#1350 『Michael Blanco / Spirit Forward』

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text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Brooklyn Jazz Underground Records BJUR 060

Michael Blanco (b)
John Ellis (ts,ss)
Kevin Hays (p)
Clarence Penn (ds)

  1. The Mystic Chord
  2. Notes From Underground
  3. Song Without Words
  4. Spirit Forward
  5. Acrobat
  6. Last Stable Orbit
  7. Reasons To Be Pretty
  8. The Boulevardier

Recorded by Chris Allen at Sear Sound, NYC on August 11, 2015.

Produced by Michael Blanco

 


2008年にリリースを開始したブルックリン・ジャズ・アンダーグラウンド・レコーズは、ブルックリンを拠点にニューヨークの若手、中堅アーティストのアルバムを制作し、本作『Spirit Forward』で60作を数える。メジャー各社がジャズ制作を縮小する中、活況を呈しているインディ・レーベルの中でも群を抜いたリリース枚数を誇っている。本作の主人公のマイケル・ブランコも、2000年にニューヨークに拠点を移し、自己のグループ、アラン・ファーバー (tb) らのアンサンブルで活躍するベーシストで、堅実なベース・ラインと作曲の才能も高く評価されてるアーティストである。3枚目のリーダー作の本作は、数々のセッションで知り合ったベスト・ミュージシャンを選りすぐり、バンド・サウンドを確立。強いアルコール・スピリットを絶妙にブレンドしたカクテルと、前進を続ける強い意志の2つの意味を象徴する『Sprit Forward』とタイトルをつけた。

ブランコはメンバーとの出逢いを語ってくれた。ジョン・エリス (ts,ss) とは、2002年にアーロン・ゴールドバーグ(p) の自宅でのセッションで知り合って以来、エリスのメロディアスなプレイに魅了され、長年に渡ってブランコのレギュラー・グループに参加して貰っている。2013年にリリースした前作『No Time like a Presence』では、”Ellis Island”というオリジナルを彼に捧げている。クラレンス・ペン (ds) は前作のリリース・ギグ(アルバムはマーク・ファーバーがドラムス)で、2013年に初めて共演した。長年ペンのプレイを感嘆して聴いていたが、実際に演奏するとアンサンブル・サポートと、チャレンジングなプレイのバランス、ブランコとのコンビネーションも素晴らしく、以来多忙なペンのスケジュールの合間を縫って、共演を重ねてきた。最後のピース、ケヴィン・ヘイズ (p) とは、2014年のアンソニー・スミス (vib) のギグで出逢った。ブランコはヘイズの大ファンだったが、その柔軟なハーモニーとリズム・アプローチ、リリシズムにすっかり魅了され、本作への参加を要請した。このブランコのドリーム・チームは2015年に数回のギグを重ね、8月にスタジオに入り本作をレコーディングした。

アルバムは、ロシアの作曲家アレクサンドル・スクリャービンが考案した4度音程を6つ重ねた神秘和音にヒントを得て作曲された、“The Mystic Chord”でオープニングを飾る。6/4拍子と5/4拍子で構成されたグルーヴの上で、エリスのテナーが朗々と歌う。“Notes From Underground”は、ブランコがニューヨークのホームグランドとしているジャズ・クラブ、コーネリア・ストリート・カフェに捧げた曲で、低音部のピアノとベースのコンビネーションが聴きどころである。ヴィレッジ・ヴァンガード、スモールスらブランコのニューヨークのお気に入りのジャズ・クラブも地下にあるのも、タイトルの由来である。“Song Without Words”は、メロディを歌っているところを想像しながらブランコが書いた曲だ。エリス、ヘイズとブランコの醸し出すリリシズムを、ペンの繊細なドラムスが包み込む。タイトル曲の“Spirit Forward”は、リズム、ハーモニーに仕掛けがありながら、楽天的なヴァイヴをもつスウィング・チューンである。ピアノ〜サックス〜ベースと、ソロが軽やかにリレーされ、アルバムに込めたブランコの強い意志と、このバンドの無限の未来を感じさせる曲となった。卓越したベース・テクニックを持つブランコだが、それを強く主張することなく作曲や編曲の中でさりげなくプレイしてアンサンブルを際立たせている。”Acrobat”のトリッキーなベース・ラインは、ブランコの秘めたる意志をさりげなく主張している曲だ。天文学用語で、ブラック・ホールに惑星や宇宙船が吸い込まれる最後の軌道を意味する“Last Stable Orbit”は、変形ブルースだ。バラード・チューン“Reasons To Be Pretty”は、ブランコが2009年に衝撃を受け脚本を熟読したニール・ラビュート作の演劇“Reasons To Be Pretty”に、インスパイアされて書かれた。「芝居のもつオリジナルの雰囲気とは異なった空気感をもつ曲となったが、タイトルはフィットしていると思う」とブランコは語る。ここでもヘイズのリリカルなプレイが、フィーチャーされている。エンディングを飾る“The Boulevardier”は、ブランコのお気に入りのハード・カクテルと、フランスのスラングで、「粋な都会の男」という意味を持つ。セロニアス・モンク (p) の“Green Chimneys”にヒントを得て書かれたこの曲は、エリスのテナーと、ブランコのベース・ラインのユニゾンで始まり、軽快にスウィングして幕を閉じた。最強のメンバーを集結して、マイケル・ブランコのベース・プレイと、さらに進化したソング・ライティングが、新たな幕開けの胎動を感じさせる。

10月9日のホーム・グラウンド、コーネリア・ストリート・カフェでのギグは、多くのミュージシャン、友人が集い大盛況だった。日本ツアー中のクラレンス・ペンに替わってアリ・ホーニッグ (ds)、ケヴィン・ヘイズ (p)に替わってラーゲ・ルンド (g) ら、ブランコと長年共演し、その音楽を深く理解するプレイヤーが参加した。アルバムとはまたテイストが異なるハード・カクテル・サウンドに酔う一夜だった。

 

関連リンク Michael Blanco http://www.blancobass.com/home.html (サウンド・サンプルあり)

 

 

 

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常盤武彦

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。

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