#941 植松孝夫+永武幹子デュオ

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2017年3月18日(土) 東京・北千住 Birdland

Report and photos by Akira Saito 齊藤聡

植松孝夫 (ts)
永武幹子 (p)

1st set
1. Alone Together
2. Body and Soul
3. Blues Walk
4. The Shadow of Your Smile
5. Dindi

2nd set
1. Footprints
2. Lament
3. My Shining Hour(ピアノソロ)
4. Little Sunflower
5. Autumn Leaves
6. Bbブルース
7. What A Wonderful World~ I’ll Send You Good Vibes

永武幹子は1992年生まれ、早稲田大学モダンジャズ研究会出身の新進気鋭ピアニストである。活動は多彩であり、そのひとつが、対照的に経験を積み重ねた大ヴェテラン・植松孝夫とのデュオである。北千住にある親しみやすいジャズバー・Birdlandにおいて、何度目かのライヴが行われた。

筆者にとって、植松孝夫のプレイを観るのはおよそ20年ぶりだ。そのとき植松が共演していた故・浅川マキのことを口にしたところ、植松は、浅川マキが歌うときにはいつも新宿ピットインが満員で酸欠状態になったことや、彼女の独特な口ぶりなんかを、懐かしそうに語った。かつて浅川マキがレコーディングしたとき、植松が「ひとフレーズ吹いた途端」、ベーシストとして参加したボビー・ワトソンが「オー、スゴイ」と言ったという(植松孝夫『Come From With』の浅川マキによるライナーノーツ)。演奏前、植松がちょっとテナーに息を吹き込んだときについ「おお凄い」と呟きながら、その逸話に納得させられてしまう。

この日、演奏した曲それぞれに工夫が凝らしてあり、また、ふたりの個性が反映されていて、とても愉しく刺激的なものとなった。

スタンダード「Body and Soul」では、永武が、デュオの間合いを図って強弱を効果的に付けた。「Blues Walk」はルー・ドナルドソンの有名なブルース曲だが、植松は、ドナルドソンがタメて吹いたトリルの部分において、ドナルドソンとはまた違った雰囲気でレイドバックしたテナーを吹いた。永武も粘っこくタメてタメてピアノを弾いた。「The Shadow of Your Smile」では、左手でベースラインを刻みながらブギウギのように弾くピアノが印象的だった。

植松曰く、永武はデュオで会話のできるピアニストであり、また、サックス奏者としては、ベースラインの音価がたっぷりしていることで吹きやすいのだという。ファースト・セットの終わりに演奏したアントニオ・カルロス・ジョビンの曲「Dindi」では、永武はテーマを確かめるようにゆっくりと弾き、そして、複雑な和音で惑わさせるという、また別の魅力をみせてくれた。

もちろん植松のテナーも昔と変わらない魅力を放つ。同じ音の執拗なリフレイン、駆け上がるようなフレージング、声を息と同時に吹き込む奔流といった「歌声」が、紛れもなく独自のものに違いない。それは、故・清水俊彦の言を借りれば、「持ち上げる力というか、心を奪う力」を持つものでもある(「Jazz Life」、1995年9月号)。

セカンド・セットの冒頭曲は、直前の休憩時間に流されていたレコードの収録曲にちなんで「Footprints」。このレコード『Round Midnight』(1983年)は、奇しくも同じ2017年2月に相次いで鬼籍に入った辛島文雄とラリー・コリエルとの共演盤である。ふたりへの、植松からの追悼演奏でもあったのだろうか。

「Autumn Leaves」では、高音から低音までを満遍なく駆使した永武の目覚ましいソロがあり、そして、植松は、キャノンボール・アダレイの名盤『Somethin’ Else』(1958年)における有名なイントロを引用する遊び心で愉しませてくれた。最後には、「What A Wonderful World」から永武のオリジナルへ。植松は、もはや細かなフレージングよりも、魅力的な音色という最大のテナー表現を全開にした。

魅力が溢れ、今後さらに熟度を高めていくであろうデュオ。いずれアルバムの形に結実することを願う。

(文中敬称略)

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齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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