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Concerts/Live ShowsNo. 234

#969 「注目すべき人々との出会い」を求めて

text by 金野 “onnyk” 吉晃

第38回 下田フリーコンサート「スピリッツ・リジョイス」
2017年8月26日

毎年8月最終土曜に開催される伊豆下田のフリーコンサート「スピリッツ・リジョイス」。今年で38回目ではあるが、私は何も期待していない。いつも同じと言えば同じだ。継続は力なり、だが。

下田市市民文化会館小ホールに関東一円から演奏家が集まって来る。午後2時あたりにセッティングが終わり、1時間弱、庄田次郎さんの「曲」を十曲くらい「練習」する。まあ大体譜面には書き込まれているが、じつは既成曲の焼き直しであるのは誰の目にも明らかだし、タイトルからして元の曲の駄洒落になっている。リズムやスタイルを変えているが、もう何年も聴いているから、申し訳ないがリハに参加する気もない。毎年新たに参加する人がいるからやらざるを得ないのだが。

庄田さんとしては、これらの曲がモチーフになって多彩な即興が花開き、盛り上げたいのだ。即興演奏を大きな要素にしたビッグバンド。またそれをバックにパフォーマー、ダンサー達があれやこれや、というイメージだし、実際彼が声かけ連れて来る連中はその意識でやっている。

午後3時開演。ここから2時間半程度のフリーセッション。いわば「申し合い」か「お手合わせ」。自分の楽器の音量がどれくらい響くかを知るにも必要。馴染みのPAエンジニアがいない。どうやらこれも世代交替したらしい。ドラマーは、セットを持って来た人が2人。パーカッショニストは数人いるが、ビリンバウや和太鼓も。和太鼓を持って来る人は意外に多い。庄田さんもレギュラーで組んでいたコンボに入れていたことがある。

毎年、楽器の割合が変るのも面白い。サックスだらけだったり、エレキギターばかりだったり。意外にベースはエレキも生も少ない。二人以上を見たことが無い。声のパフォーマーも結構来るがほとんど女性。パソコン持参も稀に見る。しかしこの企画の雰囲気には違和感がある。

毎年演奏者の顔ぶれは次第に変化していくのに、演奏は代わり映えしない。しかし、新旧交代も繁く、数年もすると全く同じ人がいないほど。私は十年程前から、ぼつぼつと行ってるが、当時の面子で今も来る人は庄田さんと、伊豆在住の3人(毎回のポスターデザイナーでギタリストの方、パーカッションの方、その相方のフラメンコダンサーなど)、そして庄田さんの40年来の付き合いのニュージャズ・シンジケートの方(ビオラとトロンボーン)など。ことごとく、スタッフも変化した。あ、私自身を忘れていた。その意味では古株になってしまったかもしれない。

庄田さんは今年67歳になるが、還暦記念ライヴに参加したのが、つい最近と思っていたのに7年経ってしまったし、かく言う私が還暦となってしまった。

じつは最初に行った時が一番面白かったし、自分としては最高の演奏の一つが録音できた。それはピアノの内部奏法をがんがんやったときだが、たまたまホールの係員がいなかったのでできたことで、それ以後できなくなった。ほんとに内部奏法はきらわれる。

また、その演奏の時、たまたま一緒にやったドラマーのセンスには脱帽だった。かなりのキャリアがある年配の人だったが名前が未だ不明。明らかに私と彼の「会話」で進んでいる。すごい共感を得たのだった。そして演奏後「ありがとうございました」と一言交わしただけで、彼はにっこり笑ってその場を去り、その後会っていない。

どう?かっこよくない?たった一度のお手合わせだけの二人。ずっとマレットだけを使っていたし、シンバルは極めて抑制的に使っていた。達人という言葉がぴったりだ。もし、またやりたい相手があるとすれば彼だ。それ以上の演奏は、その後数回行っているけれど無い。

結局、どれもこれも大音量合戦。俺、うまいだろう的なパワーやテクニックや、そしてクリシェの連発。マンネリ的即興の持続。そんななかでも光る奴はいる。

サックスの「ひしょち」、名前を忘れたが俺に一節切をくれた尺八奏者(神職でもある)、そしてカリンバのヒロユキ。こういう手合いを見つけ、話すのが楽しい。

今回、俺のサクセロに目を付けてきたサックス奏者がいた。彼に吹かせてみたらとても喜び、一緒にやろうという。東京からチェロ奏者と一緒に来たという。彼らの音は周囲と違っていた。一応即興的なアンサンブルを求めていることがわかる。曲もやっているようだ。テクニックもある。しかしどうも方向性が定まらないのと、チェリストがとまどっているのがわかる。サックス奏者の積極性と対照的に、とても物静かな感じの人だ。

庄田さんは独立したバンドやユニットの演奏をあまり喜ばない。全体の中で、各自が出てくればいいのだという。私はそうは思わないのだが。

庄田さんが特別に時間をくれたというので、このデュオ、自分たちだけで始めたが、その直前に私に「一緒にやりませんか」といってきた。サクセロのことだけでなく、じつは私が他と融和的なことをやっていないのを分かったのだろう。

