#930 映画「JACO」

閲覧回数 7,385 回

2016年12月日本公開、ジャコ・パストリアスの知られざる素顔に迫るドキュメンタリー映画

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

映画『JACO』(2014年12月、アメリカ、110分) ©2015 SLANG EAST/WEST LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

監督:Paul Marchand, Stephen Kijak
プロデューサー:Robert Trujuillo, John Battsek
脚本:Paul Marchand, Robert Trujillo

出演:Jaco Pastorius, Robert Trujuillo (Metallica), Peter Erskine, Joe Zawinul, Sting, Bootsy Collins, Flea (Red Hot Chili Peppers), Joni Mitchell, Jerry Jemmott, Wayne Shorter, Mike Stern, Victor Wooten, Al Di Meora, Bobby Colomby (Blood, Sweat & Tears), Geddy Lee (Rush) 他

制作会社:Passion Pictures
日本地区配給会社:株式会社パルコ
日本地区提供:株式会社パルコ、タワーレコード株式会社、株式会社リットーミュージック
写真提供:タワーレコード株式会社 ©2015 SLANG EAST/WEST LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ジャコ・パストリアス/John Francis Anthony “Jaco” Pastorius III (1951年12月1日〜1987年9月21日)の生涯を辿り、知られざる素顔を描き出した2015年公開のドキュメンタリー映画『JACO』。数々の国際映画祭でドキュメンタリー賞を受賞するなど話題となっていたが、生誕65周年を迎えた2016年12月3日に待望の日本公開が実現した。2017年1月〜2月頃まで全国の限られた映画館で上映されていくと思われるが、スクリーンで見ることができる貴重な機会を逃さずにぜひご覧いただきたい。2017年1月上旬の時点では、新宿シネマート、梅田シネリーブルなどで上映されており、詳細は公式ウェブサイト www.jaco-movie.jp からご覧いただきたい。

幼少期から晩年に至る本人の貴重な映像と、ミュージシャン、家族、友人からの証言と、ジャコへのインタビュー映像から丹念に構築され、観客と想いを共有しながらともに旅していく第一級のドキュメンタリー映画で、製作総指揮を取ったのはヘヴィーメタルバンド、メタリカのベーシストであるロバート・トゥルヒーヨ。彼はジャコを深く敬愛するとともに、ジャコの没後家族と親交を持ち、愛器フェンダー・ジャズベース(フレットレス)“Bass of Doom”を買い戻してオーナーとなり、ジャコの息子でベーシストのフェリックス・パストリアスに託している。共同で製作に携わったジョン・バトセックは「シュガーマン〜奇跡に愛された男」でアカデミー賞を受賞している。監督は、ポール・マルシャンとスティーヴン・キジャック。

ジャコ・パストリアスは、マイルス・デイヴィスとそのピアニストたち以降で、ジャズに限らない音楽にオリジナルで最大の影響を与えた最重要人物の一人であることは間違いなく、フレットレスベースを武器に、どこまでもメロディアスで歌うような演奏、ハーモニクスやコードワークなどを複合させながら、ベースの音楽的可能性を押し広げ、表現力を再定義したことで、結果、誰よりもジャンルを超えさまざまな音楽を根底から変えることになった。J-Popのベースラインさえもはやジャコの影響抜きには語れない。ジャズ界全体はもちろん、ロック、ヘビーメタルのスターからも敬愛を集め、おそらくクラシックのコントラバス奏者、作曲者にさえ静かに影響を与えているに違いない。そして作編曲家としてのオリジナルで類い稀な才能を持ち、没後年月が経ち、さまざまなミュージシャンの手で演奏される中で、その作品はますますの輝きを見せている。

