#1303 『Pascal Niggenkemper le 7 ème continente / talking trash』

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text by 剛田武(Takeshi Goda)

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Pascal Niggenkemper (b)
Julian Elvira (fl)
Eve Risser (p)
Philip Zoubek (p)
Joris Ruhl (cl, amplification)
Joachim Badenhorst (cl, amplification)
Constantin Herzog (b on track 7)

  1. Great Pacific Garbage Patch
  2. 135°W – 155°W & 35°N – 42°N
  3. Gyres Océaniques
  4. Plastisphere
  5. Talking Trash
  6. Crochet Coral Reef
  7. Ideonella Sakaiensis
  8. Geisternetz
  9. Kinetic Islands

all compositions by P. Niggenkemper (GEMA)
recorded at Loft in Cologne on October 30, 2014 by Christian Heck
except track 7 recorded on March 23, 2016 by Stefan Deistler
mixed & mastered by Christophe Albertijn
produced by Pascal Niggenkemper
executive production by Pedro Costa for Trem Azul
design by Travassos


騒音芸術家が創造するノスタルジックなガラクタ交響詩

昨年ソロ・アルバム『汝の耳で見よ(Look With Thine Ears)』をリリースし、21世紀の未来派芸術家として異彩を放つドイツ生まれのベース奏者パスカル・ニゲンケンペルの最新作。クラリネットが二人、プリペアード・ピアノが二人、低音部にコントラバス(ウッドベース)とサブコントラバス・フルートの二人という<2×2×2>の変則セクステット編成。彼の思念を音楽の形にするユニットは、第六感ならぬ第七大陸と名付けられた。主戦場であるNY即興シーンの情報誌「New York City Jazz Record」から”NYシーンで最も冒険的で危険なベーシスト”と形容される38歳のニゲンケンペルの表現行為の核心には、旋律や和声やリズム以上に、音色そのものへの興味があることは、ウッドベースを騒音楽器イントナルモーリに置き換えたような前作に明らかだ。音色への異常なほどの愛着心が、今作では6人各自が演奏する楽器を固定概念から解き放ち、波路遥かに飛躍させる大胆な挑戦に駆り立てた。

アルバム・タイトルは『喋るゴミ』。オープニングの「太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Patch)」とは、北太平洋の中央に漂う海洋ごみの海域の名称である。ジャケット写真のように、浮遊したビニールやプラスチックなどの破片が北太平洋循環の海流に閉ざされ、異常に集中している海域だという。他の曲もすべて「太平洋ゴミベルト」に関連したタイトルが付けられている。つまり、ニゲンケンペルの仲間たちがこのアルバムで描き出す『第七大陸』とは、ロマンティックな伝説の大陸ではなく、地球上に実在する海洋ごみの集積体のことなのである。

荒波に揉まれて摩耗して得体の知れない老廃物と化した楽器群が互いにぶつかり摩擦し軋み合う音像が、名手揃いの演奏家の手により意図的に再現される。生命を持たない非楽音でありながら、有機生命体特有の深い感情の渦が、生分解されない高濃度のプラスチック微粒子となって漂う。廃棄物の軋轢は、楽器の種類や演奏法の遺伝子を組み換えながら、55分間絶えず繰り返される。無機物の楽器と有機物の演奏家が軋みあって生じる摩擦熱は、聴き手の意識に染み込んで感情をかき乱す。ガサガサゴソゴソとした物音ノイズのミニマリズムの連続に、次第に美しい音色や優美なアンサンブルが聴こえてきて、最後の2曲「幽霊ネットワーク(Geisternetz)」と「動く島(Kinetic Islands)」では、甘美なノスタルジアに恍惚としてしまうのだ。まるで100年前の未来派前衛芸術を語るときに醸し出される曰く言いがたい懐かしさに似た感慨を抱かせる。

因習を打破した掟破りの演奏法で奏でられる6つのアコースティック楽器が、無惨なまでの音響体に変幻したとき生み出されるのが「郷愁」だとしたら、芸術表現とは、時代の最前衛を目指せば目指すほど、ゆっくり古の記憶を呼び覚ます走馬灯のように廻り始めるのかもしれない。もちろん実際に太平洋を廻り続けるのは、毒々しいゴミの塊なのだけれど。
(剛田武 2016年5月23日記)

 

●最新ソロコンサート映像へのリンク⇒Concert de Pascal Niggenkemper, contrebasse, enregistré le 11 janvier 2016 au studio 106 de Radio France pour l’émission “A l’improviste” d’Anne Montaron. Emission diffusée le 6 février 2016 sur France Musique.

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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