最初二人が、バスクラとチェロで手探り的な演奏。そしてチェリストはピアノに、バスクラはソプラノサックスに移行、それを合図にしていたので、私がサクセロで参加。敢えてピッチの無いような音から始めた。するとソプラノはすぐ反応し、自分もそうする。私は逃げる。彼も追いかけて来る。また逃げる、その繰り返しのなかで私は自作楽器に移行。

フルートの管体にテナーのメタルマウスピースを付けた。サウンドは低音のクラリネット。かなりいろいろな音が出て気に入っている。前例は幾つかあるタイプだ(本木良憲さんもやっていた)。私は「フラックス」とも「サリュート」とも言っている。

そのうちサックス奏者は自分のペースになってピアノもようやくついてくる。そして一瞬の合致があって終了。半予定調和的十分間。

コンサートは毎回同じように始まり、同じように終わる。顔ぶれも変って行くし、演奏者、観客の区別も曖昧だ。もちろん地元からも遠方からも聴衆が来ないわけではないが。こう思い直すと、これはひとつの「夏祭り」と考えても良い。この晩、遠方からの演奏者は、伊豆山中の静かな地域にある寺に泊めていただく。手作りの料理も嬉しい。私はヴィーガン料理はちょっと苦手だが心づくしは感謝したい。住職は若く、これからもどんどん地域の盛り上げに利用してほしいという。

朝まだき、スタッフに送っていただき、下田発の最初のスーパー踊り子に乗る。下田は好きな町だ。失ってしまった第二の故郷、陸前高田に似ているからだ。墓参りではなく、夏祭りに参加するため、また何年か後に来るだろう。

 

ピース・フェスティヴァル 新宿落合公園
2017年8月27日

以前下田で出会ったカリンバ奏者、ヒロユキとはとくに親しくなり、この数年、盛岡にも2度きたし(彼は大阪出身だが、北海道、東北をよくツアーしている)、いつもこの下田のフリーコンサートの翌日の日曜に開催される、新宿落合公園のピース・フェスティヴァルの常連。そのステージに私を誘ってくれる。

今回、彼は下田に来なかったが、27日落合公園で落ち合った。今回の祭りでは彼のグループが結構きっちり演奏したため、それへの参加はできなかった。毎回じつにいろいろな面子を連れて来る。彼の交遊範囲はほんとに広い。参加自由のステージでは、変な管楽器、サリュートを中心に演奏させてくれた。珍しさは力なり。

ヒロユキの演奏は天才的なものを感じる。彼はカリンバを決してアフリカ由来の“サムピアノ”という意味では演奏しない。彼自身の楽器にしているのだ。勿論そのバリエーションには色々研究しているし、どんなカリンバでも彼自身が手を加えて演奏する。またコンタクトマイクをつけ、少しエフェクターで色づけして小型のアンプで出すスタイルを確立している。

批判的にみれば全体にまとまりすぎの、予定調和な演奏ではあるが、ある意味ブルーズだと思えば良い。私は好きだ。人間的にも面白い。また今回初めて彼の葛藤ともいえる話を聞けたのが面白かった。何故だかいつも彼とは移動しながらの話ばかりだ。現地に着くとそれぞれの知人がいるから話は続かないのだ。

今回も落合から南青山までの短い距離だが、えらく苦労して息を切らしながら移動した。南青山では彼の知人が小さな画廊、アートスペースを運営していて、細長い部屋なんだが、開設一周年のイベントということで20人くらい入った。事前に連絡していたので私の友人達も数人きてくれた。

以下、ネットでの告知より。一部省略あり。

Art & Spaceここから 1周年を記念したイベントを開催いたします。

Art & Space cococara 1st anniversary
HEAD art EXHIBITION
-新たなるかたちへの挑戦-

下北沢の先鋭的な美容室Planksterの全面協力のもと、期間中、アーティスティックなヘッドピース展示、デモンストレーション、トーク、ライブイベントを行います。

Planksterオーナー岩野氏、VELTZ(アナログTV)、B.Z.G.D.の三者のコラボレーションによるヘアショー、最終日はVELTZオーガナイズによるライブイベントと見どころが満載です。

また期間中、スペースBにて念形師 家元 須永健太郎の作品展示「念形師 家元式 形代式神展」も開催されます。

(こちらは入場無料です。8/27(日)のライブイベント時間帯は有料になります。)

