#884 JAZZ非常階段~ニヒリスト・スパズム・バンド来日公演

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3月20日 開場19:30 開演20:00 新宿PIT INN
Reported by 剛田 武 Takeshi Goda
Photos by Yvko Under

ニヒリスト・スパズム・バンド Nihilist Spasm Band:
John Clement (g, b, ds)
John Boyle (ds, kazoo, thumb piano)
Bill Exley (vo, cooking pot)
Murray Favro (g)
Art Pratten (“pratt-a-various,” water-pipe)
大西あや (ds)

JAZZ非常階段:
JOJO広重 (g)
T.美川 (electronics)
JUNKO (vo)
岡野太 (ds)

ゲスト・ミュージシャン:
坂田明 (as, cl, vo)
テンテンコ (electronics, vo)
あヴぁんだんど:
宇佐蔵べに
小日向夏季
東雲好
星なゆた


1965年からカナダ・オンタリオ州のロンドンにあるギャラリーに毎週月曜の夜に集まり、ユニークな自作・改造楽器を用いた即興演奏を休むことなく継続してきたニヒリスト・スパズム・バンド(The Nihilist Spasm Band、以下NSB)。NSBの2ndアルバム『VOL.2』は1978年に1000枚の限定プレスでリリースされた。1979年に、当時日本はもちろん、世界的にもほとんど知られていなかったこのバンドのアルバムを、「変な名前だから」と買ってきた友人を通して耳にしたJOJO広重がほれ込み、1984年に設立した自主レーベル、アルケミー・レコードからCDを発売し、90年代に2度に亘って招聘し、日本ツアーを行った。まさに1枚のレコードが生んだ合縁奇縁に他ならない。それから18年経ち結成51年を迎えたNSBの3度目の来日公演が実現に至った。最年少でも74歳という高齢なので今回が日本ラスト・ツアーと言われている。

その一方で、2014年結成、平均年齢19歳、最年少は17歳の4人組アイドルグループ・あヴぁんだんどは、非常階段との合体ユニット「あヴぁ階段」でアメリカ・ツアーが決定し、次世代アイドルとして活躍が期待される中、突然メンバーの脱退が発表され、期せずしてこの日の公演が日本での現メンバーでのラスト公演となった。

<非常階段>や<坂田明>目当ての前衛音楽愛好家と、<あヴぁんだんど>と元アイドルグループBiSのメンバーで、現在ソロ活動する<テンテンコ>を応援するアイドルヲタクで超満員の<ジャズの殿堂>ピットインが、半世紀の差異のある<ノイズ>と<アイドル>二世代それぞれの<ラスト(最後)>が交錯する奇跡の夜の舞台となるというあり得ない状況に、筆者は立ち会うこととなった。

 

  • ニヒリスト・スパズム・バンド

年齢から考えると驚くほど元気な足取りで登場したメンバーは、自家製の改造楽器で思い思いに音を発する。演説調のヴォーカルは、ビート詩人の朗読か学生運動のアジ演説を思わせる。そのスタイルは、ビート詩人が結成したファッグスや、ダダイストのユーモア集団ボンゾ・ドッグ・バンドを思わせる。

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  • あヴぁ階段:あヴぁんだんど+JOJO広重+T.美川

「見捨てられたアイドル」あヴぁんだんどは、あるアイドルグループのオーディションで選に漏れたメンバーにより結成された。それだけに正統派アイドルポップスではなく、パンクやオルタナの要素を持ったロックサウンドで激烈なパフォーマンスで知られる。そのステージを観たJOJO広重がすぐに共演を申し込んだ、という逸話もある。BiS、ゆるめるモ!に続く3番目のアイドルとして非常階段と合体。広重と美川の激ノイズの向こうを張って躍動感たっぷりに歌い踊る姿が客席の過半数を占めるあヴぁファンの歓声に包まれる。2曲だけの短いステージだったが、卒業するメンバーへの惜別の涙がファン以外にも共有される感動のライヴだった。

