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Concerts/Live Shows特集『JAZZ ART せんがわ』No. 246

#1028 ローレン・ニュートン×ハイリ・ケンツィヒ、山崎阿弥、坂本弘道、花柳輔礼乃、ヒグマ春夫(JAZZ ART せんがわ2018、バーバー富士)

2018年9月16日(日) 調布市せんがわ劇場
2018年9月17日(月) 埼玉県上尾市 バーバー富士

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

Lauren Newton (voice)
Heiri Känzig (b)
Ami Yamasaki 山崎阿弥 (voice)
Haruo Higuma ヒグマ春夫 (映像)
Sukeayano Hanayagi 花柳輔礼乃 (日本舞踊)
Hiromichi Sakamoto 坂本弘道 (cello)

9月16日(日)
1.~3. 即興(ニュートン、ケンツィヒ、ヒグマ)
4.~5. 即興(ニュートン、ケンツィヒ、山崎、ヒグマ、花柳、坂本)

9月17日(月)
1.~9. 即興(ニュートン、ケンツィヒ)

ヴォイス・パフォーマーのローレン・ニュートンが、ベーシストのハイリ・ケンツィヒとともに来日した。ケンツィヒは最近ではチコ・フリーマンとの共演でも知られており、そのジャズ領域での活動からみれば今回の共演は意外にも思える。しかし、ニュートンとはウィーン・アート・オーケストラで出会い、2002年からデュオを行ってきたというのだから、インプロ領域での活動も長い。

9月16日(日) Jazz Art せんがわ2018(坂本弘道ディレクション)

コントラバスの弦を撥で叩くケンツィヒの様子を見て、ニュートンが息を増幅させてゆく。

ニュートンのヴォイスは、ときに精霊のように透き通った音波を発し、ときに「Until it disappears into a secret…」などと謎めいたことばを提示する。また、「こんにちは」ということばを解体し、「コン/チチ/ワ/イチ/ノ/オト/ノ/ト/アタワ……」と再びかき集めてみせたりもした。

一方のケンツィヒもその音で負けてはいない。豊かな倍音も、指にパーカッションを装着し、足で別のパーカッションを踏むことにより作り出すリズムも、また、弓弾きでノイズとともに生み出すアリアのようなうたも見事だ。

それらにより、ふたりの距離感やグルーヴは流れるように変貌する。もっとも接近した瞬間は、ニュートンがコントラバスに触って「熱い」と呟いたときであった。

主役は別のヴォイスと弦楽器、山崎阿弥と坂本弘道に譲られた。その間と周囲を花柳輔礼乃がケレン味たっぷりに舞う。坂本のチェロははじめは繊細だが、研磨機などを用いて弦や胴体下の棒から金属音を出しはじめる。

しかし、山崎はその野蛮さに同等に対峙しおおせてみせた。甲高い音もはじけるような音も擦れる音も、すべて人の身体から出てくるものという想定を超えている。

そしてニュートンとケンツィヒが再びステージ上にあらわれた。ケンツィヒの太さ・柔らかさに対し坂本の細さという弦ふたりの対照、ニュートンの川のような連続性に対し山崎の事件性という声ふたりの対照を見て取ることができたのだが、それは各人の発散とともに騒乱へとなだれ込んでゆく。その中でも、ニュートンが「Space is always present…」と囁いたように、自由空間はふんだんにあった。背後に投影されるヒグマ春夫の映像は、無数の山崎を生み出すなど遊び心をもって、傑出したパフォーマーたちの空間を彩った。

9月17日(月) 埼玉県上尾市・バーバー富士

せんがわ劇場のステージとは対照的に、理髪店において十人前後の客を前にした至近距離のパフォーマンスである。ふたりとも、前日の山崎阿弥について素晴らしかったと口にした。

やはりニュートンのヴォイスの透明度が際立っている。彼女は「You are here…」という呟きから物語を紡ぎはじめ、ケンツィヒがともに歩くように弦をさすり、コントラバスを回転させてその運動による音を添える。

しかし、この日のグルーヴは、ケンツィヒの指弾きでこそ創出された。柔らかく、中間音が豊かでオリエンタルな響きさえももつベースは、さすがに、チコ・フリーマンにずっと起用されているだけのことはある。ここにニュートンの飛び跳ねるヴォイスが自在に絡んでゆく。ニュートンは興が乗ったのか、合間に、「Everything is improvised. All, improvisation」だと宣言した。

ニュートンは、奇怪な人が演説するかのようなカリカチュアや喉歌の倍音を披露し、前日に引き続き、ことばの解体劇をみせる。それは「アチコチ」ということばから、「アチコチ/コチ/チ/チチチチ……」と発展させてゆくものであり、スキャット的なものへと変貌した。

あまりにも自由で贅沢な、デュオ・パフォーマンスだった。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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