8/27(日曜) ライブイベント
19:00 start

橋本孝之(.es)
VELTZ
ラヂオ Ensembles アイーダ
Hiroyuki
念形師 家元 須永健太郎
Onnyk(盛岡)+入間川正美

パフォーマンスは、画廊の主である松岡氏(VELTZ)のアナログテレビの画面とそのノイズだけを用いる。それをコントロールするのは、劇場などで用いられる照明用の調整卓。パルス的なノイズが出るのを利用して、それがテクノのリズムに聞こえて来る。彼曰く「エフェクターは一切使ってません。コンピュータもです」というから、古い機器同士の干渉があるらしい。小は数インチ以下のモニターから大は20数インチの、ほんとに昔の家庭用テレビの、曲面の懐かしい画面が、20個くらい並んでいる。調整をどうやっているかわからないが、ある種、音楽になっている。非常にハードコアなテクノイズだ。その光の明滅、意外にも多様な画面(全てモノクロ)の変容に圧倒された。

私が思い出したのは、トニー・コンラッドのエポックメイキングな傑作「フリッカー」である。彼は実験映画作家にしてミニマルミュージックの元祖の一人、ドイツのバンド、ファウストとも共演、来日して世田谷美術館で全作品を公開した。幸運にもそれを見ることができたし、わずかだが話もできたので印象深い。

次は短波ノイズを受信する古いラジオだけを用いた女性のパフォーマー。しかし客席には背を向け延々ラジオを操作する。古いポータブルレコードプレーヤーにラジオを一台乗せ、回転を変化させながらパルスノイズやスウィープする変化を楽しめる。ダイナミックさはテレビのそれよりないが、催眠的な良さがあった。

そして自作楽器のパフォーマー、須永氏。これはバグパイプの類であるが、素材の組み合わせはすべて自作。空気を溜めるバッグは体操用のバランスボールである。直径が70センチくらいあるものを一杯にすると、20分くらいの演奏が可能。鳴るリード付きパイプは長短とりまぜ十本以上。使われるパイプのピッチが共鳴したりうなりを生じたり。低音は部屋全体に響く。私はこういう演奏が好きだ(事例は世界に幾つかあるので、ちょっと蒐集もしたが)。楽器全体の見た目も面白い。やはり美術作家は見た目が良いものを作ると感じた。

そしてヒロユキのカリンバ・ソロ。日本の伝統的音階に調律したものや、かなりノイズまじりのタイプ(これが面白い)、一回の演奏は数分くらいで多様な響きを聴かせる。ピアノ調律師の会合で演奏したことやTED東京に出たときの話も聴いた。

次は関西出身のサックス奏者、橋本氏が特殊ギターを演奏。まあ私も時々ギターはやる。構造がシンプルで、工夫や加工が音に直結するのが面白いから。橋本氏のギターは、サウンドアートでは有名な藤本由起夫さんの作品。アコースティックギターのボディ内部に改造されたオルゴールが数個仕込んである。それを鳴らしながら、ギターの弦をレコードで引っ掻いたり荒っぽいことをやる。しかしそれほど音響に目新しい訳ではない。むしろ演奏するという行為が強調されているのは、元々管楽器奏者ゆえだろうか。

最後に私と、入間川さんのチェロ。今回はただのデュオではなく、二人の間に折りたたみ式のパーテーションを置いた。其の理由は、効果は?説明できるが今はしない。いずれ入間川さんは俺にとっていまのところ最も刺激的な演奏家だ。彼にとって俺はそうでもないはずだが。その意味では彼は私の環境設定のひとつである。対等な共演関係ではないように思う。私が演奏することにとってそれが大事だった。申し訳ないが、入間川さんにとってではなく私に、である。だからこそ一緒にやってもらった。この辺、何とも言い難い。

このデュオ演奏、ぴったり予定通り20分だった。じつは最近、予定時間通りの演奏ができている。時間芸術としての音楽において、これは非常に大事なことではないか?しかも楽曲ではなく、即興演奏のアンサンブルでそれができるということは?

 

9月1日、誘われて、盛岡のクラブでのあるパフォーマンスを見た。これは良かった。逆さまにしたポリバケツだけで演奏するというのだ。

驚いたことに、後で知ったのだが、バケツドラマーというのは、もはやひとつのジャンルになりそうな勢いだ。確かに、ディズニーランドで清掃用具を演奏するパフォーマンスもあったし、プロ集団の見せるパフォーマンスとして世界を回ってるような例ある。日本ではもう何人も路上で演奏するバケツドラマー達がいる。その楽器はポリバケツ、タイヤのハブキャップなど。

今回、盛岡のクラブ”CRATES”で出会ったMASAは、それだけでなく、金属製の道具箱なども用いて、かなりのテクニックで叩きまくる。しかし、驚いたのは、通奏低音として、彼自身が同時に手製のディジュリドゥを吹くのだ!勿論サーキュラーブリージングで!これがかなり巧い。ドラミング以上に巧いんじゃないだろうか。いずれブオイブオイと鳴らしながら高速で確実なビートを刻みまくるんだから参ってしまった。45分ぶっ通しでやってくれた。まあ世の中には、なかなか優れた人がいるものだ。ただ、あまりにも完成されていて、今後どう発展するのかなと思った。サウンドとしては昔のサム・ベネットやデヴィッド・モスみたいな感じ。

という具合で、私の2017年の夏は過ぎていったのです。

金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。「第五列」の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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