#1326 『川嶋哲郎カルテット/ソウル・スイート』

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text by 小西啓一

B.J.L / Space Shower Music
DDCB-13032  2,778円+tax

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Tetsuro Kawashima 川嶋哲郎 (ts,ss,fl)
Hiroyuki Takubo 田窪寛之 (p)
Koji Yasuda 安田幸司 (b)
Gaku Hasegawa 長谷川ガク (d)

01.  My soul prelude ~ My soul
02.  Thanks to days
03.  On destiny
04.  Suite -Song of Soul- Regeneration
05.  Suite -Song of Soul- Resurrection
06.  Suite -Song of Soul- Birth
07.  Suite -Song of Soul- Extention
08.  Suite -Song of Soul- Fulfillment
09.  Suite -Song of Soul- Conviction
10.  Salve regina o clemens
11.  Time for goodbye

録音:KentarohKikuchi @ Studio Sound Valley, Tokyo, February 15 & 16, 2016
マスタリング:Yori Hashimoto @ Aubrite Mastering Studio
Produced by Takashi Tannaka


今最も充実しまた常にもう一段の高みを目指し、真摯な演奏活動を展開しているテナー・マン、それが川嶋哲郎だということは、多くのファンも認めるところ。実際、ジャズ誌の人気投票でも10年以上にわたって、トップの座を保持し続けているわけだが、ぼく自身も彼とクリス・ポッターが、洋の東西を代表する現役テナー・タイタンだという認識が強いし、かつて彼の作品を本誌の年間ベスト作に推奨、またこのレビューの自己紹介欄でも、好きなプレーヤーに彼の名前を挙げているほど大きな存在でもある。軽佻浮薄な質だけに、“入神の”“入魂の”といった形容句を原稿で使いがちな自分だが、その字義どおりのプレーを目の当たりにしたのが、川嶋が敬愛・信頼し“この人が居なければ今日のぼくの存在は無い…”とまで言い切っている、ジャズ・プロデューサー、故横田健生氏(13年5月没)を偲ぶ会でのソロ・プレーだった。2人は『哀歌』『祈り』などで素晴らし協同作業を行って来た間柄だが、その追悼会での<イン・ア・センチメンタル・ムード>(のはず)。故人を想い淡々としかも哀感たっぷりにテナーを謳わせる。力感と情感のない混ざったその出だしの一音だけで、何か目頭が熱くなってしまったのを、今でも良く覚えており、「ピース」好きの愛煙家横田氏が目前に立ち現われて来たかの様な、まさに“入神”“入魂”のプレーだった。

まあそんなこともあってか、彼の新作のレビューをという、編集長からのお達し。これは一大事と思いつつ、かなりなワクワク感で新作『ソウル・スイート』に向き合う。田窪寛之、安田幸司、長谷川ガクという気鋭の若手達を集めた、J-ジャズ屈指のカルテット。「全員がやりたいことをしっかり持っていて、それを互いにぶつけ合える」(川嶋談/『祈り』ライナー)理想的なユニットの、『祈り』以来4年振りになるスタジオ録音(ライヴ作の『ラメンテーション』は14年4月)。前作にも収められていたペルゴレージの古典曲(横田氏の勧めで採用)の別バージョンを除く10曲は、すべて彼のオリジナルで、そのほとんどが書き下ろしという野心作・意欲作にして、そのテナー・タイタン振りを窺わせるに充分な好個の力作でもある。

冒頭の<マイ・ソウル>(同名タイトル・アルバム(2000年)の再演)の快調なテナー咆哮でスタートするこの新作、全編聴きとおすと現ユニットがここ数年深化させてきたグループ表現。卓抜にして峻厳でもあるその結実が聴かれ、何とも嬉しくなる。4人の最初の出会いとなる『祈り』でも、メインとして2曲のジャズ組曲<月>(4部作)<陽>(3部作)が収められており、最近の川嶋にはその気力の充実振りを反映、大作組曲に向かう志向も強いようだが、今作でも6部構成の<ソング・オブ・ザ・ソウル>がアルバムの“肝”になっている。「ぼくの曲作りは、これという断片を(苦労して)見つけ出し、それをリズムやハーモニー,全体のテイストなどを変え、様々な角度から表現する。そうした曲は“同じテーマ”を持ち、必然的に組曲という形態に収斂するんです」ということだが、6部構成・全40分程のこの組曲は、フルートで始まりソプラノ、そしてテナー・サックスと楽器を持ち変えつつ、<刷新><誕生><確信>等といった自身の“魂の遍歴諸相”を、時に激烈に熱く時に静謐・冷徹に...、鮮やかに浮かび上がらせる。とくに印象深いのは5曲目の<フルフィルメント~達成>。そのタイトル通りにスケール感豊かな落ち着きのある恬淡・悠々とした自信のテナー・プレーで、魂の安寧状況を活写する。アルバムに記された彼の“独白”にはこんな一節が見出せる。「音を出したい。心を貫く、熱い音。この音。これが自分…」、そして「叫びたい。魂のままに」とクローズされるが、まさにこの<ソング・オブ・ザ・ソウル>組曲は、それ等を音化したものとも言えそうだ。彼が“神”と認めるあのジョン・コルトレーン。<承認><決意><追及><賛美>と続く4部にわたる傑作組曲『至上の愛』。その大きな存在も今回、彼の中には意識されていたのかも知れないが...。

そしてもう1曲、ぼくが強く印象に残ったのは、オーラスのオリジナル<タイム・フォー・グッドバイ>。口ずさみたくなるような好メロディーを、切々とした寂寥感と類い稀な存在感で練り上げる。“タイタン”川嶋哲郎ここにありといった、透徹した“漢(おとこ)宣言”とも聴き取れる、充実のプレーで聴くものを魅せる。川嶋哲郎の匠技、天晴れです。

 

小西啓一 Keiichi Konishi
ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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