#449 『シワブキ/GENERATORS』

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text by Kimio Oikawa 及川公生

ウハウハミュージック/地底レコード UM-003  ¥2000+tax(2018.8.19発売予定)

山口コーイチ (piano)
加藤一平 (guitar)
磯部 潤 (drums)

1.興り (okori) 33:16
2.沈思 (chinshi) 6:44
3.遊び (asobi) 18:24

録音:高橋清志@新宿ピットイン 2018年5月9日
マスタリング:吉田隆一
プロデューサー:山口コーイチ


良質なピアノのサウンドが強烈な印象を残す。オンマイクが拾う唸りの音と、共鳴が色彩的であったり、ギターとの絡みが痛快。ギターのライン収録のエフェクト効果が骨太なので、時に管楽器のアドリブかと、一瞬のサウンド風景が浮かび上がる。当然、サックス等はいないのだが。肉厚サウンドで統一した結果で不思議な音を味わう。良質、音像表現に注目した。


Hear, there & everywhere #14
Kenny Inaoka 稲岡邦彌

「渋さ知らズ」以外で山口コーイチのピアノに身近に接したのは、今年の4月17日、ヴァネッサ・ブレイと共演したサラヴァ東京での「ピアノな夜」が初めてだったが、 完全にピアノが肉体の一部と化したそのありように驚いた。プロフィールを確認して、3才からピアノを始め、国立音大を卒業、楽理をすべてマスターした上にバッハの研究に余念がないと知った。ピアノを長く弾いているピアニストでピアノが手の内に入っていないピアニストは少なくない。相応の研鑽を積んだのだろう。しかも然るべき方法で。その彼が新宿のピットインで初めてポール・ブレイの生を聴き、すいぶん下手なピアニストだなあと思ったという。ポールはヴァーチュオーソ・タイプのピアニストではない。しかし、ポール・ブレイは彼のファイヴァリットだとも言う。

山口が渋さ知らズの相棒、ドラマーの磯部潤とデュオを始めたのは2014年。それから3年後の2017年にギターの加藤一平を加えトリオに改変したという。デュオの演奏はどんな展開だったのだろう。このアルバムの2.沈思は文字通りふうたりの内面的なやりとり。後半、磯部はブラシに持ち替える。加藤は時折り低いドローンのようなサステインで参加するだけ。他の2曲ではギターの加藤がエフェクターを駆使しながら豊富なヴォキャブラリーで展開をリードする。山口はつねにトリオにあってアンカー的な存在だ。1.興りの後半でギターとドラムが激しく反応し合うが、ピアノが参入してファーアウトするような場面はついぞ現れず、クライマックスからカタルシスを経てチル・アウトしていく。このアルバムを通してもっともドラマチックなシーンだが山口はつねに冷静沈着で自制を忘れない。
山口は、「即興演奏を通して、この世界の深奥で常に鳴り響く音の世界への扉を、暗闇の中で始終まさぐり、場と時間とそして音楽を超越し、現象“シワブキ”が興るのだ」と記している。“シワブキ”は「咳き」と書き、「咳」(せき)の意味だ。大勢の参会者で埋められた、たとえば通夜の席の静寂さを表現する際、「シワブキひとつ聞こえない静けさ」などと使われる。山口の即興演奏に対する美学が鮮烈に表出された作品で、磯部と加藤の対応も見事だ。あるいは、山口の脳裏にはポール・ブレイのピアニズムが残照として存在していたのだろうか
ドラムの磯部潤は、1972年生まれ、14才でドラムを始め、「渋さ知らズ」の他「林栄一&ガトスミーティング」などで活動中。ギターの加藤一平は、1982年生まれ、20才の時にギターを始め独学。現在は「渋さ知らズ」の他に、鈴木勲、日野皓正のバンドなどでも活躍中という。

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及川公生

及川公生

及川公生 Kimio Oikawa 1936年福岡県生まれ。FM東海(現 東京FM)技術部を経て独立。大阪万国博・鉄鋼館の音響技術や世界歌謡祭、ねむ・ジャズ・イン等のSRを担当。1976年以降ジャズ録音に専念し現在に至る。2003年度日本音響家協会賞受賞。東京芸術大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て、現在、音響芸術専門学校非常勤講師。AES会員。

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