#1348 『Dre Hocevar / Transcendental Within the Sphere of Indivisible Remainder』

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text by Akira Saito 齊藤聡

Clean Feed Records

Sam Pluta (live electronics/signal processing)
Aaron Larson Tevis (trumpet)
Bryan Qu and Mette Rasmussen (saxophones)
Jeremy Corren (piano)
Zack Clarke (synthesizer)
Lester St. Louis (cello)
Henry Fraser (bass)
Dre Hocevar (drums)

1. Transcendental Within the Sphere of Indivisible Remainder

Recorded at Systems Two Studios, New York, January 25 and 26, 2016 by Rich Lamb.
Mix and mastering by Dave Darlington. Produced by Michael Carvin.
Executive production by Pedro Costa for Trem Azul Design and artwork by Travassos.

ドレ・ホチェヴァーはニューヨークで活動するドラマーであり、最近では、スティーヴ・リーマンやクリス・ピッツィオコスら突出したサックス奏者との共演が印象的である。2014年には、リーダー作『Collective Effervescence』をピッツィオコスや本盤にも参加しているレスター・セント・ルイスらと吹き込み、集団即興というよりはタイトル通りの集団沸騰とも呼ぶに相応しい激しいサウンドを創りだした。

しかし、本盤は、過去からの延長線上に位置付けるには躊躇してしまうほどの跳躍をみせた作品である。演奏は48分間切れ目なく行われ、目眩がするような音風景の群れを展開する。

冒頭では、サム・プルータのエレクトロニクスによるシグナルが、ホチェヴァーのドラムスとの間合いをはかるように、四方から断続的に鼓膜を攻めてくる。そして不穏な静寂があり、それはこの後48分間の中で思い出したように、沸騰する演奏の合間に訪れることになる。

やがて9分を過ぎて、チェロの擦音が加わり、ピアノが鮮やかにサウンドの潮目を変え、ブライアン・キューのサックスもやはり擦音によって介入してきて、エレクトロニクスにより既にかきむしられた鼓膜を刺激する。キューは中国出身の才能溢れるサックス奏者だ。筆者は、2015年にマット・ウィルソンのバンドにおける彼のプレイを目にして、その堂々として変貌を恐れない音に驚いたことがある。本盤においては、彼のフィールドがオーソドックスなジャズだけではないことがよくわかる。

また、13分以降に、ピアノの地響きのような低音やチェロの微分的な音と競うようにトランペットが入ってくる。ホチェヴァーのドラムスは、頻繁とは言えないまでも、サウンドの慣性に馴れた脳に、その都度、刺激を与えるように機能している。ピアノの内部奏法や泡立つようなエレクトロニクスもまた、擦音から撥音へと、音風景を見事に変貌させる。

19分頃より、ノルウェー在住のサックス奏者メテ・ラスムセンが早いトリルとともに参入し、サックスの音がふたりの個性とともに、さらに豊かなものになる(右がキュー、左がラスムセン)。キューは重く構え、ラスムセンは攻撃的に吹くことが多いようだが、それも混淆してゆく。28分前後や35分前後の両者の吹き合いは聴き物だ。

後半はメンバーが出揃い、不穏な静けさ、管からの泡立つような沸騰感、闇からの音の立ちのぼり、サンドストームの中の胎動、ピアノにより覚醒させられるような結晶感など、あらゆる要素が目眩めくように訪れてはサウンドの位相を変化させ、いつの間にか去ってゆく。かれらは挙って爆音とともに頂を目指し、そして最後は、ホチェヴァーのドラムスにより、興奮を鎮めるかのように締めくくられる。

例のない集団の脈動サウンドである。

(文中敬称略)

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齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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