#974 N響JAZZ at 芸劇

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NHK Symphony Orchestra, Tokyo – Jazz at Tokyo Metropolitan Theatre

2017.8.19 (土) 東京芸術劇場コンサートホール Tokyo Metropolitan Theatre, Concert Hall
text by  Hideo Kanno 神野秀雄
photo by Hikaru.☆  (Hikaru Hoshi)

ジョン・アクセルロッド John Axelrod 指揮
NHK交響楽団 NHK Symphony Orchestra, Tokyo
塩谷 哲 Satoru Shionoya, piano*

John Axelrod, Conductor 指揮
Satoru Shionoya 塩谷 哲, Piano* ピアノ*
NHK Symphony Orchestra, Tokyo NHK交響楽団

Dmitri Dmitrievich Shostakovich: Tea for Two (Tahiti Trot) op.16
Dmitri Dmitrievich Shostakovich: Jazz Suite No.1*
1.    Waltz  2. Polka  3. Foxtrot
Chick Corea: La Fiesta* (Arr: Tim Garland)

EC. Satoru Shionoya: Life with You

–     休憩 Intermission –

Leonard Bernstein: Three Dance Episodes from “On the Town”
1.    The Great Lover
2.    Lonely Town: Pas De Deux
3.    Times Square: 194

Leonard Bernstein: Symphonic Dances from “West Side Story”

1   Prolog
2   Somewhere
3   Scherzo
4   Mambo
5   Cha-Cha
6   Meeting Scene
7   Cool
8   Fugue
9   Rumble
10  Finale

EC. Mambo

 

 
 
 

 

マエストロ・ジョン・アクセルロッドを招聘し、東京芸術劇場(池袋)で開催されてきた「N響JAZZ at 芸劇」。初回2015年はニューヨーク在住クラリネットの大島文子をゲストに。2016年は山中千尋でオール・ガーシュウィン・プログラム。ジョンは、1966年3月28日テキサス州ヒューストン出身で、6月8日生まれの塩谷哲と同い歳だ。ハーバード大学を卒業後、指揮をレナード・バーンスタインに師事。ジャズとそのオーケストレーションをライル・メイズに師事!?パット・メセニー・グループの曲とサウンドを共に創ってきたあのライルだ。「実はさぁ、ボクの先生だったLyle Maysにね、今度Satoru Shionoyaと共演するよ、って言ったら、ワオ!彼の音楽好きだよ、いいなー、じゃぁボクとはいつオケで共演してくれるんだよ、だってさ」と、塩谷への挨拶もそこそこにジョンが語ったという。

塩谷哲は、東京藝術大学作曲科中退で、同級生に、映画・ドラマ音楽で活躍する岩城太郎、SMAP<夜空ノムコウ>の作曲者、FUNKY MONKEY BABYS<あとひとつ>でのレコード大賞作曲賞受賞でも知られるシンガーソングライターの川村結花がいる。14歳で作曲した<海溝 A Deep>が吹奏楽やエレクトーンのスタンダード曲として今でも演奏され続けるなど早熟過ぎる才能を発揮。1984年結成のオルケスタ・デ・ラルスに参加して、現地、南北アメリカから注目を浴び、グラミー賞ノミネート、紅白歌合戦出場、国連平和賞受賞の名誉に輝く。1993年にファースト・アルバム『SALT』をリリースして以降、数々の名曲を作曲し、山木秀夫、井上陽介との塩谷哲トリオ、大儀見元、田中義人らとのSuper Salt Bandなど自身のプロジェクトの他、小曽根真、佐藤竹善、絢香、今井美樹、上妻宏光らとの共演をはじめジャンルを超えて活躍している。最近では、NHK Eテレのパペット・バラエティー番組『コレナンデ商会』の音楽を担当し、そのアルバムが発売されたばかりだ。

