#874 マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット Mark Guiliana Jazz Quartet

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2016.1.4 21:00 コットンクラブ Cotton Club
2016.1.5 21:30 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Yasuhisa Yoneda 米田泰久 (Cotton Club)
Photo by Makoto Ebi 衣斐 誠(Blue Note Tokyo)

Mark Guiliana (ds)
Shai Maestro (p),
Jason Rigby (sax)
Chris Morrissey(b)

Blue Note Tokyo 2016.1.5 21:30
1st
1. Lavender Again
2. From You
3. Johnny Was
4. Abed
5. The Importance of Brothers
6. One Month
Encore;
2014

2nd
1. BEAUTIFUL CHILD
2. 2014
3. ABED
4. NEW SONG
5. ONE MONTH
6. THE SPIRIT OF CHANHASSEN
7. THE IMPORTANCE OF BROTHERS
8. LONG BRANCH
Encore:
FAMILY FIRST

※コットン・クラブのセットリストはありません。


時代を超えジャズを聴く歓びを再認識させる、最高のジャズユニット

マーク・ジュリアナは1980年生まれ、現代ミュージックシーンで最も注目すべきドラマーのひとりだが、2016年1月6 日にリリースされたデヴィッド・ボウイの遺作『★ Blackstar』にドニー・マッキャスリンらとともに参加していたことで、デヴィッドの訃報とともに世界的に注目を浴びることとなった。実際、マークのドラミングが全編に亘って強烈な印象を残す。もともとマリア・シュナイダー・オーケストラをフィーチャーして<Sue (Or in a Season of Crime)>を録音。その際、日程の都合か、レギュラーのドラマー、クラレンス・ペンに代わりマークが参加。そのレコーディングのエッセンスを反映した小編成として、ドニー・マッキャスリン・グループをコアに遺作に抜擢されたように思われる。いずれも公式ビデオを関連リンクに置いたのでぜひ聴いていただきたい。共同プロデューサーのトニー・ヴィスンコンティによれば、デヴィッドが自分の死期を悟りながら「ファンへの最後の贈り物」として制作したといい、マーク、ドニーらをデヴィッド自らの最期の音楽に指名したことの意味はとても重い。

コットンクラブに行ってみると、客層が非常に若く、20~30代が多い。40代以上のジャズファンに伝わらないのは残念でもあるが、的確に現在進行形のジャズを若い層が聴き楽しんでいるということで、ジャズを音楽的にも経済的にも持続させる明るい未来を見る気がしてとても嬉しい。翌日のブルーノート東京ではもう少し年齢層は上がるが、何よりも、日本ジャズ史を築いた巨匠から、世界で活躍する日本出身のピアニストたちまで多数の第一線ミュージシャンが来ていた。日本のミュージシャンもマーク・ジュリアナと仲間たちがジャズの未来を牽引することを予見しているということで、私の拙いレポート以前にこの事実だけで、グループの凄さが明確に伝わると言うものだろう。

2015年3月にはブラッド・メルドーとマークのユニット「Mehliana」で来日したが、今回は、2015年1月に録音され、6月にリリースされた『Family First』(AGATE)を録音したジャズ・カルテットでの来日だ。アヴィシャイ・コーエン(b)・トリオでも行動を共にしたイスラエル出身のピアニスト、シャイ・マエストロを擁し、ビートミュージックでも来日しているクリス・モリッシー、そしてサックスのジェイソン・リグビーが参加する。ステージ上で4人はコンパクトに配置されインタープレイを重視していて、一見、伝統的なモダンジャズのフォーマットに見えるし、実際、1960~80年代の感性でも十分楽しめるのだが、ディテールは緻密で表現が深く、2010年代だから作れた新しいジャズの姿だ。マークのドラミングも日頃の緻密でデジタルでプログラムされた感覚に比べて、自由なインタープレイが目を引き、いつものスネア&ハイハットを中心にした高速プレイ以上に、華麗なシンバルワークが光るが、同時に計算された緻密さも発揮している。クリスのベースもそれに呼応するように絶妙なフレーズとビートを送り出す。ジェイソンのサックスはその上でさまざまなフレーズを生み出すが、常にゆったりとふくよかにサウンドを創っていく。複数の方向性と感性を内包しているため、人それぞれの違った聴こえ方も可能で、違うバックグラウンドのリスナーをそれぞれの感覚で楽しませる懐の深さも凄い。

特に印象深いのはシャイ・マエストロだ。1987年2月生まれ、20代にして現在ニューヨークで注目され多忙なピアニスト。出典不明だが「キース・ジャレットも絶讃」の謳い文句にも納得する美し過ぎながら魂をかきたてるピアノの音色と独特のタイム感。シャイのピアノの印象は、アンドラーシュ・シフや児玉桃を初めて聴いたときの衝撃に近い。ピアノのどこからこんなに美しい音が出るのか。私の最も注目する二人のピアニスト、シャイと児玉に共通するのは、素人の目で追えるピアノの弾き方と、ピアノから出て来る音が一致しないということ。ピアノを奥の奥まで知り尽くし、目で追えないレベルの繊細なピアノへの入力と働きかけで、どこまでも緻密で美しい音を弾き出してくる。2016年1月のニューヨークでのウィンター・ジャズフェストでも、40歳以上年下のシャイに親しく話しかけるECMプロデューサー、マンフレート・アイヒャーの姿を目撃した。この至宝をECMが放っておくことはないだろう。最新作として2015年5月にリリースされた『Shai Maestro Trio / Untold Stories』も美しい。

そのシャイの参加も含めながら、キース・ジャレット・カルテットやセロニアス・モンク的な感性とタイム感、グルーヴが随所に見え、スピリチュアルな響きも感じる。シャイに「とてもオリジナルな音楽ですが、キースの影響も強く感じます。」というと「そうだろう」というような笑顔を返してきた。また、パワーを持った4人でありながら、バンドは全力疾走することなく、無伴奏ソロやデュオの時間も多用し、沈黙が透けて見える音だ。その意味で、ECMファン、キース・ジャレットのファン、クラシックピアノのファンにもお勧めしたい音楽だ。現在のジャズシーンの全体像を捉えるのは難しいが、マークとシャイを追うだけで、時代を超えて、そもそもジャズを聴く歓びとは何だったのか思い出させてくれるものがあると思う。それを体現した素晴らしいライブだった。『Family First』を聴かれることをぜひお勧めしたい。

Family First Shai Maestro Trio / Untold Stories
David Bowie / Blackstar Donny McCaslin / Fast Future

【関連リンク】
Mark Guiliana official website
http://www.markguiliana.com
Shai Maestro official website
http://shaimaestro.com
Jason Rigby official website
http://www.jason-rigby.com
Chris Morrissey official website
http://www.chris-morrissey.com
Mark Guliana Jazz Quartet 公式PV
https://youtu.be/ME0EVPfzp1I
David Bowie – Sue (Or In A Season Of Crime) featuring Maria Schneider Orchestra
https://youtu.be/nFX1y62l9C4
David Bowie – Blackstar
https://youtu.be/kszLwBaC4Sw
コットンクラブ
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/mark-guiliana/
ブルーノート東京
http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/mark-guiliana
『Family First』inpartmaint Inc.
http://www.inpartmaint.com/site/13389/
『Shai Maestro Trio / Untold Story』 公式PV
https://youtu.be/xjSuVyf7S5Y

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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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