#1574『柳川芳命 – 藤田亮 / 無頼派二重奏』

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text by 剛田武  Takeshi Goda

CD-R : BURAIHA-1 ¥1,000(Tax inc.)

柳川芳命  Homei Yanagawa / alto-sax
藤田亮 Ryo Fujita / drums

  1. Duo improvisation

Recorded on Sep. 8th, 2018

Live at Shu-Yu-Kan(酒游館)(Oumihachiman, Shiga, JAPAN)

 

堕落論を打破する新・無頼派主義者のパンドラの匣

第二次世界大戦直後の混乱の日本で、既成文学への批判に基づき、反俗・反権威・反道徳的言動で世間を騒がせ、時代のトリックスターとなった作家たちがいた。そのひとり太宰治が1946年に刊行した長編小説『パンドラの匣』の一節「私はリベルタンです。無頼派です。束縛に反抗します。時を得顔のものを嘲笑します」に因んで“無頼派”と呼ばれるようになった。太宰の他に、坂口安吾、織田作之助、檀一雄、石川淳などの作家がいる。坂口の『堕落論』や『デカダン文学論』、太宰の『斜陽』、『人間失格』といった作品名から想像できる自堕落・退廃的なイメージは、39歳で入水自殺した太宰、結核で33歳で没した織田、ヒロポンやアドルムといった薬物中毒で入退院を繰り返した坂口たちの生き様に現れている。才能がある一方で、実生活でダメ人間ぶりを発揮した不器用な人生に心酔するデカダン愛好家は今でも後を絶たない。

日本の即興音楽の“無頼派”と言えば、筆者の頭に浮かぶのは29歳で薬物中毒死した早世のサックス奏者・阿部薫である。数々の文献や映画に描かれた、演奏や実生活での奇行や破綻ぶりは、正に天才故のダメ人間に他ならない。そうした伝説が阿部の音楽の魅力を惹き立てていることは誰もが認めるところだろう。

名古屋を拠点に活動する柳川芳命は、阿部薫と鈴木いづみの生涯を描いた映画『エンドレスワルツ』(1995)で阿部役・町田康の演奏シーンの吹き替えを担当した。大阪をベースにフリー・ドラマーとして演奏活動を続ける藤田亮は、これまで4作のソロ・ドラム作品をCD-Rでリリースしている。アートワークはすべて過去の地下音楽系レコード・ジャケットのオマージュとなっており、1st CD-R『Pursuit of isolation/孤立の追求』は高柳昌行・阿部薫ニュー・ディレクション『解体的交感』へのオマージュとなっている。

2015年以来コラボを重ねてきた二人が初のデュオ・アルバムを『無頼派二重奏』と名付けた動機は、太宰治や坂口安吾でも、阿部薫でもないだろう。しかし、ここに記録された天衣無縫の拓かれた演奏は、彼ら無頼派の先達の意思を無意識に継承している。繊細なビブラートと激しいフラジオを兼ね備えた柳川のアルト、シンバルを多用し、アンチモードな打音を叩き出す藤田のパンク・ドラム。二人の演奏スタイルやテクニックは、徒に奇を衒ったり、新機軸を追求したりするものではなく、寧ろ直球一本のオーソドックスな即興演奏と言っていい。注目すべきは、両者の間の崇光な関係性である。あたかも浅草の雷門に仁王立ちする雷神と風神が、睨み合うのではなく、かと言って馴れ合うのでもなく、それぞれ全身全霊で守護に徹する信頼関係。それに基づいて二人が自己表現を最大限に突き詰めることにより、ひとりでは到達不可能な高い次元に達することが出来る。柳川はライナーノーツ(ライヴ当日のブログ)で「降霊の儀式の高揚感」と表現しているが、このアルバムを聴いて一番印象に残るのは、どんなに激しく高揚しても、理性と自己分析を失わない二人の精神力である。個として孤を尊ぶ“無頼派”同士が重なり合う為には、精神を覚醒させたまま無我の境地に遊ぶことが必要なのだ。「気をつけないと抑制の利かない演奏になってしまうこともある」と柳川は自重を兼ねて書いているが、即興演奏を極めた先には、抑制の必要がない完全無我の世界が広がっていることもまた確かである。ここに収録された36分の演奏記録にはその入口が示されている。次はライヴ会場で、自分の目と耳と全身で『無頼派二重奏』を体験してみたい。たとえそれが禁断の「パンドラの匣」を開く結果になるとしても。(2018年12月1日記 剛田武)

 

柳川芳命公式サイト「Nothing but blow」

https://homeiyanagawadotblog.wordpress.com/

 

剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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