#875 ノーマ・ウィンストン – ウィンストン/ゲーシング/ヴェニエル トリオ Norma Winstone – Winstone / Gesing / Venier Trio

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2015.9.5-6 新宿ピットイン Shinjku Pit Inn
text by Hideo Kanno 神野 秀雄
photo by Harumi Maezawa 前澤 春美

Norma Winstone (Voice)
Glauco Venier (Piano)
Klaus Gesing (Soprano Sax, Bass Clarinet)

2015. 9. 5 20:00
Live To Tell (P.Leonard / Lyrics: Madonna)
Among the Cloud (Maria Schneider / Lyrics: N. Winstone)
High Places (K.Gesing / Lyrics:N.Winstone)
Just Something (Manzanero/ Lyrics: N. Winstone)
Pots and Pans (K.Gesing)
Everybody’s Talkin’ (F.Neil)
My Gospel (G.Venier)
Dance without Answer (Gesing/ Winstone)
Giant’s Gentle Stride (K.Gesing / Lyrics:N.Winstone)
A Tor A Tor (G.Venier / Lyrics:Trad.)
Sisyphus (K. Gesing/ Lyrics: N. Winstone)
San Diego Serenade (T.Waits)
A Time of No Reply (N.Drake)
It Might Be You (D.Grusin / Lyrics:A.&M.Bergman)

2015. 9. 6 16:00
正確なセットリストがまとめられなかったが、以下のような曲が含まれていたと思われる。
High Places (K.Gesing / Lyrics:N.Winstone)
Pots and Pans (K.Gesing)
Everybody’s Talkin’ (F.Neil)
Second Spring (G.Venier)
Dance without Answer (Gesing/ Winstone)
Giant’s Gentle Stride (K.Gesing / Lyrics:N.Winstone)
A Tor A Tor (G.Venier / Lyrics:Trad.)
Sisyphus (K. Gesing/ Lyrics: N. Winstone)
San Diego Serenade (T.Waits)
Cucurrucucu Paloma (Mendez/ Lyrics: N. Winstone)


ノーマ・ウィントン・トリオが2014年9月に続いて2年連続で来日してくれた。いや、大沢知之氏(Office Ohsawa)が頑張って招聘してくれた。嬉しい待望の来日なのにどこか心が晴れないのは、昨年の公演からわずか1年にノーマ・ウィンストンの家族として、友人として大切な2人を失ってしまったから。「アジマス」をはじめさまざまな音楽を共にしてきたケニー・ホイーラー(1930年1月14日 – 2014年9 月18日)とジョン・テイラー(1942.9.25-2015年7月17日)だ。闘病の末に亡くなったケニーに対して、年下のジョンは演奏中のステージで心臓発作に倒れた。終演後ノーマがとても寂しそうに語ったのが忘れられない。後のABC Jazzのインタビューで「The best part of life」を共有したと回想している。奇しくも、2012年録音ではあるが直近の『Dance without Answer』(ECM2333)には別れをモチーフにした曲が多数含まれる。

グラウコのピアノがイントロを静かに奏で出し、クラウスのバスクラリネットが低音を支え、ノーマが歌い出し、マドンナの<Live to Tell>から始まる。ちょうど1年前に確かにこの場所で共有したこの緊張感と優しさが甦り「おかえりなさい」「ありがとう」の気持ち、ケニーとジョンへの想いが溢れて、涙がこぼれる。
マリア・シュナイダー・オーケストラの<Hang Gliding>に歌をつけた<Among the Cloud>へ。こうしてみると、複雑なハーモニーと音色を重視し、演奏しきる点でもマリアとノーマ・トリオの感性はつながっている気はする。マリアの世界観を3人で再現できるのも唯一の存在だろう。急にこの2 人の共演が聴いてみたくなってきた。なお、マリアのクリニックで「タイトルや視覚的イメージは作曲の先に来るのか?」ときいたところ、この曲を例に挙げて、視覚的イメージからサウンドを膨らませているとのことだった。

