#238 『佐藤允彦プレイズ富樫雅彦 ORIGIN』

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text by 横井一江 Kazue Yokoi

ewe EWSA-0121

佐藤允彦(p, Roland HP-900L)
all tunes composed by 富樫雅彦

1. Good Night My Friends
2. Reminisce-‘63
3. 3 1/2 Cycle
4. Till We Meet Again
5. Sorrowful Days
6. Mr. Joke
7. Contrast
8. Memories
9. Love of My Friends
10. Bura-Bura
11. Everlasting Friendship
12. Good Night My Friends

録音:2006年1月10日@メーサーハウス/1月16日@音響ハウス
エンジニア:広兼輝彦
プロデューサー:佐藤允彦


立ち上がってきた音風景は、深い抒情性をたたえながら静かな佇まいを見せる。これが富樫雅彦の音の原風景なのかと。ジャケットに使用された富樫の描いた風景画とも一脈通じるものがある。

Masahiko Plays Masahikoの第4作は、富樫宅にあるエレクトリック・ピアノ(Roland HP-900)をスタジオに持ち込んでの録音。多くの作品がこの楽器から生まれたという。同種の楽器でもメーカーや機種によって音色が異なるが、エレクトリック・ピアノではそれが特に明らかで、独立し個性になっている。だから、異なった機種では違ったイメージになってしまう。同機種が製造中止だったとはいえ、佐藤允彦が録音のために楽器を運び込むという労力をかけた真意がそこにあり、それは富樫の希望を汲んでのことだ。

富樫のイメージが生まれた音色と響きにふれ、ふわりと漂うその余韻に、立体的な音響空間を創出する希有なパーカッショニストとしての姿が重なる。たおやかなロマンチシズムを漂わせるメロディーはどこまでも美しいが、何かにもたれかかるような甘さはない。最近の作品では、演奏活動を止めてからの富樫の心情もまた表れていてなんともいえない気分にさせられるが、感情はその美学の中で昇華されており、安直なセンチメンタリズムに陥ることはない。

こうして作曲家としての富樫の原風景に触れることが出来るのも、彼をよく知る古い友人である佐藤による演奏であってこそ。アコースティック・ピアノでの演奏も加えることで、楽器による個性の違い、それがもたらす表現の違いもわかるのもまた興味深い。佐藤のプロデュース力が際だった作品である。

本作を聴きながら、若かりし日レオナルド・ダ・ヴィンチのデッサンに触れた時の感動をふと思い出した。創作や発想の原点がそこにあるだけではなく、作品として自立した輝きを放っているからだ。そしてまた、久しぶりにココロの奥深くに染み入るようなCDに出会ったことを嬉しく思う。

横井一江

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。The Jazz Journalist Association会員。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。海外レポート、ヨーロッパの重鎮達の多くをはじめ、若手までインタビューを数多く手がける。 フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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