ジャコは、ペンシルベニア州のリスタウンに生まれ、7歳からフロリダ州フォートローダーデールに育ち、その地で幅広い音楽に取り組みながら独自に音楽性とテクニックを育んでいった。世に広く知られるようになるのは、ブラッド・スウェット&ティアーズのボビー・コロンビーに偶然見出だされ録音した1976 年の『Jaco Pastrius』(邦題:ジャコ・パストリアスの肖像)(Epic)でデビューし、『Pat Metheny / Bright Size Life』(ECM1073)に参加してから。1976年〜1981年にウェザー・リポートに参加、1981年に満を持して『Word of Mouth』(Warner Bros.)をリリース、ジャコ・パストリアス・ビッグバンドなどでの演奏活動を行う。しかし正規に制作したリーダーアルバムを2枚しか世に問うことができないまま、心と身体を病んでいく。1987年9月11日、フロリダの「ミッドナイト・ボトル・クラブ」に入ろうとしてバウンサー(クラブ入口の警備員)に激しく殴られたことが原因で脳死状態となり、21日に35歳で死去。以上、ネタバレ防止のため詳細は割愛させていただいたが、ともあれ、世界から目に見える活動期間がわずか10年程度しかなく、振り返れば天才は音楽史の一瞬を駆け抜けて行った。

非常に貴重な映像の集大成の中から、当時日本に伝わって来ていた自己中心的で奇人で破滅的なイメージとは裏腹に、あらゆる音楽を正面から受け止めて常に演奏を楽しみ、どこまでもまじめに音楽に向き合い、家族を第一に考え、よきパパであったジャコの姿が浮き彫りになる。その魅力ある人格がなぜ脆くも壊れていき、誰が壊していき、誰もジャコを救い出すことができなかったのか。いや、その純粋すぎる魂と引き換えにするようにすばらしい音楽を生み出しえたのか。

ジャコからはたくさんの音楽の贈り物をもらった。思い返せば、中学時代、田舎のレコード屋に唯一あったジャズのポスターとしてよくわからずにもらってきたウェザー・リポートの大きなポスターが部屋に貼ってあり、『Mr. Gone』(Columbia)から聴き始め、後にジャコ縁りの曲を演奏するようにもなった。自分が唯一ライブに行ける可能性があった1984年の「ライブ・アンダー・ザ・スカイ1984」でのギル・エヴァンス・オーケストラ with ジャコ・パストリアスになぜか行かず、ジャコもギルもライブで聴く機会を永遠に失ったのはとても残念だった。33歳のジャコ、それが最後の来日になるとは誰が想像しただろう。

同じ時代をすれ違い、音楽が心の奥深くに刻み込まれているだけに、貴重な映像で語られるひとつひとつのストーリーにときに感動し、ときに激しく心が痛み、涙が止まらなかった。遠い存在とはいえ、自分の人生、音楽への姿勢にも向き合わされてしまう。このところ『君の名は』、『この世界の片隅に』(『あまちゃん』の能年玲奈=のんが主演声優)と心の深層に入り込んで感動させられる映画が続く中で、『JACO』はドキュメンタリー映画という域を超えて魂を揺さぶる秀作だった。全体に英語が分りやすいので、どのような言葉で音楽が語られるのかにもぜひ注目したい。この映画で知ることができるジャコ像は一部に過ぎないにしても、没後30年を経て、人としての魅力と音楽から受けていた感動を確かにつないでくれて、受け止められるようになった気がする。ジャコを、その時代を知る方には必見。そしてジャコを全く知らない音楽ファンの方にまで、この素晴らしい音楽家の人生を辿る旅をぜひお勧めしたい。

【関連リンク】

JACO 公式ウェブサイト―劇場情報、予告編
http://www.jaco-movie.jp/

JACO – Roberto Turjillo Presents a Film on JACO PASTRIUS
http://jacothefilm.com

Pledge Music (映画製作に向けてのクラウドファンディング)
http://www.pledgemusic.com/projects/jacothefilm

Jaco Pastrius
http://jacopastorius.com

 

Share Button

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

↓ ロボットでないかお知らせください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.