#953 Mette Rasmussen and Chris Corsano

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2017年5月16日(火) 千葉・Jazz Spot CANDY

Text and photos by 齊藤聡 Akira Saito

Mette Rasmussen (as)
Chris Corsano (ds)

この数年の間にフリージャズ・即興シーンを急激に席捲しつつあるアルトサックス奏者、メテ・ラスムセン。彼女はノルウェー在住だがデンマーク生まれであり、日本・デンマーク間の外交樹立150年を記念した音楽イヴェント「OPPOSITE 2017」が開かれることもあって、待望の初来日となった。(なお、本人によれば、名前の発音は「メデ」がより正確だそうである。)

日本ツアーの相方はドラマーのクリス・コルサーノ。多くの名だたるインプロヴァイザーとの演奏を積み重ねてきた実力者であり、かつては、ビョークのツアーメンバーだったこともある。それでも、評論家のシスコ・ブラッドリーは、もっと多くの注目を集めるべき存在だとする。

この日は関東での演奏初日。CANDYという親密な空間で談笑していたふたりだが、演奏となると緊張感が場を支配し、観客は、かれらの一挙手一投足を固唾を呑んで注視した。

ファーストセット。勢いよくデュオで発進し、間もなく、クリスがスティックでドラムセットを擦り、ホースに息を吹き込み、小さな弓に張った弦でシンバルを擦る。メテはマウスピースを外して尺八のようにサックスを吹き、ベルにはペットボトルや缶を入れた。そして、強い音でリフを発展させていった。2曲目はドラムスから始まり、すぐに参入したメテは、身体を激しく動かしながら、バラード風の旋律に音の変化を付け加えた。3曲目では、メテがしゃがんでベルの上に皿を置き、一方のクリスはシンバルとスネアとの間を棒でつなぐなどして、ふたりとも、綺麗に収斂した音波を回避して濁りへと向かった。ここで面白いことに、途中で、メテがマウスピースをラバーからメタルに交換し、より力強く甲高く響く音でドラムソロに斬り込んだ。4曲目は一転し、ラバーのマウスピースで翳りのある音色を提示しながらも、次第に、ドラムスと共振し、高みへと昇っていった。5曲目、クリスは、ギミックを使わず2本のスティックを中心に驚くべきスピードをもって攻めた。観客は振り落とされまいと追従し、メテは身体の大きな動きで音をベンドさせた。

セカンドセット。メテはベルに紙コップを入れ、信号のようなパルスを発する。クリスは発振体を口にくわえるプレイ。2曲目のイントロはメテから。朗々と吹きつつも、やがて破裂音を次々に放ち、吹きながら歩き回ったり身体を左右に振り回すなど、これまでよりもさらに激しく動くことによって、サウンドに物語性を付加した。一方のクリスは見事なシンバルワークを見せた。3曲目では、メテはマウスピースを外し、上を向いて泡立つような音を発した。4曲目もマウスピースなしで始め、クリスが奇妙な管楽器を2本同時にくわえて吹いた。やがてゆったりとした速度のドラムスと、メテのロングトーンとが、共鳴し、うなりを生じた。メテは疾走し、クラスターのような音の塊をいくつも創出し、また、フラジオにより高音域にアタックした。その獰猛ぶりに煽られたように、クリスもまた熱く駆け抜けた。

デュオで傑作『All the Ghosts at Once』を吹き込んだふたりだが、直接相対する音の多彩さと迫力は、その印象を遥かに凌駕する。クリス・コルサーノの可動部には何のひっかかりもなく、ひたすらに圧倒されて溜息をもらしてしまうほどのスピードをいかんなく発揮した。メテ・ラスムセンはさまざまに音風景を変えながらも常に正面からアプローチし、身体のダイナミックな動きをフル活用した表現に驚かせてくれた。

メテの使うアルトサックスは1928年製のコーン、マウスピースはラバー・メタルともに古いセルマー、リードはリコーのジャズセレクト・3番ハードだという。なぜ古いコーンなのかという問いに対しては、音が「open」だとのみ答えただけだったが、もはや身体の一部と化しているということさえ言えば十分なのかもしれない。

なお、この4日後には西麻布のSuper Deluxeにおいて、坂田明、ジム・オルークを加えた4人でのプレイを観ることができた。ふたりとも共演者に伍するためにパワープレイを繰り広げ、別の面を見せたのだった。また、メテのみ東京にさらに1週間残り、観る者をそのたびに圧倒した。

(文中敬称略)

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齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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