#1352 『Darcy James Argue’s Secret Society / Real Enemies』

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text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

New Amsterdam Records NWAM081

Darcy James Argue’s Secret Society

Wood Winds
Dave Pietro
Rob Wilkerson
Sam Sadigursky
John Ellis
Carl Maraghi

Trampet & Flugelhorn
Seneca Black
Jonathan Powell
Matt Holman
Nadje Noordhuis
Ingrid Jensen

Trombone
Mike Fahie
Ryan Keberle
Jacob Garchik
Jennifer Wharton

Rhythm Section
Sebastian Noelle (g)
Adam Birnbaum (p,kb)
Matt Clohesy (b,el-b,b-synth)
Jon Wikan (ds,per)

James Urbaniak (Narrator on “Who Do you Trust?” and “You Are Here reprise”.

Dacy James Argue (composer, conductor, ringleader)

  1. You Are Here
  2. The Enemy Within
  3. Dark Alliance
  4. Trust No One
  5. Silent Weapons For Quiet Wars
  6. Best Friends Forever
  7. The Hidden Hand
  8. Casus Belli
  9. Crisis Control
  10. Apocalypse Is A Process
  11. Never A Straight Answer
  12. Who Do You Trust?
  13. You Are Here

Recorded by Brian Montgomery at MSR Studios, Studio A, NYC on February 1~4, 2016.

Produced by Alan Ferber, Brian Montgomery and Darcy James Argue.

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1992年のマリア・シュナイダー・ジャズ・オーケストラ結成は、ジャズ・ビック・バンドの歴史に大きな転換をもたらした。21世紀に入り、マリア・シュナイダーの音楽が進化するのと同軌して、ビッグ・バンド・シーンには、シュナイダーの影響下に育った若手や、インスパイアされたヴェテランたちが新たな音楽を創造し、コンテンポラリー・ジャズ・ビッグバンドは、現在のニューヨークのジャズ・シーンで、重要なポジションを占めている。ダーシー・ジェイムス・アーギュー率いるシークレット・ソサエティは、ポスト・マリア・シュナイダーのジャズ・ビッグ・バンドの中でも、要注目の存在である。

1975年にカナダ、バンクーバーに生まれたダーシー・ジェイムス・アーギューは、2000年にボストンのニューイングランド・コンサーヴァトリーに留学し、マリア・シュナイダーも師事したボブ・ブルックマイヤー (tb) の薫陶を受け、2003年にブルックリンに拠点を移す。2005年に18人編成のビッグバンド、シークレット・ソサエティを結成し、2009年にファースト・アルバム『Infernal Machines』をリリース、デビュー作にしてグラミー賞、カナダ最高のジャズの栄誉であるジュノ賞にノミネートされる。2013年にリリースしたセカンド・アルバム『Brooklyn Babyron』はBAM(ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック)Next Wave Festival 2011に参加して映像とシンクロしたマルチ・メディア作品としてプレミア演奏され、再びグラミー賞、ジュノ賞にノミネートされた。最新作の本作『Real Enemies』もBAM Next Wave Festival 2015のコミッション・ワーク(委託作品)で、ライター/監督のアイザック・バトラーとフィルム・メイカーのピーター・ニグリーとの共作のマルチ・メディア作品として初演。2016年2月にスタジオ録音されたアルバムである。

『Real Enemies』は、キャスリン・オルムステッドが2009年に著した『Real Enemies : Conspiracy Theories and American Democracy, World War Ⅰ to 9/11』に、アーギューがインスパイアされて作曲された12楽章からなる(最終章は第1楽章のリプライズ)の大作で、アメリカ民主主義の暗部を描いた壮大な叙事詩である。第一次大戦後から今日まで話題に上る、陰謀論としての新世界秩序、つまり将来的に現在の主権独立国家体制を取り替えるとされている、世界政府のパワーエリートをトップとする、地球レベルでの政治、経済、金融、社会政策の統一、究極的には末端の個人レベルでの思想や行動の統制・統御を目的とする管理社会の実現。1948年から1950年代前半のアメリカの赤狩り、エドワード・スノーデンが告発したCIAやアメリカの国家安全保障局によるe-mailの傍受や電話の盗聴など、世界を覆う陰謀の歴史を、音楽とジョン・F・ケネディ、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)や、ディック・チェイニー元副大統領のコメントのサウンド・コラージュや、オルムステッドの著作の引用のナレーションなどをちりばめて描いている。不穏な空気が支配する音楽を、アーギューはアーノルド・シェーンベルグの12音技法を基調に表現しながら、“Dark Alliance”にはニカラグアのシンガー・ソング・ライター、ルイス・エンリケ・メヒア・ゴドイの”Un Son Para Mi Pueblo”を引用したり、サンラのサイケデリック・ジャズ、1980年代初頭のロサンジェルスで勃興したファンクの影響を受けたヒップホップのレトロなシンセ・サウンドを導入して、独自のサウンドを構築している。アーギューは、映画『大統領の陰謀』のスコアを書いたデヴィッド・シャイアと、同じく映画『パラドックス・ビュー』のマイケル・スモールからも影響を受けたと語っている。ソリストも、イングリッド・ジェンセン (tp)、ジョン・エリス (wood winds)、デイヴ・ピエトロ (wood winds)、ライアン・ケバリー (tb)、ジョナサン・パウエル (tp)、セバスチャン・ノエル (g)らが、ナレーションを超える雄弁なソロを執る。2人のソリストのソロ交換など、政治討論対決を思わせる瞬間もあった。ダーシー・ジェイムス・アーギューは、マリア・シュナイダーとは違うアプローチで、ジャズと現代音楽、ラテン・ミュージックやヒップホップとの融合を図り、大きな成果を収めた。

10月2日にブルックリン、ウィリアムスバーグのNPOヴェニュー、ナショナル・ソウダストでのリリース・ライヴは、映像はなかったがドレスアップしたメンバーが登場し、ホーン・セクションが一列に並ぶヴィジュアルも大きく意識した、一種シアトリカルなパフォーマンスだった。『Real Enemies』冒頭の不穏な響きがあるトランペット・アンサンブルは、グランド・ピアノの弦に向けて吹いた残響を利用して録音されたと判明する。かつてエンジニアのデヴィッド・ベイカーが、ウェザー・リポートの第一作で使っていた手法と思い出された。ヴィデオ・クルーが撮影していたために、残念ながら撮影は出来ず、今回はレコーディング直前の今年1月29日のジャズ・ギャラリーでのギグの写真を公開したい。アラン・ファーバー (tb) らヴェテランから、ギル・エヴァンス・プロジェクトで、エヴァンスのオリジナル・スコアの忠実な再現に精力的に取り組むライアン・ツルースデル (arr,cond)、クリストファー・ズアー (arr,cond)、挾間美帆 (p,arr,cond) らが盛り上げるニューヨーク・コンテンポラリー・ビッグ・バンド・シーンに、ダーシー・ジェイムス・アーギューは新たな問題作で、大きな波紋を投げかける。

関連リンク  Darcy James Argue’s Secret Society  http://www.secretsocietymusic.org/

 

 

 

 

 

 

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常盤武彦

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。

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