#1053 『T. Mikawa & .es/September 2012』

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text by 剛田武(Takeshi Goda)
Re-Records RE-CD-011
輸入盤

美川俊治(electronics)
.es(ドットエス):
橋本孝之(as,g,hca)
sara(p,cajon)

Track 1:
Recorded live at Gallery Nomart on 09.01.2013
Mastered by MODE-LABEL

Track 2:
Recorded live at Namba BEARS on 09.02.2013
Mastered by Satoshi Hayashi

Executive producer: Wong Chung-fai
Photo: Sachio Hata
Layout by Sleepatwork


即興演奏の未来への希望の光を見出す一期一会の三者が描き出した結晶

大阪の現代美術ギャラリー「ギャラリーノマル」を拠点に活動するデュオ.es(ドットエス)は、テン年代の即興音楽シーンでもっとも精力的な活動を繰り広げるユニットのひとつといえるだろう。

2009年の結成以来、ギャラリーノマルを中心にしたアート・イベントを主な活動の場としてきたが、昨年夏以降、より幅広いコラボレーションやライヴハウス出演が増えた。今年は山本精一、岡野太(非常階段)、河端一(Acid Mothers Temple)、向井千惠といった個性派ミュージシャンとコラボし、それまでの美術家との共演とは一味もふた味も違った音楽ユニットとして研鑽を重ねてきた。いわばアート界という温室育ちのサラブレッドが、広い世界に飛び出して社会の荒波に揉まれるかのように、異種格闘技に果敢に挑戦してきたわけだ。そのチャレンジは見事に実を結び、彼らが決して世間知らずの山椒魚ではなく、内に噴火直前の闘争本能を秘めた眠れる獅子であることを証明した。本来の力に目覚めた二人組は『void』『darkness』の2作に加え、コラボ及びソロによる作品2作を年内にリリースする。作品量で実力や才能を量るわけにはいかないが、いずれの作品にも漲る高い美意識は、混迷の時代にあって傑出した存在であることは確かである。

.esにとって初の海外レーベルからのリリースとなる本作は昨年9月に行われた非常階段/Incapacitantsの美川俊治との2日間のセッションを収録したアルバム。初日が.esの本拠地ギャラリーノマル、二日目が関西アンダーグラウンドの象徴の難波ベアーズに於けるライヴ演奏である。美川は世界に名だたるノイズ・ウィザードであり、プロレスを思わせる激しいアクションで繰り出す強力なノイズは他の追随を許さない唯一無比の存在。以前から懇意にしていたEP-4(佐藤薫・鈴木創士)は別にして、.esがアート系以外のコラボ相手として最初に迎えたのが美川だったことは、橋本孝之が大きな影響を受けたと語る憧れの存在ということもあるが、サックスやピアノなどアコースティック楽器による.esの肉感的な世界に電子雑音を融合したらどうなるか、という持ち前の冒険精神の発露なのかもしれない。

ノイズと生楽器の共演は古くから先鋭的な音楽家により実践されてきた。そもそも電子音楽の父、シュトックハウゼンの初期作品「コンタクテ(接触)」(1958-60)は電子音楽と生の演奏がタイトルの通り「接触」し共演する作品だった。その後も数々の接触が営まれ、80年代以降堅苦しい「電子音楽」が「インダストリアル/ノイズ」と呼ばれるようになり、アカデミズムを捨てて身近で庶民的な存在になってからは、電子音と生楽器の融合は意識的音楽家にとってデフォルトのひとつとして普遍化し、新機軸とは呼ベなくなったのも事実である。そんな時代に敢てノイズとの共演を求めた.esの真意は、単に奇抜な要素を付加して耳目を集めようという意図ではなく、表現者として新たな地平に達するために、美川という百戦錬磨の先達の胸を借りようという、一種の修練だったに違いない。

この銀盤にはその実践の成果が生々しくドキュメントされている。すべてのパフォーミング・アート、特に即興音楽のライヴ演奏に於いては、レコードやCDはあくまで音だけの記録であり、実際の表現とは別のものといえる。視覚的要素や直に体験しなければ感じ得ない「現場感」が欠如した、不完全なメディアである録音物を、ひとつの作品として成立させる最大の要素は、如何に聴き手の想像力を刺激するか、ということに尽きる。それはライヴ会場の興奮を追体験できる臨場感かもしれないし、日常(ライヴ)とは異なる非日常 (イマジネーション)を導く空気感かもしれない。本作が内包するのは明らかに後者である。

これまでの.esの活動の舞台であるギャラリーノマルでの演奏(トラック1)には、あたかも自宅に客人を迎えたホーム・パーティ的な暖かみが感じられる。前半の.esのふたりの演奏と続く美川のソロ演奏は、両者の日常的なスタイルに基づいた自己紹介といえる。美川の演奏にピアノとサックスが加わったセッションは最初こそ多少の戸惑いが感じられるが、すぐに会話が弾み芳醇な交感を繰り広げる。ギャラリー独特の深い反響に包まれ安心感のある音空間は、両者の邂逅が実り多いものになることへの歓びが漲っている。

その翌日、ホームを離れアウェーともいえる難波ベアーズでの演奏(トラック2)には、全く違った空気感がある。リバーヴなしのデッドな録音ということもあるが、むしろ「場」の雰囲気が如実に影響した演奏空間は、お互い「個」としての存在が三者対等に、自らの感性を研ぎ澄まし、持てる能力を余す所なく発揮することにより、集合体としての意思を形成し、別次元の表現ユニットへと止揚されているのだ。二日間でこの表現の高みまで到達したのは驚異的と言うしか無いし、.esが井の中の蛙ではなく、柔軟性と融和性を持つことが高らかに宣言されている。

この時この場でしか生まれ得ない一期一会の瞬間を謳歌する三者が描き出した結晶は、ひとつの作品としての高い完成度を有するばかりか、この出会いが一度限りのチャンス・ミーティングに終わらぬことに、即興演奏の未来への希望の光を見出すのは筆者だけではあるまい。
(2013年11月15日記:剛田武)

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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