#940 田崎悦子 Joy of Chamber Music Series vol.10

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2017年3月17日(金)@カワイ表参道サロン「パウゼ」
Reported by 伏谷佳代

ディレクター:田崎悦子
ゲスト・アーティスト:ピアノデュオ ドゥオール(藤井隆史&白水芳枝)

出演:田崎悦子
ピアノ・デュオ ドゥオール
ヤング・アーティスト:平林咲子、岩井亜咲、町永早紀

使用ピアノ:カワイフルコンサートピアノSK-EX/カワイフルコンサートピアノEX
調律:萩尾啓介

<プログラム>
ドビュッシー: 牧神の午後への前奏曲
<*2台ピアノ:ピアノ・デュオ ドゥオール>
ブラームス(ケラー編曲): 大学祝典序曲 ハ短調 Op.80
<*2台8手 第1ピアノ:藤井隆史&田崎悦子、
第2ピアノ:町永早紀&白水芳枝>
<休憩>
シューベルト: 人生の嵐 イ短調 D 947 Op.144
<*4手連弾:田崎悦子&藤井隆史>
ラヴェル: マ・メール・ロア
<4手連弾:ピアノ・デュオ ドゥオール&平林咲子&岩井亜咲>
リスト: 交響詩第3 番「前奏曲」
<2台ピアノ:田崎悦子&白水芳枝>

*アンコール(6手連弾:田崎・藤井・白水)
ラフマニノフ:ワルツ
:ロマンス


この「Joy of Chamber Music Series」は、田崎悦子がアメリカ留学時代に経験したマールボロ音楽祭がベースとなっている。ルドルフ・ゼルキンやパブロ・カザルスといった歴史に名を残す巨匠が新進の音楽家と別け隔てなく生活を共にし、アンサンブルを楽しむ、音楽漬けの日々—。これが後の芸術家人生に及ぼした影響は測りしれない。

我が国もピアノコンクール大盛況時代、ひと昔まえに比べてアンサンブルやコンチェルトがコンクールの場に組み入れられることが増えたのは喜ばしいが、熾烈な競争と「受かりやすい演奏」の型から、伸び盛りの才能が自由になることは依然として難しいのではあるまいか。

そうした現状に、ふと凪をもたらすかのような企画である。

シリーズは10回目を迎えるが、ピアノという同一楽器で、デュオと4手・6手・8手を組むのは田崎にとっても初めてであったという。ゲストは日本におけるピアノ・デュオの新境地を切り拓く「ドゥオール」の藤井隆史と白水芳枝。そこに彼らの門下生でもある平林咲子、岩井亜咲、町永早紀の3人が加わった。

アンサンブルが面白くなるのは、各人の個性が際立ってこそ。若きピアニストたちもなかなかうまく配されていたように思う。平林・岩井・町永の各氏に共通して見いだせるのが、伸びやかな音楽性という点。音が美しい。ステージでの押し出しの良さに、すでに将来の大器ぶりを予感させる方もいた。人間性も含めた師の確かな導きが反映されていたといえよう。

ピアノ・デュオ「ドゥオール」には、互いの個性を引き出し補い合う理想的な共犯関係が確立されている。タイム感覚に秀で、演劇的要素もたっぷり、闊達な藤井のピアニズム。包容力とたおやかさに溢れ、乱舞する音を鋭い聴覚センスで束ねてゆく白水。音色が出会い、融合し、シェイプされる際の洗練されたコントロール。楽器の運動性とリンクするかのように、ふたつの個性が絶妙な感覚でチカチカと感応しあう冒頭のドビュッシーから、独特の世界観を堪能できた。残響間の対話までも研ぎ澄まされている。

さて、田崎悦子である。大プロジェクト「三大作曲家の遺言」でも取り上げていたブラームス・シューベルト・リストで参入。田崎の凄さはやはりその直截的なテンペラメントである。ピアノを一種の打楽器とみなせば、まさに音が放たれる一瞬が勝負どころ。その一瞬が含みうる運動能力、ドラマの質量が圧倒的なのである。その戦慄と香気は、そのまま作曲家と演奏家の来し方の力でもあるのだが。揺るがぬ個性と、楽曲から魂が受け取ったものがあまねく提示される表象力、しなやかな身心に一体化した技巧。振幅が激しいほど歓び(Joy)も増す—-求道的かつ獰猛な音楽の源が決然とそこに在る。これからの演奏家たちには、音楽の真のスリルとは何かをできるだけ早い時期に身体で掴みとり、自分だけの音とスタイルを獲得するきっかけにして欲しいと切に希う。(*文中敬称略)

<関連リンク>
http://www.etsko.jp/
http://www.yoshie-takashi.com/

<レヴュー・リンク>
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-4806/
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-4827/
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-4831/

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伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

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