前半はドミートリイ・ドミートリエヴィチ・ショスタコーヴィチ (1906〜1975)のジャズの取り組み。20世紀のジャズを見届けた私たちからすれば、彼の”ジャズ”作品は、今のジャズとは違う何か残念な感じがするかも知れない。同様に、モーリス・ラヴェル<ヴァイオリン・ソナタ>の第2楽章<ブルース>だって、「え、それがブルース?」というものだ。しかし、100年前、ジャズの創世記、ようやくレコードが生まれ、インターネットも大西洋航空路もない時代に、リアルタイムで届いた得体の知れない音楽に即座に反応し、模倣ではなく、脳内で再構築し自分の作品にした天才たち、それはまさにジャズのあるべき姿そのものだ。ヴィンセント・ユーマンズ原曲の<Tea for Two>はそれを象徴するようなエピソードとともに生まれた。1928年、指揮者ニコライ・マリコ(1883-1960)のもとでショスタコーヴィチが輸入レコードで<Tea for Two>を聴いていると、指揮者は記憶だけを頼りに採譜し1時間で編曲してみないかと賭けを持ちかけ、45分以内で書き上げたのがこの作品。ジャズとクラシックを体内に持つジョンだからこそ、N響から時代を超越した華やかでお洒落なサウンドをひきだし、ショスタコーヴィチのジャンルを超える巧みさを見せつける。

<ジャズ組曲 第1番>から塩谷が参加。ソプラノとアルトサックスの持ち替え、テナーサックス、トランペット2、トロンボーン、バンジョー、スティールギター、ピアノ、ヴァイオリン、コントラバス、打楽器群という編成。塩谷は団員の一人としての役目を淡々と果たし、ショスタコーヴィチのサウンドをマエストロの下で再現することを楽しんでいるようだ。

ハイライトは、塩谷がソリストを務めたチック・コリア作曲<La Fiesta>、『Return to Forever』(ECM1022, 1972年)に収められた名曲。先日、数十年ぶりでスペインの夏に身を置いて、超個人的にスペインを連想した最初の音楽は<La Fiesta>だったと再認識したばかり(もうひとつは『Paco de Lucia Sextet / Castro Marin』)。高校のジャズ研でやっていて、たぶん初めて演奏したチックの曲。

今回の演奏は、『Chick Corea & Gary Burton / The New Crystal Silence』(Concord, 2007年)のバージョンに塩谷が手を加えたもの。ティム・ガーランドによるオーケストレーションで、このアルバムはグラミー賞を受賞している。コンサートの告知にもプログラムにもティムの名前がないのはちょっと残念。

N響団員の視点ではここに至る大事件が2016年5月14日〜15日、NHKホールで起こる。モーツァルト『2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365』で、N響、チック・コリアと小曽根真は、作曲家のスピリットと即興を巧みに織り交ぜた素晴らしい世界を魅せた。アンコール曲<Spain>はデュオで演奏され、チックのオリジナル曲で、ふたりにしかできない音楽の魔法と奇跡を見せつけられ、時間と空間を共有しながら、そこにダイレクトには関われなかったジレンマ、そのChickの音楽と即興の世界とオーケストラの響きあいをあらためて共有して、出会いの環が閉じる機会になったと思う(5月14日の演奏はNHK-FMで放送された)。

そんな、チックの音楽、塩谷、団員を有機的に結びつけ、組み立てて、グルーヴとダイナミックスを生み出して行くマエストロ。ティム・ガーランドの編曲は、オリジナルのモチーフを忠実に活かし保ちながら、巧みな編曲でさまざまな場面、表情を形作り、大きな宮殿の部屋から部屋を巡って行くような、あるいはパラレル・ワールドや小宇宙を次々に旅して行くよう。ジョンに身を委ねて、ティムが提示する場面を自由自在に泳いで、ページをめくるように旅して行くソルトのピアノの音が藝劇の広い空間に広がって行った。弦楽器も管楽器も、ときにはべたにかっこよく、ファリャやラヴェルがやりそうな気の効いた仕掛けもあったりして、演奏しながらステージ上で聴く、つまり演奏者にとってとても幸せな音響だと思った。

