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CD/DVD DisksNo. 252

#1601 『Jo-Yu Chen / Savage Beauty』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Sony Music

Jo-Yu Chen 陳若玗 (p)
Christopher Tordini (b)
Tommy Crane (ds)
Mark Turner (sax) (special guest)

1. Slightly Ajar
2. Panthers
3. Stay With Me
4. Savage Beauty (In Memory of Alexander McQueen)
5. Walking Through Fear
6. A Tale of Two Cities
7. Spooky Ooky
8. Song For Twins (Mia & Max)
9. Creepers
10. Will I See You Again

Produced by Aaron Parks & Jo-Yu Chen
Recorded by Chris Allen at Sear Sound, NYC. December 15 and 16, 2019
Mixed by Chris Allen at Sear Sound. January 18, 2019
Mastered by Nate Wood

『Savage Beauty』は、台湾出身・ニューヨーク在住のピアニスト、ルォー・ユー・チェン(陳若玗)の4枚目のリーダー作である。その間、クリストファー・トルディーニ(ベース)、トミー・クレイン(ドラムス)とずっとピアノトリオを組んでおり、本作では半分ほどの曲にマーク・ターナー(テナーサックス)が参加している。過去3作品にはそれぞれ異なるゲストが入っているが(ドラムス、二胡、ギター)、管楽器は本作がはじめてだ。

冒頭の「Slightly Ajar」は静かに始まるのだが、それとは裏腹に鍵盤のタッチが強い。ここでベースと前後して入る拍子木のような音は何だろうか。それがチェンのピアノ世界の幕開けとなって、次第に三者それぞれが驚くほどに強度を高めていく。続く「Panthers」ではテナーのマーク・ターナーが入る。ピアノトリオは高いテンションを保ったままであり、柔らかくも重くもあるトルディーニのベース、上から下まで全方位的に使うクレインのドラムスが、ターナーの形成するグラデーションに楔を刺す。

一転してチェンは和音を重ね、鋭角の音から層の音へと世界を変えてみせる。緊張から快楽への転換でもある。ただ、快楽を聴き手と共有するからといって、それは常套句的なサウンドではない。特にクレインが後半に繰り出す複雑なリズムには惹かれるものがある。再び4曲目の「Savage Beauty」において再びターナーが加わるのだが、2曲目がテナーの濃淡への攻撃で会ったのとは異なり、より複雑な何層もの布でピアノとテナーとが相互に相手を包みあうように聴こえる。そして中盤から、ピアノが決意を持ったように旅をするのだ。クサい言い方をするならば勇気と慰撫のサウンドである。

またしても雰囲気が一転する。「Walking Through Fear」は三者それぞれの模索なのだが、プレイしている間に、自分の中の紐帯を見出したかのように力を得ていくようだ。続く「A Tale of Two Cities」はトリオとターナーとがリラックスして重なっている。チェンの複雑で華麗な旋律とコードワークは見事だ。「Spooky Ooky」はトルディーニのベースがリードし、ここにきて、チェンのピアノが再び鋭角化してきていることに気付かされる。抒情的な曲を経て、「Creepers」ではテナーがさらにマージナルな場で音色をボール半分ずつ出し入れしており、濃淡の人・ターナーの真価だと言うことができる。チェンは結晶を砕いて散らすかのようなピアノで応じており、感嘆すべきマッチングだ。拍子木の音がまた聴こえる、やはり最初のひそかな策動はクレインだった。そして、トリオによって、幻惑するようなコード変化と三者の役割交代の妙を提示し、締めくくられる。

過去の3作品にはそれぞれに聴き所が多い。『Obsession』(2011年)はデビュー作ながら完成度が高く、オーネット・コールマンの「Blues Connotation」におけるトルディーニの速度自在のベースや、ゲスト参加したタイショーン・ソーリー(ドラムス)の「Cry Me a River」における「大きい」としか言いようのないブラシなど刺激的である(なお、トルディーニはソーリーの作品にも多く参加している)。続く『Incomplete Soul』(2011年)ではアンディ・リンの二胡からピアノトリオへの転換が実に鮮やかだ。『Stranger』(2014年)ではカート・ローゼンウィンケル(ギター)を迎え、それが奏功したのか、本作につながる強いピアノタッチをみせている。中国の正月曲の演奏が面白くもある。

そして本作では、さらに自由度を増したピアノトリオ、ターナーの参加による化学変化、また音風景のさまざまな展開を聴くことができる。静かでも強力でもあるアルバムだ。近い将来にぜひ日本ツアーを実現してほしい。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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