ドイツ出身イタリア在住のクラウス・ゲーシングのソプラノサックスとバスクラリネット、イタリア出身のグラウコ・ヴェニエルとのこのコラボレーションも、2002年の『Chamber Music』(Universal France)から早くも14年。ECMに『Distance』(ECM2333)、『Stories Yet To Tell』(ECM2158)、『Dance without Answer』(ECM2028)の3枚を残している。気のせいか2014年よりも3人は親密さを増しているように見えて、世代は離れるものの大切なファミリーなのだろう。シリアスな音楽のやりとりに比べて、ステージ上での曲間のコミュニケーションはイタリア的な軽妙さ楽しさに溢れている。他方、終演後にさまざまな質問をしてもどこまでも親切で知的に応じてくれて頭が下がる。緻密な音作りと高度な演奏テクニック、繊細なインタープレイから生まれる「沈黙の次に美しい音」、いやその高度な演奏が生み出す「沈黙」を聴きに来ている気がするのだが、それが冷たくストレスフルなものにはならずに、優しく暖かく包んでくれるのは、3人の優しさと正直さ、人間的な深さによるのではないかと思いあたる。最高のミュージシャンにして、コミュニケーションに優れ、そしてその努力を惜しまない人々がいるが、3人もそれにあてはまると思う。思えばジョン・テイラーもそうだった。

公演では、充実した音楽の時間が繰り広げられ、(初日では)とくに最後の3曲<San Diego Serenade>、 <A Time of No Reply>、<It Might Be You>の流れがとても美しく、心暖まる余韻を残してくれた。ただ、ノーマは「声」という性質上、コンサートの終わりに向けて、身体にはかなり負担がかかっていると話してくれて、負荷を軽くする構成などの工夫をしながら末永く活躍して欲しいと思う。

来日公演について残念なのは、2年連続で「東京ジャズ」と日程が重なったことだ。ジャック・ディジョネット・トリオとかぶり、スティーヴ・ガッド・バンドの演奏するキース・ジャレット<The Windup>とかぶり、アヴィシャイ・コーエン(tp)も近接、とECM関連の音楽と何重にもぶつかった。エスペランザ・スポールディング、ハービー・ハンコック&ウェイン・ショーターと注目の公演ともぶつかった。アジア方面のツアーとの兼ね合いがあるのかもしれないが、この貴重なノーマ・ウィンストン・トリオの音楽をできるだけ多くの方に聴いて欲しいという意味では、この週末が外れるようにぜひご考慮いただけるとありがたい。

3人はそれぞれの演奏活動を精力的に行っていて、ノーマもすでにカナダ、アメリカ、ヨーロッパでの演奏予定が上がってきていている。5月、10月にはイタリアでトリオの演奏が予定されているし、今後トリオの予定もさらに増えると思われる。ABC Jazzによるロンドン・ジャズ・フェスティバル楽屋でのインタビューで、2016年にトリオでの録音をしたいと語っていて、ファンにはとても嬉しいニュースであり、その新作を心待ちにしたいと思う。

Dance Without Answer (ECM2333) Story Not Yet To Tell(ECM2158)
Distance (ECM2028) Chamber Music (Universal France)
Klaus Gesing / Real Time Klaus Gesing and Glauco Venier play Bach

【関連リンク】
Norma Winstone 公式ウェブサイト
http://www.normawinstone.com
Klaus Gesing 公式ウェブサイト
http://www.klausgesing.com
ECM Player “Dance without Answer”
http://player.ecmrecords.com/winstone-venier-gesing–dance-without-answer
ECM Player “Stories Yet To Tell”
http://player.ecmrecords.com/winstone
“Stories Yet to Tell” PV – Universal Music France (アイヒャーによる録音風景)
http://www.youtube.com/watch?v=7f0jKIGwz7Q
ABC Jazz: Norma Winstone Backstage at the 2015 London Jazz Fest (2015.12)
https://soundcloud.com/abc-jazz/norma-winstone-backstage-at-the-london-jazz-fest
Real & True (Office Ohsawa) – タダならぬ音楽三昧
http://invs.exblog.jp

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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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