#1604 『かたりよみとおんがく 星のかけら』

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2018
Vibration Records.
VBCT0781
Text by Kayo Fushiya 伏谷佳代

<パーソネル>
かたりよみ
 児玉朗(Ro Kodama)
 西本朝子(Asako Nishimoto)
シャンティ・ドラゴン
 林あけみ(Akemi Hayashi)作編曲/ピアノ
 金剛督 (Susumu Kongo)Soprano, Alto, Tenor Sax / Flute / Bass Clarinet

<収録>
1.大漁(1~10 金子みすゞ)
2.日の光
3.石ころ
4.露
5.蜂と神さま
6.雪
7.積った雪
8.星とたんぽぽ
9.二つの草
10.にはとり
11.稲荷詣で会った美人のはなし(今昔物語第二十八巻より第二十八話)
Say it (Jimmy McHugh)~My Foolish Heart(Victor Young)~Mean to Me(Fred E.Ahlert)
12.尼ども山に入りて茸を食いて舞うこと(今昔物語第二十八巻より第一話)
13.夏目漱石『夢十夜』より第一夜

Total time: 67:17

企画:Vibration Records. 金剛督
制作:児玉朗/西本朝子/林あけみ/金剛督
録音/マスタリング:加藤明(太陽倶楽部レコーディングス)
ライナーノート:筒井之隆(ジャズ喫茶ちぐさ理事/カップヌードルミュージアム館長)
デザイン/イラストレーション:山内新
ピアノ調律:斎藤雅顕(サウンドウェーブ)
撮影(林あけみ/金剛督):荒谷良一
制作協力:金子みすゞ著作保存会(JULA出版局)
録音:2017年4月27日、28日 横浜市港南区民文化センター ひまわりの郷


文学的ではあっても音の伸びという点では困難をともなう日本語。演劇人である児玉朗と西本朝子は、1979年に「創造の会」を結成。声にだし「かたりよむ」ことで、身体に魂を入れるように言葉を血肉化してきた。その声音(こわね)を音の葉で膨らませてゆくのがヴェテラン・デュオ「シャンティ・ドラゴン」ことリードの金剛督とピアノの林あけみ。このプロフェッショナル四者による「かたりよみ」ユニットは2002年に誕生、ホームである横浜を皮切りに公演を重ねた。2017年15周年を記念して制作されたのが本作『星のかけら』である。ひとつの大きな世界観を共有することを志向しているが、特殊奏法を駆使して互いのサウンドの近似値を図るものでもなければ、「うた」のアルバムでもない。絵画に色彩ありきのように、言葉に意味ありき、音楽に音色ありき—その原点に忠実だ。言葉は朗々とした自律性を保ち、音楽はストレートに美しいメロディを謳歌する。長尺のソロを見せつけるわけでもない。作・編曲は林の手によるが、時折スタンダートの名曲も顔を覗かせる。時空を超えた情景が切り替わりつつ、アマルガムのように組み合わされる言葉と音の量感、各シーンに立ち込める濃霧のような余韻に圧倒される。

金剛と林の音には、言葉に尽せぬところがある。筆者にとって、それはドン・プーレンの音を聴いたときに覚える感慨に近い。両者とも多くのジャンルを横断し、殊に楽器使いに関しては、それぞれの機能を知り尽くした技倆(ぎりょう)の持ち主であることは言うまでもない。このアルバムでは、ふたりは奇をてらうことなくごく「ふつうに」プレイしている。その地に足のついた充実から、えもいわれぬ香気が立ち昇る。音楽が醸成される一朝一夕ではない長い時間と、奏者の来し方を想う。言い換えれば、瞬間や日常の積み重ねが生むものということになるのだが。音楽の根底を成しているものが、非常にハート・ウォーミングなのだ。さりげない音の断片に、ふと涙腺がゆるむような慈しみがある。激音より雄弁。音楽とは人間が露わになるものだが、寡音になればなるほどそこから逃れられない。終曲「星のかけら」でみせる、シンプルな単音による絡みはまさに結晶のよう。マクロを内包したミクロが悠然と満ちる金子みすゞの世界のように、このアルバムは物語全体と細部が遠近両用に等しく成熟している。言葉と音は、いつでも、万人に開かれているのだ。(*文中敬称略)



<関連リンク>
http://maple-piano.com/profile.htm
http://www.congo-sax.com/
http://members2.o.oo7.jp/

伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

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