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  • MikaTen

T.美川とテンテンコによるノイズ・ユニット。2013年にBiS階段が結成されたばかりの頃、BiSのメンバーの中で娘にするとしたら誰を選ぶかという問いにT.美川が「テンテンコさん」と答えたのは有名な話だが、まさか美川の土俵である「ノイズ」というジャンルで子弟コンビが結成されるとは、誰も予想していなかっただろう。テンテンコが買ったばかりのシンセサイザーを使ってパルス・ビートを奏でる上に、美川の切れ味鋭いノイズが飛び交う。美川のこれほど軽やかなプレイを観るのは初めてかも知れない。お互い新境地を見いだしたようだ。

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  • JAZZ非常階段(坂田明+JUNKO+JOJO広重+T.美川+岡野太)+テンテンコ

2012年のJAZZ非常階段スタート時から参加する坂田明がジャンルを超越した表現者であることは周知の事実。どんなコラボ相手でも手加減無しの本気のプレイが炸裂する。勝手知ったる非常階段とのコラボも、まるで初共演のような瑞々しさが印象的。嬉々として怒涛の演奏を展開する年配ミュージシャンに交じって、孫娘世代のテンテンコが重低音を奏で底辺から支えていたのが興味深い。様々なミュージシャンを迎え「禁断の×」コラボを連発する非常階段の演奏がこれまでになくポップに聴こえるのは、時代がノイズに近づいた徴しといえるかもしれない。少なくとも歓声を上げるあヴぁんだんどファンにとっては、<JAZZ非>の演奏は気持ちが盛り上がるアゲアゲチューンと捉えられているようだ。

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  • 坂田明+岡野太

この二人のサックス対ドラムのガチンコデュオは<JAZZ非>ライヴ最大の見所といって間違いない。“非常階段のニヒリスト”岡野太のストイックなドラミングが、絶叫サックス奏者坂田明が吹くアルバート・アイラーのフレーズの炎に油を注ぎ、ジャズもノイズもアイドルも関係のない凄まじいまでの交歓模様を観るものの目と耳に焼き付ける。此の10数分の為に生きていると錯覚するほど刹那的な充足感に満たされた。

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  • ニヒリスト・スパズム・バンド+あヴぁんだんど+JOJO広重+T.美川

第2部は全員交歓コラボレーション。70歳超えNSBと19歳あヴぁの非音楽的共演は、甘える孫に祖父が翻弄されるようなほのぼのとしたムードに包まれる。NSBの自作楽器を初めて手にして音が出たと鼻高々に自慢する子がいたり、悪戯が過ぎて泣き出す子がいたりして、両者が共有した幸福感は、ダブル・ラスト・ライヴのハイライトにして大団円だった。

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  • 坂田明+テンテンコ+大西あや+JOJO広重+T.美川

もうひとつの交歓コラボは、10代の頃にパンクバンド赤痢で活動し、現在カナダ在住でNSBのメンバーでもある大西あやをドラムに、坂田とテンコの祖父孫コンビをフィーチャー。とんでもなく悪ガキだったという大西の変貌ぶりに感慨を語る広重も、当時は相当悪だったはず。時代の流れと人の姿は常に追いかけっこのように入れ替わる。そう考えれば50歳の歳の差は2回転してゼロに近づくのかもしれない。プリミティブな演奏が、音楽の原点回帰を促した。

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人は年を取ると子供に戻ると言われるが、子供の心を持ったまま活動してきたNSBにとって18年ぶりの日本は人生の最後の一幕というよりも、地元のギャラリーでの月曜日の演奏への新たな刺激になったに違いない。さらなる刺激を求めて近い将来再び日本の地を訪れることもないとは言い切れない。(剛田武記 2016年4月25日)

 

 

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剛田武

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。会社勤務の傍ら、「地下ブロガー」として活動する。近刊『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。 ブログ「A Challenge To Fate」 http://blog.goo.ne.jp/googoogoo2005_01

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