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Concerts/Live ShowsNo. 229

#945 ザ・チック・コリア・エレクトリック・バンド featuring デイヴ・ウェックル、ジョン・パティトゥッチ、エリック・マリエンサル & フランク・ギャンバレ

The Chick Corea Elektric Band featuring Dave Weckl, John Patitucci, Eric Marienthal & Frank
2017.3.20 21:00 ブルーノート東京 Blue Note Tokyo

Text by Hideo Kanno 神野 秀雄
Photo by Takuo Sato 佐藤 拓央

Chick Corea (YAMAHA MIDI Piano, YAMAHA Montage 8,Moog Voyager, YAMAHA KX-5)
Eric Marienthal (sax)
Frank Gambale (g)
John Patitucci (b)
Dave Weckl (ds)

1. Silver Temple
2. Eternal Child
3. Ished
4. Johnny’s Landing
5. Got a Match?

チック・コリアは、ブルーノート・ニューヨークで生誕75周年記念の2ヵ月に及ぶシリーズ・ライヴ ”Chick Corea 75th Birthday Celebration” を行った。その冒頭を飾ったのが、チック・コリア・エレクトリック・バンド。NHKではハービー・ハンコックとのピアノデュオが放映された。私は『スリー・カルテッツ』、『妖精』バンド (いずれもスティーヴ・ガッド、エディ・ゴメス他)、フラメンコ・ハート (パコ・デ・ルシア・グループのメンバー) を見る機会があり、1941年6月12日生まれで75歳を迎えたチックと往年の仲間たちのますますの健在ぶりと拡張を見せつけた。

聴き始めた時期や好みによって、それぞれのリスナーが持つ「チック・コリア・サウンド」は異なるのだが、チック・コリア・エレクトリック・バンドは比較的活動期間が長く、日本でもこれがチックの原点になっているファンは多いようだ。エレクトリック・バンドは、1985年に結成、1986年には「ライブ・アンダー・ザ・スカイ 2016」に出演、このときは、チック、デイヴ・ウェックル、ジョン・パティトゥッチのコアとなる3人にギターとしてジェイミー・グレイサーが参加。<Ramble>の衝撃は忘れられない。スコット・ヘンダーソン、カルロス・リオスのギターで『Chick Corea Elektric Band』を1986年にリリース。その後、3人に加えエリック・マリエンサル、フランク・ギャンバレに落ち着き、このコアメンバーでは1991年前後まで活動し、並行してトリオでアコースティック・バンド名義でも活動した。その後、メンバーの入れ換えを行いながらしばらく存続した。

京都・銀閣寺の印象を描いた<Silver Temple>からセカンドセットが始まる。どうしてもライヴで聴きたかった一曲。変化に富んだテーマが表現力豊かに響き、バンドのドライヴ感に早くも魅了される。次いでピアノの美しいフレーズから始まる<Eternal Child>。Midiピアノでシンセサイザーも同時に出しているようだ。スパニッシュなギターと哀愁を帯びたサックスのメロディーが印象的で、フラメンコにインスパイアされエモーショナルでありながらテクニックが光る。

セットを通して、その後着実にキャリアを重ねて来たデイヴとジョンは安定感をもってチックを支える。フランクの複数弦を順に鳴らすスウィープ・ピッキングによる高速プレイも健在だった。そしてエリックのサックスによってバンドに明確な声が加わる。エレクトリック・バンドの当時の興奮が甦るライブに客席は熱狂し、そして、クライマックスではお馴染み、ロドリーゴ<アランフェス協奏曲>第2楽章のメロディーを観客に歌わせて、この流れは<Spain>かと思わせつつ、いちばんの人気曲<Got a Match?>へ。チックは引き続きショルダーキーボードKX-5で参加し、ソロの応酬が続き、デイヴのドラムソロが炸裂して、熱狂のライブを終えた。

1980年代の熱いライヴを再現し、期待に応えた100%の公演なのだが、そこは巨匠でありコミュニケーションの達人チック・コリアにはやはり120%を期待してしまう。実際、Trilogy でも、小曽根真とのデュオでも期待の先にある世界を見せてくれたが、今回は30年間の名手たちのキャリアを経て”その先”が見えにくかったと思う。もちろんデュオ、トリオとの比較は難しいのだが。それとサウンドにわずかに違和感を感じた。

強いて思いあたった点が二つある。エレクトリック・バンドにおけるチックのメインの声は、実はシンセサイザーではなく、フェンダー・ローズ (Fender Rhodes、電気ピアノ) だった。これは『Return to Forever』を特徴づけ、それ以降のRTFから『Friends』などに至るまで引き継がれている。今回はデジタル・シンセサイザーYAMAHA Montage 8がその音を出していた。ただ、ある種の不完全性、不安定性も含めた中で味が出てくるローズの生む不思議な響きとグルーヴ感には及ばなかった感は否めなかった。忙しいツアーであればシンセでやむを得ないと思うが、チックであり、5日間10セットあるブルーノート東京公演なら用意する価値があったのかも知れない。そしてシンセサイザーの音質にどこまでもこだわった使い手であったり、シンセの革新者というよりは、ピアノの名手であるチックであれば、実際に後期にそうであったようにアコースティック・ピアノをより多用してもよかったのではないか。

また、1980年代フュージョンでは一般的だが、キメが多い中で、順番にソロを回して行く、ただ、バンドが混然となってインタープレイをする幅、方向性までを含めたゆらぎの余裕が制約されていると感じた。これはチックを批判しているのではなく、実際、1990年前後のエレクトリック・バンド&アコースティック・バンドはこのような点に配慮されながら、一定の自由度が確保されていたように思う。最近、坂本龍一が「同期しない音楽」という概念を言っていて、意味は違うかも知れないが、ただ、チックの他のフォーマットに比べて、同期が外れまたはずれて自由が生まれる余地が難しかったのは事実だ。

鮮やかなテクニックに圧倒される曲、サウンドに拘らず、今、メンバーが快適に楽しめる音楽を改めて考えてもよいと思う。言うまでもなく、繊細で自由な最高の演奏の中でケミストリーを生み出すことができる名手たち、チック、デイヴ、ジョンのトリオに、最高のソリストのエリックとフランク。次の機会を楽しみにしたい。

【関連リンク】

Chick Corea official website
http://chickcorea.com

【JT関連リンク】

Chick Corea Trilogy with Avishai Cohen and Marcus Guilmore
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-10031/

Chick Corea and Stanley Clarke Duo Concert – Sapporo City Jazz 2013 Selection Live
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report548.html

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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