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Concerts/Live ShowsNo. 217

#885 喜多直毅クアルテット2016「挽歌」〜沈黙と咆哮の音楽ドラマ

 

2016年3月31日 ティアラこうとう・小ホール
Reported by Makoto Ando 安藤誠
Photo by Masabumi Kimura 木村雅章

Naoki Kita Quartette
Naoki Kita 喜多直毅 – violin and music
Satoshi Kitamura 北村聡 – bandoneon
Shintaro Mieda 三枝伸太郎 – piano
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 – contrabass

喜多直毅クアルテット2016


アルゼンチンタンゴをベースに現代音楽、フリージャズ、アラブ音楽、インプロ、歌もの…と、境界を自在に駆け巡る異才ヴァイオリニスト、喜多直毅。彼が現在メインプロジェクトとして率いるのが、北村聡bandoneon、三枝伸太郎pf、田辺和弘cbという東京タンゴシーンの最前線を賑わせている俊英たちからなる喜多直毅クアルテットだ。
同クアルテットは2011年4月、公園通りクラシックスでのライブを機に本格始動。スタンダード、あるいは既存の楽曲の再構築/再解釈に重きをおくタンゴシーンにあって、デビュー当初から喜多のオリジナル楽曲のみをレパートリーとし、独自の視点からオルタナティブなタンゴを提示してきた。活動開始から5年目を迎えた彼らが、ホールでのライヴでどのようなストーリーを構築するのか、期待しつつ足を運んだ。
低音部を強調したピアノの連打が緊張感を高め、演奏が立ち上がっていく。抜き身のエモーションを、爆発一歩手前でコントロールしているかのような、濃密な空気感が場内を包み込む。束の間のブレイクを挟み、哀感を帯びた出だしから、古謡をイメージさせるシークエンスへ。刻々と移り変わるランドスケープを上空から眺めるような時間が続く中、剣士のように舞う喜多のヴァイオリンが紡ぎだすノートの切っ先の鋭さに、何度もハッとさせられる。各プレイヤーが時折挟み込む、楽器を叩くサウンドも程よいアクセントとして機能しており、こうした何でもない瞬間に、タンゴ的な躍動感が滲み出てくるのも興味深い。
休憩を挟まず、一気呵成に突っ走った1時間あまり。全体を通じて一つの物語を紡ぎ出そうという強い意思が濃厚に感じられ、それだけにアンコールで演奏された「Winter in a Vision 幻の冬」収録の「残された空」の清涼感がとりわけ印象に残った。「沈黙と咆哮の音楽ドラマ」というタイトルに偽りなし—-圧倒的な演奏力で、それをまざまざと納得させられたライヴだった。

喜多直毅クアルテット2016

安藤誠

あんどう・まこと 街を回遊しながらダンスと音楽の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』ディレクター。

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