# 1570『Miggy Augmented Orchestra(宮嶋みぎわ)/COLORFUL』

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text by Masahiko Yuh 悠 雅彦

ArtistShare AS0167

Composer / Bandleader: Migiwa Miyajima 宮嶋みぎわ
Trumpets and Flugelhorns: Dan Urness, David Smith, Matt Holman, Nadje Noordhuis
Trombones: John Mosca, Jason Jackson, Jennifer Wharton (bass trombone), Douglas Purviance (bass trombone)
Reeds: Ben Kono (alto saxophone, soprano saxophone, flute, clarinet), Alejandro Aviles (alto saxophone, soprano saxophone, flute, clarinet), Sam Dillon (tenor saxophone, flute, clarinet), Quinsin Nachoff (tenor saxophone, clarinet), Carl Maraghi (baritone saxophone, bass clarinet)
Rhythm Section: Jeb Patton (piano, except 2 and 9), Migiwa Miyajima (piano, on 2 and 9), Jared Schonig (drums), Pete McCann (guitar), 寺尾陽介 (bass)
Guest player: Tomoko Nagashima from Orange Pekoe ナガシマトモコ(voice)

1. Ready?
2. Colorful by Migiwa Miyajima
3. Captain Miggy’s Age of Discovery
4. Find the white line – inspiration on birds
5. The Hi Hat Man
6. Drops into the Sky – dedicated to Kumi Hoshika
7. Awakening
8. Hope for Hope
9. An Ending – I love you

Jay Messina; Recording & Mixing Engineer
Owen Mulholland; Assistant Recording & Mixing Engineer
Recorded at Sear Sound, NYC on August 3 and 4, 2017
Mixed at Sear Sound, NYC on August 17,18, and 24, 2017
Greg Calbi; Mastering Engineer
Mastered at Sterling Sound, NYC on August 25, 2017

試聴サイト:https://miggymigiwa.net/listen-colorful


順風満帆に音楽人生を歩んできたとは言えない1女性ミュージシャンの負けん気が本作品のサウンドそのものを勢いよく鼓舞しているーーー聴き終えて私の心を打ったのはまさに、彼女が自らの人生そのものに馬乗りになって鞭打ち、鼓舞し、正面から闘いを挑んで、結果的に鮮烈な1ページを書き上げる作業を達成したことで、その力強いジャズ・オーケストラ表現が沸騰するサウンドそのものの核となって、まさしく聴くものに肉迫するアルバムだった、ということに尽きる。実際、オーケストラ作品としての書法も、展開の仕方も、ジャズにおける従前の作曲技法と微妙に、ときには大きく違うことに着目したとき、宮嶋みぎわというこの新進作曲家の、作曲家としての立ち位置が他の誰とも違うばかりでなく、ときには独創的ともいえる作曲書法を、いったいどう評価すべきか。この点について私自身の内心に疑心暗鬼の恐れが生じたことを最初に告白しておきたいと思う。それほど彼女の作風は通常の作曲家のそれと比べてまったくといっていいくらい違うのだ。

一つの例を挙げてみよう。⑦「アウェイクニング」のアンサンブル書法。この決して型通りではないアンサンブルはしかし、実に鮮烈である。ネット上に宮嶋自身が書いている解説で、彼女の心の支えだった母親が癌にかかったことが分かったとたん音楽が書けなくなり、それ以後自身に何かが壊れたことを知る、とあった。そこから立ち上がってもとの自分に戻っていく闘いをサウンド化したのがこの曲だと告白しているのだが、この速い3拍子の陰で祝祭的なアンサンブルが彼女の精神的快癒を表していると知って、思わず最初から聴き直した。こうした彼女ならではの書法は演奏されたほぼ全曲で見いだすことができるが、各ソロの背後で絶えず勇躍する各種ホーンによるアンサンブル書法に彼女の独創性が発揮されていることは間違いない。それだけに、というべきか。ここには聴く者の心を騒がせるよく知られた曲もなければ、ウケ狙いの曲などもむろんない。だが、確かなことは、我が国のジャズ愛好家の間では宮嶋の先輩格に当たるマリア・シュナイダーの所属レーベルである ArtistShare から、彼女の記念すべき第1作が発売されることになったということ。私自身、ひと昔前に、NYの名門ヴィレッジ・ヴァンガードへサド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラやギル・エヴァンス・オーケストラを聴きに足を運んだ忘れられぬ思い出がある。その由緒あるオーケストラの血を受け継ぐヴァンガード・オーケストラで宮嶋みぎわが吹き込んだ渾身の1作が、この「Color-Ful」であり、これがいかに尋常ならざるデビューであるかは名トロンボーン奏者というよりも、作編曲家として名高いスライド・ハンプトンの「彼女はNYの秘宝だ」という賛辞がすべてを物語っているといっていいのではないか。

ビッグバンド演奏のお定まりといえば、アンサンブルによるテーマ提示と、その和声進行に基づいて展開されるソロのリレー、そして再現部を経てエンディングにいたるというコース。
ところが宮嶋の場合、テーマの提示があってソロが展開されるといったイージーな図式を想定して、あるいは当初から決めつけて聴いたりすると当てが外れたり、ときに痛い目に遭ったりさせられる。ソロ演奏といえば通常は、ソロを取るプレイヤーを援護するのはリズム陣(ピアノ、ベース、ドラムス)だが、彼女の場合ソロでも多くはアンサンブルを伴い、様々な可能性を吟味した上での総合的なアプローチを通して、ソロとアンサンブルという図式をダイナミックに展開しようとしているからだ。そこでは彼女自身に大向こうウケ狙いの野心はまったくない。サウンド自体にも甘さに流れる恐れは一切ない。絞りに絞ったアンサンブルの精悍な形が自然に発揮されており、優れたプレーヤーが揃ったアンサンブルならではの迫力が遺憾なく押し出されていて気持ち良い。①や④でのジェブ・パットン(p)、③のサム・ディロン(ts)やベン・コーノ(as),⑦のマット・ホールマン(tp)等々、ソロも上々。⑤でハイハットの妙技を見せるジャレッド・スコーニグ(ds)や寺尾陽介のベース・ソロなど、ソロの聴きものも少なくない。
正直に言えば、最初は宮嶋の作編曲手法の勝手が分からない時点で匙を投げかかったが、何度も繰り返して聴いたことで彼女の独特の作曲手法の味わいが親近感を持って伝わってくるようになった。かくして、久しぶりに歯ごたえのあるジャズ・オーケストラ・サウンドを満喫するにいたった。音楽大学出でもなく、加えて音楽とは関係のない職業について苦労しながら、しかし決して音楽への情熱を失うことなく、2012年に一念発起して米国へ移住してからの努力が実を結び、転身をみずから祝福するかのようなオーケストラ作品を完成させたことを同胞の1人として喜びたい。この1作を聴く機会に恵まれて、初めて宮嶋みぎわという名の作曲家を知り、その作品にアプローチする幸運を得たことを改めて感謝したい。
宮嶋みぎわの今後の活躍を温かく見守りたい。(2018年10月30日記)


Album release party @ the Birdland – Sep 30, 2018   photo by Michael Yu


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悠雅彦

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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