#879 自由なる狭間に  in-between-zones

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2016年2月25日 両国門天ホール

Report and Photos by Makoto Ando 安藤誠

Takahiro Tomatsu トマツタカヒロ – martialButoh 肉態表現
Bettina Berger – flutes
Daniel Lorenzo – piano
Hiroki Azuma 東弘基 – video work

格闘技と舞踏、コンテンポラリーダンス等の諸要素が渾然一体となった「肉態表現」をテーマに先鋭的な活動を続けるトマツタカヒロが、フランクフルトに拠点を置くBettina Berger(fl)とDaniel Lorenzo(pf)、そしてヴィデオアーティスト東弘基と組んだ実験作。昨年12月から滞日中のBettina&Danielは、九州から北海道まで全国各地で9回にわたりトマツとの濃密なコラボレーションを展開してきたが、今回の両国門天ホールでの公演はその集大成にあたる。6年前にTokyo Experimental Festivalで出会ったトマツとBettinaは2010年春にも共演しており、今回はその時以来のコラボレーションとなる。
あらゆるカテゴライズを力技で無効化するトマツが、現代音楽に軸足を置きつつもあらゆるジャンルへと自在に越境するBettina&Danielのサウンドとどう絡むのか?手持ちカメラを駆使した東のアナログ/ローファイ感覚溢れる映像は三者にどう切り込むのか?そのあたりに注目して会場へと足を運んだが、その成果は筆者の想像力の遥か上を行く、観念に対抗する肉体の反乱とも呼ぶべき世界観となって提示された。
冒頭、客席の反対側に張られた暗幕に映し出されるアブストラクトなイメージに、道着に身を包んだトマツの姿が被さる。やがてそこに歩み寄るBettina。Danielの姿は暗幕に遮られ、ピアノの音は聞こえるもののその姿を見ることはできない。二人は時に踊るように絡み合いながら、時間の経過とともに暗幕の後ろへ、そして会場裏のシャッターを開け放ち、夜の街へ彷徨いでる。追いかける東のカメラ。その眼は、路上でBettinaのフルートを刀のように振り回し、野生を爆発させるトマツの姿を捉える。フィルム・ノワールを思わせる一部始終を見つめる観客。しかしいつしかカメラは暗幕の裏側へと廻り、薄い布の向こうから見つめる観客自身を映し出している。観客を見つめるカメラを見つめる観客たち、そしてその中間に位置するパフォーマー。メタレヴェルの視点が交錯し、その場に居合わせた者たちの境界線が溶解していく—-。
四者がそれぞれの個性を発光させながらも、最後の一点に向けて収束していく一時間あまりの中で、とりわけ印象に残ったのはDanielのピアノ。「音楽家として最も影響を受けたのはモートン・フェルドマン」との言葉通り、静謐さの中に時折垣間見られる激情に、所々でハッとさせられる。対照的に、クールな表情をキープしつつも扇情的なBettinaのフルートは、高温・高圧のエナジーを場に供給し続け、トマツの予測不能なムーブメントとともに現場の空気を支配していた。
アフタートークで「今日体験したカオスや混沌は、とてもプレシャスなものでした」と語っていたBettinaだが、その場に居合わせたすべての者の狭間(in between zones)に介在する、見えざるカオスや混沌を顕にしようとする彼らの試みは、破綻やほころびも呑み込みつつ、一つの確かな形象として実現されていたように感じられた。今後、Bettina&Danielとのさらなる共作も考えているというトマツ。次回作にも大きな期待を抱かせるパフォーマンスだった。

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安藤誠

安藤 誠(あんどう・まこと) ライター/コピーライター。広告制作事務所代表。音楽関連イベントや障害児向けワークショップの企画・運営も手がける。

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