhorn)

1. Channeling / 2. Spiral / 3. Echoes / 4. Waves on Waves

Recorded 7 October 2018 at the Stone

本作のデュオ共演者であるデイヴィッド・バード・マロウは、米国のフレンチホルン奏者。レビー・ロレンツォと同じくICEの一員であり、クラシック・現代音楽のほか、ジャズ作品への参加も多い。エヴァンスとは音の高低の違いはあれど、同じ金管同士。彼も当然、エヴァンスの多彩な表現をそのまま低音に移植したような、豊かな技術を持っている。〈心の目〉と題された、いわば「兄弟」による演奏群は、互いを補強し合い、補填し合い、補遺し合い、補足し合い、捕色し合い、補綴し合うように進んでいく。エヴァンスには特殊奏法技術を持つサックス奏者たちとの共演作も多いが、それらとはまた異なった、心温まる交歓の記録と聴こえる。

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定淳志

定 淳志 Atsushi Joe 1973年生。北海道在住。執筆協力に「聴いたら危険!ジャズ入門/田中啓文」(アスキー新書、2012年)。普段はすこぶるどうでもいい会社員。なお苗字は本来訓読みだが、ジャズ界隈では「音読み」になる。ブログ http://outwardbound. hatenablog.com/

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