鳴り止まない拍手に、アンコールは塩谷作曲の<Life with You>がピアノソロで演奏された。『S・A・L・T』(BMG, 1993)が初出で、この録音にはストリングスも加わる。2004年10月5日、調布市グリーンホールでの『リチャード・ストルツマン&塩谷 哲. Back to Bach』でもダブル・アンコールで演奏され、その後、リチャードが会うたびに「<Life with You>は素晴らしい曲だ。」と絶讃していた珠玉の一曲。今回のアンコールを選ぶにあたり、リチャードが気に入っていってくれたことが少し影響したという話も。武満徹やオリヴィエ・メシアンと音楽を創ってきたクラリネットの巨匠が絶讃するだけに、コンサートホールにあって、クラシックの名曲に決して負けることのない響きを持つ名曲であり、透明でシンプルでありながらレイヤーが重なり合い移ろって行く美しいサウンドを静かに放っていた。マエストロも本当に気に入ってくれたという。

後半は、間もなく生誕100年を迎えるレナード・バーンスタイン(1918〜1990)のミュージカル関連作品。1944年の『On the Town』はレナードの最初のミュージカル。そして1957年初演の名作『West Side Story』。レナードの弟子ジョンが振るだけに、時代の空気感と、原曲の持つグルーヴを巧みに表現する素晴らしい演奏となった。

「N響Jazz at 芸劇 2017」は、クラシックコンサートの基本形式、序曲、ピアノ協奏曲、休憩、交響的作品という配置に従っているが、そうすると「活きたジャズの演奏」の後に「ジャズ的な音楽」が来る構成になる。2016年は山中千尋の出演がコンサート後半になっていたし、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017でも、小曽根真とエリック・ミヤシロの<ボレロ>を後にして熱狂でしめくくったように、休憩の前後をひっくり返した方がよいと思う。せっかくの素晴らしい作編曲家・ソリストを本格的にフィーチャーするプログラムでもよいのではと思った。5月28日に浜松で開催された『大河ドラマ「おんな城主 直虎」コンサート~戦う花・直虎の愛~』コンサートでは、角田鋼亮指揮、セントラル愛知交響楽団との共演で、塩谷作曲の<Spanish Waltz>のピアノ・コンチェルト版の情熱と哀愁に溢れた演奏が披露され、全国にオンエアされた。オーケストラが奏でる<Life with You>も聴きたい。今回の出会いを心から歓び、塩谷との共演を重ねたいと言うジョン。今後の共演と、塩谷のさらに広がって行く世界に期待したい。

【関連リンク】

塩谷哲 公式ウェブサイト
https://www.earthbeat-salt.com/

John Axcelrod official website
http://www.johnaxelrod.com/

N響JAZZ at 芸劇 2017
http://www.geigeki.jp/performance/concert111/

NHK『コレナンデ商会』
http://www.nhk.or.jp/kids/program/korenande.html

NHK「コレナンデ商会」アレナンデコレナンデ
https://wmg.jp/artist/korenandeshokai/WPCL000012741.html

『大河ドラマ「おんな城主 直虎」コンサート~戦う花・直虎の愛~』コンサート
http://www.nhk.or.jp/shizuoka/naotora/report/detail/20170728.html

 

【JT関連リンク】

塩谷哲トリオ “ライヴ 2014”
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report726.html
AGA-SHIO ヨーロッパツアー
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report703.html
塩谷 哲 ~solo debut 20th Anniversary series~〈Part Ⅱ 〉 “Dialogue” 〜special 3duos〜
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report586.html
塩谷 哲 Satoru Shionoya with Super Salt Band
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report532.html
塩谷 哲 “Forward” the premium piano concert ~special guest 小曽根 真~
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report620.html
塩谷 哲/アロー・オブ・タイム Satoru Shionoya / Arrow of Time
http://www.archive.jazztokyo.org/five/five975.html
ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 2013 「パリ。至福の時」 #147小曽根 真&塩谷 哲 「パリ×ジャズ」
http://www.archive.jazztokyo.org/live_report/report528.html

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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。東京JAZZ 2014で、マイク・スターン、ランディ・ブレッカーとの”共演”を果たしたらしい。

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